ドイツ覆う草の根の不満、イギリスの混乱と重なる風景

2018-02-21T02:39:52+09:00

Posted by George Clooney

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国際

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イギリスで2016年に起こったことが今、まさにドイツで起こりつつある。一般国民による投票が、政治に大混乱を引き起こしつつあるという点だ。ドイツの場合、それは国民投票ではなく、中道左派政党『ドイツ社会民主党(SPD)』が実施する46万4000人に上る一般党員投票が問題を引き起こしつつある(※SPDは今月7日、アンゲラ・メルケル首相率いる中道右派政党『キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)』と連立政権樹立で合意したが、大連立を実際に組むかの最終判断は党員投票の結果で決めるとしている)。若しSPDの党員投票が大連立を拒否する結果となれば、メルケル氏は首相とCDUの党首の両方を突然、辞めなければならないかもしれない。連邦議会選挙をやり直すことになれば、現政権はその時まで生き永らえるかもしれないが、メルケル首相が次期政権に加わる可能性は低いだろう。SPD党員投票の結果が判明するのは3月4日だ。この日はイタリアでも総選挙があり、ヨーロッパにとって重要な1日となりそうだ。SPDの戦略担当者も、首都のベルリンを拠点に活動する政治評論家たちも、SPDの支持組織に所属する各選挙区の草の根党員の間に広がる強い不満を、あまりにも過小評価していた。彼らは既に長く続いてきた大連立政権にうんざりしている。筆者も指摘してきたように、大連立政権はあまりに長期に続くと中道勢力を弱体化させ、『ドイツのための選択肢(AfD)』のような極端な主張をする小政党の力を強める結果になる――。彼らはそう主張している。

SPDは連立交渉で、ある一面においては大成功を収めた。昨年9月の連邦議会選挙で大幅に得票数を減らしたにも拘わらず、連立交渉の末、主要閣僚のポストを手に入れたからだ(※SPDは財務大臣、外務大臣、労働大臣等重要ポストを含む6つの閣僚ポストを勝ち取った)。ハンブルク市長を務めるSPDのオラフ・ショルツ氏は財務大臣に就任する見通しだ。ショルツ氏は財政規律を重んじ、税率は低く抑え、規制は緩和する方向で経済活性化を目指す保守派だ。SPDのマルティン・シュルツ党首は外務大臣としての入閣を望んでいた。こうした合意内容は、草の根党員の気持ちに訴えなかったばかりか、「党幹部たちが連立交渉に動いたのは、自分たちが閣僚ポストを欲しかっただけで、連立政権の政策内容を最重要視した訳ではない」との疑念を深めるだけの結果に終わった。SPD若手組織のケビン・キューネルト代表が、「同党は連立交渉で新政権でのポストのことばかりを問題にして、政策そのものに関する議論を深めていないのは恥ずべきことだ」と指摘していたのは、まさに一般党員の気持ちを代弁してのことだった。党員たちの不満がここまで高まったのは、シュルツ党首が何度も自らの決断を撤回したことにある。昨年の総選挙の結果が明らかになった9月24日夜、同氏は「メルケル首相と大連立は組まない」と約束した。それ以前にも、「メルケル首相の下で閣僚入りはしない」と公約していた。だが、シュルツ党首はこの前言を2回も翻した上、3度目の裏切り行為とも言える決断を下した。同氏は常々と、SPDの前党首であるジグマール・ガブリエル外務大臣を“個人的な友人”と呼んできた。しかし、今回の連立交渉の大詰めの段階で、同氏はこの旧友をSPD側の閣僚リストから外し、自身が外務大臣のポストに就くことを決めた。ガブリエル氏がSPDの政治家としては最も人気が高いにも拘わらず、だ。その決定から2日間、外からもわかるほど党内からは強い反発の声が上がった。その為、SPD幹部らはシュルツ党首に入閣の断念を迫った。今月9日、同氏はそれを受け入れた。その前日には、同氏は既に党首を辞任する意向を表明していた。シュルツ党首は、僅か1年前には“ドイツ政治の新星”と期待を集めたが、今や全てを失った(※それまでヨーロッパ議会議長を務め、ヨーロッパ各国に人脈を持つ国際派で、実務能力は高いとされたが、国政の経験は無かった)。選挙で負け、党首の座を手放し、最早外務大臣ポストに就く希望も無い。ガブリエル氏も恐らく外務大臣には就任できないだろう。SPDは今、大混乱に陥っている。問題は、シュルツ党首が身を引いただけで、SPD党員の過半を大連立に向けて賛成するよう説得できるか、だ。今回の連立協議を進めたSPD幹部たちは、今や不誠実な陰謀者たちのようにさえ見える。一般党員にしてみれば、現指導部を一掃して、新たなスタートを切る絶好のチャンスに思えるに違いない。

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イギリスの『ヨーロッパ連合(EU)』離脱の是非を巡る国民投票が残した教訓の1つは、投票結果は根本的に不確定ということだ。「離脱派の勝利は必然だった」とか、「もう1回投票すれば確実にこうなる」等と断言する者がいるが、無意味だ。投票はやってみなければ結果はわからない。現時点で、ドイツのSPD党員の意識調査で公表されたものは無い。「SPD指導部は非公式の調査はしている」と筆者は推測しており、シュルツ氏の党首辞任や入閣断念といった先頃の異常な動きは、その調査結果が思わしくなかったことによると思われる。筆者が耳にした断片的な事実も、それを裏付けている。シュルツ氏の党首辞任は必要だったが、それだけで連立樹立に向けて党員の支持を得るのに十分かは疑わしい。実際、同氏は大きな策略の犠牲者だったと見る人は多い。同氏の姉は、ベルリンの政界を“お互いがお互いを裏切る秩序無き世界”だとして不満を訴えていた。1年前までブリュッセルでヨーロッパ議会議長を務めていた弟は、ドイツに戻ってきた際、この点を過小評価していたという。SPDの党員投票は、郵送の形で2月20日から3月2日まで行なわれる。キューネルト氏が先頭に立つ大連立反対派は、今年に入って2万4300人にも上る党員を新たに集めた。その大半は反対票を投じるとみられる。全体の約5%を占める新党員の票が結果を左右する可能性がある。ここにもイギリスの国民投票との類似点がある。ジェレミー・・コービン氏がイギリス労働党の党首に選ばれたのは、新たな党員集めのキャンペーンの結果だったからだ。「SPDの党員が僅差で大連立を支持する可能性が全く無い」とは断言できない。だが現時点では、「シュルツ党首が身を引いたから党幹部が過半数に支持される」とは考え難い。また、たとえ僅差で大連立が支持されたとしても、新連立政権が、そしてメルケル首相が4年後の次の選挙まで持つとは思えない。 (Wolfgang Munchau)


⦿フィナンシャルタイムズ 2018年2月12日付掲載⦿
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