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【ドクターXは知っている】第2部(20) 薬そのものに良し悪しはない――名郷直樹氏(『武蔵国分寺公園クリニック』院長)インタビュー

“科学的根拠に基づいた医療(EBM)”を信念に、長年に亘り地域密着型のプライマリケアを実践してきた名郷直樹氏。EBMの観点から見た薬の真実や、「薬を止めたい、減らしたい」と思った時のアドバイスを聞いた。 (聞き手・構成/フリーライター 浅羽晃)





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――最近、週刊誌等で、副作用や薬害をクローズアップして薬を危険視する報道が多いようです。薬は本当に“悪者”なんでしょうか?
「薬そのものに良い悪いはありません。どのように使うかが問題なのです。臨床医として日々、患者さんと接していて感じるのは、多くの患者さんは、世の中には効く薬と効かない薬があると思っているということです。しかし、殆どの薬は、効く・効かないについて絶対的な評価を下すことはできません。同じ病態の患者さんに同じ薬を処方した場合、ある人には効き、ある人には全く効かないということはよくあります」

――万人に、同じように効く薬は無いのですね。
「そうです。またそれ以前に、何を以てして薬が効くというのかという問題もあります。糖尿病薬を例にとりましょう。普段の平均的な血糖値を反映する検査値にヘモグロビンA1cがあります。正常値は年齢・性別でも異なりますが、概ね5%台であり、6%を超えると薬を処方して改善を目指し、合併症を予防するというのが一般的に行なわれている医療です。正常値に近ければ近いほど合併症は予防できるという考えに基づいているのですが、UKPDS33のというイギリスの大規模疫学研究の結果は、そんな医療界の常識に一石を投じる興味深いものでした。標準的な治療でヘモグロビンA1cを7.9%でコントロールした群と、より多くの薬を集中的に使って7.0%でコントロールした群を追跡調査比較すると、10年後の合併症の発症率はどちらも40%程度で殆ど変わらなかったのです(※左下図参照)。正確には、7.9%のほうが44%、7.0%のほうが40%と、1割程度は統計学的にも発症率が低いので、“薬が効いた”と捉えることもできます。しかし、患者さんにとって、1割程度の優位性が薬に期待する効果かといえば、そうではないでしょう。糖尿病薬の集中的な使用は、低血糖等の副作用を起こす恐れもあります」

――僅かな効果を求めて、副作用に苦しめられるのでは本末転倒ですね。
「効果が認められる薬があるとして、“薬が効く”ということと“薬が有用である”ということは決してイコールでないということも、大切なポイントです。例えば血圧降下剤は、血圧の数値が改善されれば“効果がある”ということになります。40代や50代では収縮期血圧が180の人と120の人を比べると、脳卒中になる率は180のほうが10倍くらい高いのですが、薬で180を150まで下げればリスクが半分以下になります。ところが、80歳以上の高齢者では、高血圧のインパクト(※影響)が若い人よりも小さいから、180の人と120の人の脳卒中になるリスクを比べても違いは2倍程度。薬によって180を150に下げたところで、40~50代程のリスクの違いはありません」

――これは脳卒中の発症リスクに限ったお話ですが、それ以外の面ではどうなのでしょうか?
「寿命という面で見れば、80歳以上であれば高血圧の薬を飲もうが飲むまいが、差は無いのです。これでは、長生きしたいと思って薬を飲んでいる人に対しては有用とは言えないでしょう」

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――高血圧の薬以外も同じように、飲んでも飲まなくても最終的に寿命を延ばす効果はないのでしょうか?
「実は、生活習慣病の業で、服用すれば長生きできると証明されている薬は殆どありません。コレステロール薬の代表格であるスタチンにしても、40代や50代くらいまでの若い人は飲んだほうが心筋梗塞を予防できて、寿命も多少は長くなるというデータはありますが、高齢者の場合は総体的な評価が難しい。確かに、スタチンの服用によって心筋梗塞や脳梗塞の予防に繋がる面はあるけれど、一方で“70歳以上の高齢者では癌を増やす”という報告が出たこともあります。このデータに関しては、『偶々そういう結果が出ただけで、あまり心配しなくてもいい』という意見が多かった。ところが、つい最近“JAMAインターナルメディスン”という雑誌で、“75歳以上ではスタチンの使用によって寿命が短くなるかもしれない”というデータが発表されて、また有用性についての論争が復活しているところです」

――寿命を延ばす効果が無いどころか、ケースによっては寿命を縮めることもあるというのは怖いですね。
「どんな薬にもベネフィット(※恩恵)とリスクがあり、ベネフィットのほうが大きい時に初めて、薬を使うかどうか判断すべきです。しかし、総じて高齢になるほどベネフィットとリスクの判断が難しくなります。薬を信じて、お守り代わりに飲んでいる高齢者がいますが、抑々薬によって長生きできるという医学的なデータは無いのです」

――自己防衛として、患者が無用な薬を避ける為にはどうしたらよいでしょうか?
「先ずは、問診でしっかりコミュニケーションを取ってくれる医者にかかることです。個別に判断しないと正しい処方ができる筈もありません」

――例えば、高血圧やコレステロールなら、検査数値や基準値だけを見て薬を出すような医師も少なくないようです。
「患者さんの話をしっかり聞く医者であれば、薬を処方する際も患者さんへの説明を欠かさない筈です。例えば糖尿病の薬であれば、『もう1種類、薬を増やすとヘモグロビンA1cが1%下がります。その場合、脳卒中になるリスクは1割減りますが、寿命は変わらないというデータがあります。薬は1錠200円ですが、どうしますか?』というように。多くの医療現場で、薬は医者が一方的に処方することになっていますが、本来は患者さんとの同意の上で決定するものなのです」

――「薬を止めたい、減らしたい」と思った時も同様でしょうか?
「勿論です。そのように相談した時に、取り合わないような医者にはかからないほうがいい。良医を見分ける上で、“聞く耳を持つ医者であるかどうか”・“コミュニケーションが取れる医者かどうか”は一番重要なポイントです。最初に言ったように、薬そのものに良い悪いはありません。薬を飲むことで安心できるというのなら、それはそれでいいのですが、経済的コストがかかるし、副作用のリスクもあるし、先程言ったように、実は殆ど効果がない場合もある。それを忘れずに、賢く薬と付き合っていきましょう」 =おわり


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