【教科書に載らない経済と犯罪の危ない話】(14) 移植手術の優先順位をカネで買う“非情な市場原理”の実態

映画『ハンニバル』(メトロゴールドウィンメイヤー)に登場するメイスンは、レクター博士の策に嵌り、自らの顔の皮を剥ぎ取って犬に食わせる。顔の皮膚を失ったまま生きるメイスンの恐ろしい風貌は、今も鮮明に覚えている。2005年、フランスでメイスンと同じように、顔を飼い犬に食べられた女性がいた。こちらは現実に起こった悲劇だが、鼻・唇・顎までを失った顔は、メイスンよりもリアルなだけに衝撃的だった。彼女の名はイザベル・ディノワール。当時38歳の彼女は、事故から数ヵ月後に世界初となる顔面移植手術を受け、顔を取り戻すことに成功する。イザベルに顔面を提供したのは、同世代の自殺した女性だった。フランスには、『推定同意の原則』が医療界に定着している。これは、ドナーとなり得る患者が発生した場合、本人や家族が拒否していない限り、臓器や身体組織を摘出、移植に使用して良いというものだ。スイスやベルギー等では『推定同意の原則』が適用されており、中でもフランスは臓器移植において、積極的且つ高度な技術を持つ国である。その為、近隣諸国、とりわけ中東の富裕層が臓器移植を行う場合、フランスが選ばれることが多い。ところが、臓器移植が活発であれば、必然的にドナー不足となるのは当然のことだ。腎臓ならば、法律や倫理は別として、健常者から提供も受けられるし、乱暴な言い方をすればカネで買うこともできる。しかし、心臓や肝臓となるとそうはいかない。ドナーの数に対してレシピエントの絶対数が多く、適合の問題もあるからだ。日本で唯一の公的組織である『日本臓器移植ネットワーク』によると、心臓移植の場合、レシピエントの登録から移植手術までの平均待機期間は978日となっている。

移植が必要なレシピエントにとって、約2年9ヵ月の待機期間は耐え難いのだろう。その為、海外での移植手術を希望する人が出てくるのだが、最近はカネで移植順位を優先させる富裕層患者のせいで、費用が高騰しているらしい。その背景には、「移植が必要な患者の命は自国で救う努力をすべき」という、2008年に『国際移植学会』が採択した『イスタンブール宣言』がある。これは、臓器売買と移植ツーリズム、それに伴う人身売買を無くす目的のものだが、結果として正常な移植手術の費用高騰と、違法な臓器ビジネスを増長させることになった。臓器移植を必要とするレシピエントは、世界中に存在する。そこで順位を優先させるのが“カネとなるのは、市場経済の原則である。自由経済では、個人の消費行動は、自己責任において自由に行われるのが基本である。臓器の需要に対して供給が著しく不足すれば、価格が高騰するのは当然だ。正常な市場では、「超過需要で価格が上昇すると、需要が減って均衡する」というメカニズムが働く。ところが、臓器という価値のある“商品”には、「総需要に対して総供給が合わされる」とされるケインズの『有効需要の原理』が働くようだ。これは“臓器バブル”と言っても過言ではないだろう。そして臓器ビジネスは、「富める者が貧しい者から搾取する」という構図を作り出すが、これも自由経済の宿命だろう。世界の需要に対して、臓器の最大供給国はインドである。インドの首都・デリーにあるオールドデリー駅の近くに、GBロードという所がある。ここが、地上に存在する最も悍ましい場所ではないだろうか。オールドデリーの混沌とした街並みに3~4階建ての古い雑居ビルが並び、1階は雑貨やスパイスを売る商店が入っている。その2階には、鉄格子の隙間から多くの女たちが通りを見下ろしている。この異様な光景と臓器売買との関連については、次回触れたい。 (http://twitter.com/nekokumicho


キャプチャ  2016年8月30日号掲載
スポンサーサイト

テーマ : 国際問題
ジャンル : 政治・経済

轮廓

George Clooney

Author:George Clooney

最新文章
档案
分类
计数器
排名

FC2Blog Ranking

广告
搜索
RSS链接
链接
QR码
QR