【Global Economy】(53) 習政権、投資から消費主導へ…中国構造改革、カギ握る男

中国の習近平国家主席が、経済構造改革『供給側の改革』を進めている。カギを握るのは、習主席の信頼が厚い1人の男だ。その行方には、共産党の一党独裁体制という壁が立ちはだかる。 (本紙編集局次長 佐伯聡士)

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習主席の地方視察に影のように付き従い、外国要人との会談に同席する。経済畑出身とは思えない鋭い目つき。言葉は北京出身だけに、鈍りのない標準語だ。低音でゆっくりと話す様子は自信に満ち溢れている――。習政権のマクロ経済政策の司令塔である党中央財経指導グループ弁公室(事務局)主任の劉鶴氏(65)のことだ。劉氏を知る日中関係筋が印象を語ってくれた。習政権は、来月中下旬の党大会で2期目を迎える。党内では、「劉氏が指導部を構成する政治局員に昇格し、経済担当副首相等の要職に就く」とも囁かれる。「彼は、私にとって非常に重要なんです」。2013年5月、習主席は、訪中したアメリカのトーマス・ドニロン大統領補佐官(※バラク・オバマ政権)と会談した際、傍らの劉氏をこう紹介したとされる。ここから、習主席の重用ぶりが窺える。劉氏はハーバード大学でも学んだ改革派の経済官僚だ。1990年代後半には、著名な経済学者と共に『中国経済50人フォーラム』という名の政策ブレーン集団の結成を主導したことでも知られる。こうした活動等を通じて、朱鎔基元首相や、習主席の盟友である党政治局常務委員の王岐山氏ら政界の実力者と太いパイプを構築し、軈て習主席の目に留まったのではないかとみられる。劉氏が一躍“時の人”になったのは、昨年5月の党機関紙『人民日報』に掲載されたインタビュー形式の記事が発端だった。“権威人士(権威筋)”を名乗る謎の人物が、供給側の改革の遅れにあからさまに不満を示した。この人物が習主席の権威をバックにした劉氏であったことを否定する声は、今や少ないだろう。権威筋はこの記事で、「中国経済は(減速後、低成長が続く)L字形になる。1~2年で終わるものではない」との認識を示した。

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インフラ投資の拡大によって景気を下支えする従来の手法に対し、「嘗てのような需要刺激の道を辿れば、市場は疑念を抱くだろう」と明確に反対した。習主席は、投資中心の高成長から、消費主導の安定成長へ移行させる“新常態(ニューノーマル)”を目指している(※グラフ①)。その実現の為に、この記事を利用し、供給側の改革のエンジンをふかす狙いがあったとの見方が支配的だ。背景には、経済が中所得国のレベルで停滞し、先進国入りできない状況が続く“中所得国の罠”に陥るのを防ぎたいという習主席の思惑があるとみられる。昨年から今年にかけ、劉氏のシナリオに沿って政策が進んでいるようだ。実際、新産業育成の分野等では、目立った変化が起きている。昨年、新たに登記された企業は、前年比24.5%増の552万8000社となった(※グラフ②)。金融(ファイナンス)と、スマートフォン等の技術(テクノロジー)を組み合わせた革新的なサービス“フィンテック”の分野は、著しい成長を見せている(※グラフ③)。過剰生産設備の解消でも、一定の成果があったとされる。切り込めていないのは、供給側の改革の本丸である国有企業改革だ。中国の企業債務残高は、昨年末時点で123.5兆元(約2000兆円)、対国内総生産(GDP)比で166%に達している(※グラフ④)。債務は、銀行融資・社債・シャドーバンキング(影の銀行)等を合わせたものだ。この数学は、95%程度の日本と比べても相当大きいと言える。しかも、「債務の大半は国有企業が占めている」との分析もある。『国際通貨基金(IMF)』も、先月15日に発表した中国経済に関する年次報告書で、企業だけでなく、政府や家計も含めた過剰債務の膨張に警鐘を鳴らした。債務が膨らむのは、インフラ・エネルギー・製造業等、幅広い分野に及ぶ国有企業を支える金融システムの不健全さが原因だ。

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金融機関は政府保証を見越して、国有企業の経営に対するチェックがどうしても甘くなる。その結果、返済能力を上回る規模の債務が生まれる。過剰債務を抱えた企業が増えれば、生産性を押し下げ、経済成長の低迷にも繋がりかねない。習政権は、大型国有企業同士の合併を進める一方、債務の株式転換等を活用することで、債務を削減しようとしている。ただ、金融機関の貸し出しを厳格化したり、地道に企業債務を圧縮したりする取り組みが進んでいるとは言えない。政府は7月末、年内に全ての国有企業を株式会社等に移行させる方針を示した。株式を持たない“全民所有制企業”と呼ばれる旧来型の国有企業を、株式会社等に転換するという。だが、国有企業の民営化はこれまで、中小型の企業に限られ、大型企業では進展が見られなかった。大型企業には党幹部の子女等が関わり、派閥の利益が複雑に絡み合っている。習主席の本音は、「一党独裁の根幹である国有企業の既得権益に、大胆にメスを入れてまで体制を揺るがしたくない」ということだろう。国有企業改革の行方は、体制が抱える矛盾から、悲観的にならざるを得ない。特に懸念されるのは、党が企業経営に介入するケースが少なくないことだ。最近は、海外企業の合併・買収(M&A)に積極的だった一部大手企業に対し、経営トップの拘束や買収案件の調査等、締め付けを強めている。こうした一罰百戒を狙った強権的手法は、市場経済システムに反するのではないか。これでは、日米や『ヨーロッパ連合(EU)』が中国を“市場経済国”と認めないことに反発しても、国際社会の理解は得られない。2期目の政権で更なる重要ポストに就く劉氏が、体制の限界を前に、どこまで改革を加速させられるのか、注視する必要がある。


⦿読売新聞 2017年9月8日付掲載⦿

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