シベリアで発生した“致死病原体”の恐怖――温暖化“凍土氷解”が生んだ異常事態、日露共同開発の重大な脅威

20170914 08
ロシア北極圏最大級の天然ガス資源埋蔵地であるヤマル半島で今夏、巨大な爆発が数百件連続して起きている。地球温暖化でシベリアの永久凍土(ツンドラ)が急速に溶解し、閉じ込められていたメタンガス等が放出されたのが爆発の原因だ。ヤマル半島の液化天然ガス(LNG)共同開発は、安倍晋三首相とウラジーミル・プーチン大統領の昨年の日露首脳会談で合意しているが、シベリアでは温暖化が地球の他地域より急速に進み、同半島では致死性の高い病原菌が大気に放出される等、非常事態が頻発している。ヤマル半島(※面積12万㎢)があるヤマロ・ネネツ自治管区は、日本の面積の2倍以上の75万㎢に、50万人強の住民しかいない。広大な無人の台地が広がる中で、爆発から70~100㎞は離れていたと見られる村落でも、「遠くから爆発音が聞こえた」「空に閃光のような明かりが見えた」との証言が相次いだ。現地調査したモスクワの『石油ガス研究所』のワシリー・ボゴヨウレンスキー教授は、地元メディアに対し、「爆発は地球温暖化が原因」との見解を即座に語った。同教授らのチームによると、地下の永久凍土が氷解し、水が地下に浸透して消えた空洞部分に、ガスが急速に溜まった。地上から見ると、まるで水泡のように地面がガスで膨らんだ末に、大爆発を起こすのだという。ヤマル半島周辺での爆発は数年前から観測されているが、近年は頻度が激増し、規模も大きくなった。今年は、先月初旬までに確認できただけで700回以上あった。水泡のような膨らみは“ブグニャフ(小丘)”と呼ばれ、半島全域で少なくとも7000あるとされる。

荒涼とした同半島は元来、住民からも“地の果て”と呼ばれる寂寥の地。そんな風景と極地の荒天に慣れっこの先住民にも、メタンの連続爆発は“地獄絵図”と映った。爆発後にできた巨大クレーターは、深さ50m以上、幅数十㎞に及ぶものもあり、“地獄への入り口”と名が付いた。連続爆発自体が恐ろしい事態だが、恐怖はこればかりではない。昨年8月、ヤマル半島の遊牧民の間で突如、炭疽菌が原因と見られる症状が多発し、トナカイがばたばたと死んでいった。ロシア軍の生物兵器処理班が出動し、12歳の少年1人が死亡した他、約20人が感染し、治療を受けた。2000頭以上のトナカイが死んだ。ロシアは、ソビエト連邦時代から密かに生物兵器として炭疽菌培養をしており、1979年に漏出事故を起こしたこともあった。だが、今回の原因は、ツンドラに閉じ込められていた炭疽菌が、ツンドラの氷解と共に地表や川に放出。遊牧民が汚染された水や食物を摂った為、感染したと見られる。地元当局者は、「ここでは1941年に炭疽病の流行があった。その時に死んで埋葬された人やトナカイに付着していた炭疽菌芽胞が、昨年の猛暑によるツンドラ氷解で放出された」という見解を発表した。昨年はヤマル半島だけでなく、北部シベリアや極東地域が異常な高温に見舞われ、同半島では先月に35℃に達した。平均気温より25℃も高い猛暑だった。ロシア極東にあるサハ共和国のベルホヤンスクは、オイミャコンと並んで、世界中の地理教科書に“世界一寒い村”と紹介される極寒の地だが、昨年は11月になっても気温19.2℃を記録した。例年なら零度~零下が普通の場所である。ロシア全体では、2015年までの10年間で平均気温が0.43℃上昇した。2010年には特に厳しい熱波の直撃を受け、モスクワの最高気温が39℃に達し、世界一寒い村のオイミャコンですら34.6℃を記録した。今年もまた各地で熱波の記録が出ており、シベリアのクラスノヤルスク市で37℃を超えた。同市は、通常なら夏は冷涼、冬は零下20℃まで下がる、典型的なシベリアの都市だ。そんなシベリアで、永久凍土が昨年、更に今年と、春から秋にかけての長期間、高温に曝された。凍土が氷解したことが、連続大爆発や致死性の高い病原菌の放出を引き起こした原因だった。一般的には、冷凍庫で大半の黴菌は死ぬ。同様に、大半の病原菌はツンドラの氷結・低温を生き延びることができない。だが、現地調査したロシアの研究チームによると、今回の炭疽菌は自ら芽胞を作って、その中で生き残り、70年以上を経て地表に出現したという。同チームの研究者であるボリス・ラビッチ氏とマリーナ・ポドルナヤ氏は、炭疽菌以外にも、「シベリアで18世紀や19世紀に存在した致死性の高い病原菌が、媒介生物の死骸に付着したまま生き残り、ツンドラ氷解で放出される可能性がある」と結論付けている。

