【Deep Insight】(38) “最高”遠い日経平均の警告

「何故、日経平均株価だけが取り残されているのか?」――苛立ちが最近、市場関係者の間で燻っている。世間には今、“過去最高”が溢れている。嘗ては株価と並んでバブルの象徴と言われた銀座の一等地の地価が、1992年の過去最高を超えた。訪日外国人観光客も、正社員の有効求人倍率も、宅配便の取扱個数も、上場企業の純利益も過去最高だ。其々は小さな一歩かもしれないが、記録更新の裾野がここまで広がれば違う。日経平均は1989年の最高値、3万8915円の約半分でうろついている。同年の男子やり投げの日本記録が28年後の今も残っているのに似た、化石のような違和感がある。海外景気が株価を抑える原因かといえば、答えは逆だ。過去最高は世界規模で続出している。『フォルクスワーゲン』は自動車業界の世界販売記録を昨年更新した。半導体の世界販売記録は今年も塗り替えられる見通しだ。アメリカの個人純資産も増え続け、国内総生産(GDP)の70%を占める消費を支えている。人為的、つまり政府がアクセルを踏んだ結果とはいえ、中国の鉄鋼生産は4月、月間の過去最高を記録した。抑々、ここにきて進んでいる世界的な長期金利の上昇は、景気の回復観測が背景だ。アメリカ・イギリス・インド・韓国等、多くの国で今年、主要株価指数は過去最高を更新した。「日経平均が取り残されている一因は、指数を構成する企業、つまり長い伝統を誇り、日本経済を背負って来た大企業にある」と筆者は考えている。日本の株価指数でも、比較的若い企業の株で構成する日経ジャスダック平均株価は、26年ぶりの高値を更新したばかりだ。日経平均構成企業の“年齢”は平均85歳と、ジャスダック企業の51歳より30年以上長い。売上高は平均101倍、従業員数で同10倍に及ぶ。このような大企業には、過去の事業の多角化等で蓄積した経営の非効率が残っている筈だ。問題に気付いているのは、経営者自身でもある。『トムソンロイター』によると、ファンドが買い手となる日本企業の買収は昨年297件と過去最高になり、今年も同じペースが続いている。この内の3割以上が、『日立製作所』による『日立工機』の売却に代表される、大企業が踏み切った非中核事業の切り離しだ。“選択と集中”である。ならば、改革に動いているのに、投資マネーを引きつけられないのは何故か? 専門家と議論した。

「ライバルの存在を忘れてはならない」。買収ファンドを運営する『ロングリーチグループ』の代表取締役・吉沢正道氏は指摘する。『QUICKファクトセット』によると、主要企業の営業利益率は昨年6.5%と、リーマン危機後の最高水準にある。だが、アメリカは10.6%と更に上を行く。労働生産性も高まってはいるが、アメリカ企業の8割弱の水準が続いている。改革の“質”を高める提案もある。「世界を見渡し、最高の人材に来てもらえる会社かを、自ら問うべきだ」。『ボストンコンサルティンググループ』の最高経営責任者(CEO)であるリチャード・レッサー氏は強調する。人口減で成長の源泉を外国に頼らざるを得ない日本企業にとって、グローバル化は死活問題だ。外務省によると、日本企業の海外拠点数は昨年7万2000と、2005年の調査開始以来最大だ。だが、問われるのは規模だけではなく、グローバルな競争力があるかだ。そんな人材を迎えるには、「人種や性別の多様化や、意思決定を速めて成果を出し易くする企業風土が欠かせない」と同氏は説く。「東芝の経営迷走は、日本企業のリーダーシップに問題があることを示した」。投資銀行出身の経営学者である一橋大学の伊藤友則教授は語る。強いリーダーシップは独自の戦略を齎し、同業他社との横並びを意識するだけの経営から脱する原動力でもある。大胆な投資はイノベーションを生み、生産性を高める。企業が持つ現金は最高水準に積み上がっている。日経平均が天井を打った1989年末からの28年間、逆風を突いて最も時価総額を高めた企業群には、『ニトリホールディングス』等オーナー型経営の企業が多い。偶然とは思えない顔ぶれだ。円安・株高を基調とする2012年末からの“アベノミクス相場”の初期、筆者は副作用を恐れた。日銀による国債の大量購入が禁じ手の財政ファイナンスに繋がらないか、国債が市場の信用を失って長期金利が急騰し、利払い負担で財政が一段と悪化するのではないか、金融機関は保有する国債の価格暴落で苦しみ、日本はギリシャのようになるのではないか――。それでも当時、考えを一先ず横に置いた。劇薬に違いないが、政府も日銀もそれまで取らなかったリスクを取った。9000円を下回っていた日経平均は2万円台に回復し、凍り付いていた企業家心理も暖まった。売却価格が上がったからこそ、経営者は非中核事業を手放せたのだ。だが、劇薬だからこそ日銀の異次元緩和も出口が来る。先送りを重ねた消費増税も2019年に迫っている。日本企業は、これらの重力を振り切った上で、世界で戦えるだけの成長力、謂わば“脱出速度”をこの5年間で得ただろうか? 取り残された日経平均は、「すべきことがある」と警告している。 (本社コメンテーター 梶原誠)


⦿日本経済新聞 2017年7月14日付掲載⦿
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