【オトナの形を語ろう】(40) 勝つことだけを考えて向かう勝負は先ず敗れる

今週は、先週の最後に話した“ギャンブルのフォーム”について少し話そう。初心者のギャンブルが勝つ確率が高いことは話した。そうしてギャンブルに魅せられ、続けていくと、軈て勝てなくなる。勝てない原因は、競馬なら馬券を当てに行くことしか見えなくなるからで、麻雀なら、その局面局面を全て取りに行く(勝ちに行く)からである。当人の目が、最初の頃は勝つとはどういうことなのかさえ具体的にわからなかったのが、「勝つとはこういうことだ」とわかったように思い、結論として、「金が増えればイイ」という考えが、思考の全てになるからだ。確かに、ギャンブルに勝つとは、結果として金が増えることなのであるが、更に言えば、一攫千金というか、大金が自分の懐に入ってくれば、それに越したことはないのである。面白いことに、そう考えれば考えるほど、当人の手元に金は流れて来ないのがギャンブルである。「勝とうとするから勝てない」と書いたが、基本は勝とうとしなければ勝つ訳がない。何やら矛盾して聞こえるが、私が言っているのは、「勝つことばかりが思考の全てで目の前のギャンブルに向かって行けば、それは勝てない」ということだ。そういう姿勢を“前のめりで打つ”とギャンブルでは表現する。「オイオイ、そんなに前のめりで打ってちゃ、そのうち倒れるし、第一、手元が見えていないだろう」とギャンブルのべテランたちは言う。

未だ言われるうちはイイほうで、対人のギャンブル(※麻雀・ポーカー等)なら、前のめりの相手は絶好のカモになるので、そんな親切に忠告する者はいない。折角のカモをべテランが逃す筈がない。ギャンブルに揉まれて来た連中なら、“前のめり”が目の前に来たら必ず叩く。叩いて、叩いて、叩きまくる。「えっ、伊集院さん、ギャンブルをする人って、皆そういう人たちなんですか?」。そうである。これはまた後で話すが、ギャンブルをする者は自分一人が勝てば、それでイイのである。この極めて利己的で、自己中心の考えがギャンブルの根底にはある。これがギャンブルの厄介な点であり、真実の姿でもある。話を戻して、「勝とう」とだけ考えて勝負に向かえば、先ず敗れる。“前のめり”もそうだが、バランスを失っているのである。別にギャンブルでなくとも、バランスを失っている者は、仕事であっても上手くいかない。バランスを失っている者に「バランスを取れ」と言っても、簡単にできるものではない。――では、どうやってバランスを体得するか? そこでフォーム・型が必要になってくるのだ。フォーム・型とは何かを知りたければ、相撲の力士の戦い方を見てみればイイ。立ち会いから直ぐに突っ張り、前へ前へ出る“押し相撲”。軍配が返っても、ドンと構えて相手を受け、がっぷり四つに組んでから自分の相撲を取る“受け相撲”。その体勢から相手を投げる“投げ相撲”。かと言えば、小兵故に相手の懐に潜り込み、足技・とったり・うっちゃりと技を駆使する“小兵相撲”…。其々の力士が自分にとって一番、勝利に近い型を体得して、相手に向かって行く。

押し相撲は、押し切れば勝つ。しかし、がっちり受け止められ、マワシを取られれば、そこで勝負が終わって、敗れる。小兵も掴まれば、それで投げ飛ばされてしまう。しかし、捕まえるのに苦労すれば、大きな力士と雖もおかしくなり、敗れる。彼らの勝敗の決め手は、自分の型に持ち込めるかどうかである。この決め手に持ち込むことが、ギャンブルにも通じている。「決め手に持ち込む」と言ったが、如何にも「そうなればギャンブルに勝てる」と考えるのは早計で、大事なことは、型を体得することなのだ。相撲の型も、力士が若い頃から稽古を重ねて、自分なりの型を修得したことが肝心なのである。親方・兄弟子からの助言もあっただろうが、先述したように、ギャンブルでは、そんなことを助言してくれる人は先ずいない。私が若い時に麻雀において、“ギャンブルの神様”こと阿佐田哲也から言われたのは一言。「伊集院さん、もう少し狡く打ってもいいんじゃないですか?」「…そうですか」。とは言え、神様の前で、狡猾に打つことはやはりできなかった。しかし、今考えると、私の打ち方の甘さが、後年、私のギャンブルにブレが出て、苦闘することを招いた。しかし、長くギャンブルを続けているだけで、ギャンブルのフォームが体得できるものではない。敗れることで、負け続けることで、自分の打ち方の欠点・弱さがわからねばダメなのだ。「イカン。またこのパターンじゃないか」。そう感じたら、何故負けたかをよく分析してみることだ。敗者には必ず、そこに特有のクセが出ている。それを無くすにはどうするか? 来週話そう。 【続く】


伊集院静(いじゅういん・しずか) 本名は西山忠来。作家・作詞家・在日コリアン2世。1950年、山口県生まれ。立教大学文学部日本文学科卒業後、『電通』に入社。CMディレクター等を経て、1981年に作家デビュー。『愚者よ、お前がいなくなって淋しくてたまらない』(集英社)・『大人の男の遊び方』(双葉社)・『無頼のススメ』(新潮新書)等著書多数。近著に『悩むなら、旅に出よ。 旅だから出逢えた言葉Ⅱ』(小学館)。


キャプチャ  2017年9月18日号掲載

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