【誰の味方でもありません】(18) “老人革命”の吉凶

『安楽死で死なせて下さい』(文春新書)という新書が、抜群に面白かった。著者は、『おしん』(NHK総合テレビ)や『渡る世間は鬼ばかり』(TBSテレビ系)で有名な脚本家の橋田壽賀子さん。今年で92歳になった橋田さんが、安楽死の法制化を訴える本だ。橋田さん曰く、自分は天涯孤独の身で、人に迷惑をかける前に死にたい。そこで橋田さんは、「どうしたらいいかなと思ってスマホで調べてみた」という。スマホ使えるのか…。結果、スイスにある70万円で安楽死をさせてくれる団体を見つけ、「日本でも死に方の選択肢のひとつとして、安楽死があってもいい」と提案する。現在の日本では、安楽死の議論自体を忌避する雰囲気がある。特に政治家や官僚が安楽死の法制化を訴えようものなら、「高齢者を殺す気か!」という批判が殺到しそうだ。世論調査によれば、国民の約7割は安楽死に賛成だというが、態々嫌われるリスクを犯してまで安楽死の制度化を推奨するような若い政治家はいないだろう。しかし、高齢者本人が「安楽死をしたい」と言うなら、誰も文句が付けられない。橋田さんの問題提起にも、多くの応援の声が集まったという。嘗て、この国では若者が中心になって叛乱を起こした時代がある。学生運動はその最たる例だ。それから半世紀が過ぎ、最近の日本では老人たちの叛乱が面白い。数年前に世間を騒がせた国会前デモも、『SEALDs』ばかりが注目を浴びたが、実際のデモ参加者には高齢者が多かった。

最近では、82歳になる脚本家・倉本聰さんの『やすらぎの郷』(テレビ朝日系)が、頗る挑戦的だ。こんなエピソードがあった。高齢者講習がパスできずに運転免許を返上することになった登場人物の1人が、高級外車の『ハマー』を盗み出し、高齢者施設を脱出。高速道路を猛スピードで逆走して、パトカーとカーチェイスを繰り広げるのである。結局は警察に捕まるものの、認知症を装い、罪には問われなかったというオチだ。若い脚本家には中々書けない筋書きだろう。何故、高齢者はこんなにも面白いのか? 大前提として、失うものが少ないから自由に振る舞えるのだろう。遠慮の無い人たちの発言は本当に魅力的だ。加えて、人口もあると思う。絶対数が多い為、面白い人が多いのだ。しかし、僕が期待するのは、更なる老人の叛乱である。歴史上、社会を揺るがすような動乱・革命・戦争は、若者人口の多い場所で起こってきた。学生運動時代の日本や、最近のアラブ世界がそれに当たる。仕事が足りず、野心を持て余した若者たちが、社会を不安定にするのだ。その文脈で言えば、今の高齢者は嘗ての“若者”に似ている。仕事や居場所は無いが、エネルギーを持て余している高齢者が、この国には大量にいる。彼らに一度火が付けば、物凄いパワーになる筈だ。近い将来、“老人革命”が起きてもおかしくない。橋田さんたち高齢者の活躍に、これからも注目だ(※僕のほうが老人みたいですね)。


古市憲寿(ふるいち・のりとし) 社会学者。1985年、東京都生まれ。東京大学大学院博士課程在籍。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。著書に『希望難民ご一行様 ピースボートと“承認の共同体”幻想』(光文社新書)・『絶望の国の幸福な若者たち』『誰も戦争を教えてくれなかった』(共に講談社)等。近著に『大田舎・東京 都バスから見つけた日本』(文藝春秋)。


キャプチャ  2017年9月14日号掲載
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