【ビジネスとしての自衛隊】(15) 問題が多過ぎる防衛省の調達…調達制度の歪みが兵器の値段を吊り上げる

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自衛隊(防衛省)の装備品の調達は、外国から見れば常軌を逸しており、文民統制を放棄しているとしか思えない。これは防衛省にも責任があるが、軍事に無関心な歴代政権と国会の責任も重い。文民統制の根幹は、国民の代表である政治家が軍隊(自衛隊)を管理・監督することだ。その最も大切な手段が予算と人事である。人事は兎も角、防衛予算のチェックはザルである。特に装備品の調達は殆どノーチェックだ。海外の民主国家では、重要な装備品を調達するに際して、①新たな調達が必要な理由(目的)②求められる性能のレベル③目的を達成する為の必要量(何基・何台が必要か)④調達し戦力配備するまでの期間⑤総予算の規模(自国で開発が必要ならば開発費も含める)――等を、国防省が議会に対し説明する。これを議会が審議・採決し、初めて予算案が認められ、メーカーと契約して計画が実行される。ところが日本では、陸海空の幕僚監部や防衛省の内局では大まかな計画が策定されているが、国会には殆ど何も知らされていない。現在、陸上自衛隊では新型である10式戦車(『三菱重工業』)が順次、配備されている。防衛省が公表している2013年度ライフサイクルコスト(LCC)報告書によると、この10式戦車は、構想段階から開発・量産段階に至るまでに871億円かかっている。これは本体のみの開発で、主砲や懸架装置等、サブシステムの研究開発は別で、トータルでは約1000億円かかっている。

ところが、10式戦車の調達が国会で審議されていた当時は、LCC報告書は作成されていなかった。しかも、LCC報告書の数字は今に至るまで陸幕内部の見積もりに過ぎず、正式な調達計画ではない。国会議員は、調達数や調達期間、そして総費用を知らないまま予算案を承認し、防衛省で調達が始まった。防衛省の調達改革の一環としてLCC報告書の公表が始まったとはいえ、新たな装備品を調達する際に公表されている訳ではない。国会では、具体的に議論する材料が無いまま審議することになる。1機約200億円する海上自衛隊の『P-1哨戒機』や航空自衛隊の『C-2輸送機』も同じ構図で、国会はその調達数・調達期間・総費用を知らされずに予算を付けている。防衛省の装備品調達が国会で議論されることは少ない。票にならないので、国会議員の関心が低い為だ。政治が防衛調達に無関心な例を、もう1つ挙げよう。空自は競争入札で、新型の救難ヘリコプターを2010年に採用した。これは、三菱重工業がアメリカの『シコルスキーエアクラフト』からライセンス生産している現用型(現行型)の『UH-60J』の改良型である。空自は当初、ライフサイクルコストを1900億円、機体調達費用をその半分と見積もり、40機を調達するとしていた。調達単価は23.75億円である。しかし、実際の調達単価は約50億円と、計画の約2倍にもなっている。抑々、基となるUH-60Jの単価は40億円を超えており、それに改良が加わった新型を23.75億円とするのは無理な計画だ。空幕は調達単価の実現が不可能にも拘わらず、この機種を選定したのだ。特定企業の機種が採用され易いようにした組織ぐるみの官製談合が疑われて然るべきだ。欧米なら議会で問題となるだろう。既に述べたように、自衛隊の装備は調達期間が曖昧なまま決まってしまうことが多い。本来、5年後に戦力化する必要がある装備品を、20年かけて配備しても意味がない。必要な時に数が揃わなければ、仮に途中で有事となった際、対処できないことになる。また、時間をかけ過ぎると、全て揃った時点で旧式化してしまう。嘗て筆者は、防衛省の森本敏大臣(※当時)とテレビ番組で、導入が予定されている『F-35A』戦闘機(『ロッキードマーティン』)を巡って討論したことがある。森本氏は、「仮にF-35Aの調達が遅れても、現行のF-4EJを地上に置いておけばいい」と発言した。「飛行しなければ機体の寿命が延びるから、後継機の配備までは困らない」という理屈だ。F-35Aは、中国の航空兵力の近代化に対抗する為として、1機150億円以上とも言われる高額にも拘わらず、アメリカからの導入が決まった経緯がある。調達完了がいつになってもいいのであれば、初めから必要性は低いということになる。

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自衛隊員にとって最も身近な兵器である小銃は、調達システムのおかしさを象徴している。現用の89式小銃(『豊和工業』)は、旧型の64式小銃の更新として調達が始まって30年近く経つが、未だに更新が完了していない。長年、64式と混在した状態である為に、訓練も兵站も二重になっている。更に、89式と64式では使用弾薬も異なる。実戦になったら兵站が混乱することは必至だ。多くの国では、小銃の更新は通常5~6年、遅くても10年ぐらいで終わる。因みに、89式の今年度の調達単価は約40万円で、外国の同性能の小銃と比べ6~8倍もする。アメリカ軍も使用しているミニミ軽機関銃は『住友重機械工業』がライセンス生産しているが、単価が約400万円であり、アメリカ軍調達価格の約10倍である。工業製品は、生産数と製造期間によって製造コストが大きく変わってくる。調達期間が5年と10年とでは、ラインの維持費や人件費は4倍も異なる。それがわからなければ事業計画は立てられないし、調達単価も算定できない。だが、防衛産業のメーカーは商売を継続できている。それは、かかった費用に利益を上乗せする為、いくら原価がかかっても構わないからだ。しかも、防衛省とメーカーの間では調達数と総額の契約すら行われていない。口約束で生産が始まっている。それで揉めたのが、『富士重工業』(※現在の『SUBARU』)の『AH-64D』戦闘ヘリコプターの調達だ。62機の調達予定が13機に減らされ、防衛省が初期投資にかかる費用の負担を拒否したので、訴訟になった。その後、防衛省は初期費用を別途払うシステムを導入したが、AH-64Dの調達は中止になった。防衛産業は競争が無く、唯一の顧客が防衛省である為、企業の防衛関連部門はビジネスをしているという意識が薄く、事実上、国営企業であると言ってよい。日本の防衛産業は諸外国と比べ、部品や用途毎に棲み分けがなされており、競争原理があまり働かないことにも特徴がある。政府・政治家・防衛関連企業では、日本の防衛産業は技術水準が高く、輸出競争力があるとの意識が強い。しかし、日本の防衛産業は市場で揉まれたことも、実戦経験も無い。世界に太刀打ちできる能力は無い。その大きな要因は、防衛省の歪んだ調達にある。 (軍事ジャーナリスト 清谷信一)


キャプチャ  2017年5月13日号掲載

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テーマ : 自衛隊/JSDF
ジャンル : 政治・経済

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