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シベリア・極東では1890年代に天然痘が大流行し、人口の4割を失った町もあった。また、1918年のスペイン風邪の世界的流行からも、シベリアは逃れることができなかった。歴史的には腺ペスト・破傷風・ボツリヌス中毒もあり、致死性の高い病原菌の殆どがシベリア・極東の凍土から露出する危険がある。天然痘は、人類が“根絶”した唯一の感染症で、『世界保健機関(WHO)』は1980年に天然痘根絶宣言を発した。だが、それを覆す危険がロシアの凍土に眠っているのである。ツンドラは地表が非常に硬く、伝染病で死亡した人の埋葬でも、それほど深く掘られることはない。また、極東では川瀬に集団埋葬地が設けられることが多い。極東のコルイマ地域で19世紀末に天然痘大流行が起きた時には、大半の死者はコルイマ川の川瀬の墓地に埋められた。こうしたシベリア・極東の川瀬は、近年の温暖化による河川増水と氾濫で、次々と侵食され、遺体が流出している。致死性の高い病原菌復活というだけでも空恐ろしい話だが、「現代の人類が経験したことのない病原菌が現れる可能性がある」と指摘する研究者もいる。ホモ・サピエンス出現以前の数万~数百万年前の病原菌だ。シベリア以外では2005年、『アメリカ航空宇宙局(NASA)』の調査チームが、アラスカ州の凍土から3万2000年前のバクテリアを発見した。更に2007年には、南極大陸で発見された800万年前のバクテリアが生き返ったことも観測された。

シベリアで現地調査したフランス研究チームのエクス=マルセイユ大学のジャン=ミシェル・クラベリー教授は、「暗くて冷たく、酸素の無い永久凍土は、病原微生物に格好の住処となり得る」とした上で、「『ネアンデルタール人を死滅させた病原菌が地球から消滅した』と思い込むのは間違いだ」と指摘する。ネアンデルタール人は、3万~4万年前にシベリアにいたことが確認されている。また、ネアンデルタール人の兄弟種とされるデニソワ人は、シベリアのアルタイ地方で生活の痕跡や子供の骨が見つかった。どちらも絶滅に至った過程は不明だが、病原菌による感染が有力視され、現在でも解明されてはいない。シベリアの凍土から致死性の高い病原体が生き返って、人類を危機に陥れるというストーリーは、久しくSF小説の主題でもあった。イギリス人作家のブライアン・フリーマントルの小説『アイス・エイジ』(※邦題はシャングリラ病原体・新潮文庫)では、人間を瞬時に老化させる架空の病原体が扱われた。こうしたSF小説の世界は、シベリア・極東での温暖化進行で次々と現実の恐怖に変わりつつある。連続大爆発と病原体という物騒な環境の中で、ヤマル半島の天然ガス資源は大丈夫なのだろうか? 石油・天然ガス開発事業への脅威を如実に示す事件は、続々と発生している。ヤマル半島事業では、同半島からドイツまで通じる天然ガスパイプライン計画があり、通過国のロシア、ベラルーシ、ポーランド、ドイツの4ヵ国が、1993年に『ヤマル=ヨーロッパ・パイプライン』建設で合意した。現在はトヴェリ州トルジョークとドイツを結ぶ幹線が完成し、将来的にはヤマル半島の出荷基地と結ぶことになっている。ヤマル半島内では幹線の一部が稼働し、生産現場まで結ぶ各線の工事が進んでいる。シベリア事情を伝える英字ニュースサイトの『シベリアンタイムズ』(※本社はモスクワ)は先月上旬、「ガスパイプラインが“深刻な危機”に曝されている」との衝撃的なリポートを伝えた。それによると、地中でガスが溜まってできる前述の“小丘”は、ここ数年で半島内に爆発的に広がっていて、「うち700はいつ爆発してもおかしくない」状態にあるという。同サイトの記事によると、パイプラインが爆発に直撃される懸念は素より、1つの“小丘”の爆発があまりに大きい為、周辺の地面が大きく揺れて、パイプラインが歪む危険が生じているという。“小丘”がパイプライン周辺にできて、地盤が激変する可能性や、クレーターができたり、地面の陥没が起きたりする危険もある。自然発生する大爆発が天然ガス採掘施設やパイプラインに影響を与え、新たな爆発を誘発する危険は排除できないのである。幸い、日露共同開発は未だ構想段階だ。21世紀のシベリア開発は、過去には経験の無かった重大な脅威を内包しているのである――。


キャプチャ  2017年8月号掲載

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