【ヘンな食べ物】(90) ××そっくり! トルコの生羊肉ハンバーグ

トルコ南東部のシャンルウルファという半砂漠の町に行った時のこと。7月だったが気温が軽く、40℃を超す猛暑。どうしてもビールが飲みたくなり、ふらふらと町を彷徨っていたら、街角の食堂でごっついおじさんが何か肉を捏ねているのを見かけた。「おっ、チーキョフテじゃん!」。羊の生肉で作るハンバーグのようなもので、この町の名物だと英語のガイドブックに書かれていた。でも同時に、「夏場に食べたら確実に胃腸をやられる」とも警告されていた。元々、中東では肉の生食は殆どしない。なのに、どうしてこんな砂漠っぽい酷暑の土地でそんなものを食べるのだろう――。凄く気になったのだが、何せ今は脳内がビールのことでいっぱいであり、その食堂にビールは置いていない。残念ながら通り過ぎた。そして結局、食べ損ねた。後で思い返す度に、「あれは変な料理だった。食べておけばよかった…」と“逃した魚”のように悔やんでいたところ、中東料理研究家のサラーム海上さんが何と「チーキョフテ、作れますよ」と言うじゃないか。喜んで教えてもらうことにした。日本で難しいのは、生の羊肉を入手すること。でも探したら、麻布十番にニュージーランド産のラム肉を生で売る店があったので、そこで挽肉にしてもらった。その他の材料は、パセリと万能ネギの微塵切り・大蒜の擂り下ろし・赤唐辛子粉・レモン汁・トマトペースト・オリーブ油・塩・胡椒、それにブルグルという2㎜くらいの大きさの小麦粉の粒。想像以上に生肉以外の食材を投入するのだ。

作り方は簡単。全ての材料を大きなボウルに入れ。力を込めて練るだけ。30分程練り、粘土状になったら、サラームさんは「これで完成」と言う。「は?」という感じだ。何しろ、ハンバーグのタネにしか見えない。これを加熱しないとは不自然にもほどがある。20分程寝かせた後、仕上げ。生肉ダネを片手でちぎってギュッと握る。手の中でタネが潰れて、一部はにゅうっと出てくる。細長くなったものをトレイの上に置いていく。「うーん、色といい、この感触・重さといい、アレに凄く似ていますね」と私が言うと、一緒に作業していた担当編集者のSさんも「あぁ、誰が先に言うのかなと思ってましたよ、フフフ」と笑う。すると、サラーム先生が大声でダイレクトに言う。「ウンコそっくりですよね!」。所々色が違っていたり、繊維質だったり、一部未消化(みたい)だったりするディテールまで、私が毎日拾っている犬のウンコに酷似している。何と。チーキョフテは羊生肉が変なだけではなかった。世界で最もウンコに近い料理だった。小学生向けの料理教室で教えたら人気爆発間違いなしだ。ところが、このウンコ似のブツを皿の上にレタスやレモンと一緒に放射線状に盛りつけると、あら不思議。途端に美しい料理に早変わりした。これほどまでに料理における盛りつけの重要性を感じたことはない。食べてみると、全く体験したことのない味だった。羊肉の味は全くしない。癖や臭みはゼロ。強いて言えば、味と食感はネギトロとコンビーフの中間みたいな感じ。でも、もっと美味しい。ひとつ言えるのは“爽やか”。生なのに、ウンコ似なのに。癖のないラム肉・ミント・パセリ・唐辛子・レモン――。これらが奏でるハーモニーはクール。灼熱の地で何故こんなものを食べるのか? 答えは“涼”を取る為かもしれない。ビールやワインにもよく合う。逃がした魚を取り戻して大満足な私だった。


高野秀行(たかの・ひでゆき) ノンフィクション作家。1966年、東京都生まれ。早稲田大学第1文学部仏文科卒。『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)・『アジア未知動物紀行』(講談社文庫)・『世界のシワに夢を見ろ!』(小学館文庫)等著書多数。近著に『間違う力』(角川新書)。


キャプチャ  2018年6月14日号掲載
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