【中外時評】 AIスピーカーが問うものは

「明日の札幌の天気は」――。卓上サイズのスピーカーに話しかけると、数秒の間を置いて答えが返ってきた。「札幌の天気は雨、最高気温は20℃、最低気温は16℃になるでしょう」。利用者の声を理解して天気予報やニュースを流し、音楽の再生や家電の操作等もできる。こうした人工知能(AI)スピーカー等と呼ばれる製品への関心が高まってきた。今月上旬にベルリンで開かれたヨーロッパ最大の家電見本市『IFA』の会場でも、主役の座を占めたのはAIスピーカーだった。出展した日本企業の担当者は、「実は当社の一押しは別の製品だったが、AIスピーカーの話題にすっかりかき消された」と苦笑していた。AIスピーカーは、2014年に『Amazon.com』が発表した『エコー』が先駆けとなり、『Google』が追随した。『Apple』も今年12月、アメリカ等で売り出す。アメリカの調査会社『ガートナー』は、「2021年の世界市場が2016年に比べ4.9倍の約3870億円まで拡大する」と予想している。背景にあるのは、凡そ10年に1度の頻度で訪れてきたコンピューターと人の接点の変化だ。『マイクロソフト』が1995年に発売したパソコンの基本ソフト(OS)『ウィンドウズ95』は、キーボードやマウスが広がるきっかけとなった。Appleが2007年に売り出したスマートフォン(スマホ)『iPhone』により、手で画面に触れて操作する方式が普及した。『全米民生技術協会』のチーフエコノミストであるショーン・ドゥブラバック氏は、「コンピューターが人の声を誤って認識する割合は2013年に約25%だったが、現在は5~6%程度に下がった。この30ヵ月間の進歩は、過去30年より速い」と話す。アメリカでは、既にスマホ等を通じたGoogleの検索サービスの内、20%が声による利用だという。

音声認識とAIが急速に家庭に入りこもうとしているが、日本企業の対応には不安がある。家電各社が最近発表した新製品の多くは、肝となる音声AIにAmazonやGoogleの技術を採用している。「大きな違いが無く、価格競争に陥るのは時間の問題」「OSを供給するGoogleが覇権を握ったスマホの二の舞になる」と懸念する声が多い。AIの開発には多くの資金や人材が必要で、「アメリカのIT(情報技術)大手が世界を席巻する」との声も聞かれる。だが、異なる意見もある。「様々な製品と連動する必要があるAIの普及には手間がかかり、各地に根差した企業が存在感を出せる」。独自に開発したAIスピーカーを先月から出荷している『LINE』の舛田淳取締役は、日本での勝算を語る。同社は、音声AIを自動車や家電といった幅広い業種の企業に提供する。AmazonやGoogleに対抗し、スマホ等に続く新たなプラットフォーム(技術基盤)にすることを目指す。言葉の壁への対応に時間やコストがかかる点も踏まえ、日本の実情に応じたプラットフォームを作るのは対応の1つと言える。もう1つの手段は、AIスピーカーの開発を通じてマイクやスピーカー等の技術を高め、得意分野に応用することだ。電機業界に詳しい東京理科大学の若林秀樹教授は、「音声技術には改善の余地がある。今後は自動車等で音声操作のニーズが高まり、この分野では日本企業に優位性がある」と指摘する。製品での正面衝突を避けるのも手だ。アメリカでは今年、AmazonのAIスピーカーをテレビCMの音声で起動し、商品の特徴を読み上げさせる企業の取り組みが話題になった。AIスピーカーの普及を契機とするラジオの復権も伝えられる。技術の変化を好機と捉え、新たなサービスを生み出すことも考えられる。AIスピーカーで必要なことは、機器のみに目を奪われるのではなく、背景にある技術や事業環境の変化を見極めて、自らの強みを伸ばしていくことだ。ソフトやサービスの軽視、機器に対する過剰な執着、そして強い横並び意識といった日本企業が抱えてきた課題を克服するきっかけとしたい。 (論説委員 奥平和行)


⦿日本経済新聞 2017年9月14日付掲載⦿
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