【霞が関2016夏】(20) “復興五輪”笛吹けど進まぬ福島の住民帰還

「5年を目途に帰還困難区域を解除する」――。自民・公明両党の『東日本大震災復興加速化本部』は今月24日、東京電力福島第1原子力発電所の事故を受けた住民の早期帰還を柱とした第6次提言を纏め、安倍晋三首相に手渡した。安倍首相は、「政府・与党一体となって復興を進めていく」と力強く応じた。政府は着々と避難解除を進めるが、既に解除された地域に帰還住民は少ない。住民の間に放射線への根強い不安があり、仕事環境も未整備な為だ。にも拘らず、政府が早期の避難解除を急ぐ背景には、政治的な思惑が透けて見える。福島県内の避難指示区域は、2011年の福島第1原発の事故を受けて政府が設定したもの。放射線量が低い順に、避難指示解除準備区域(緑)・居住制限区域(黄)・帰還困難区域(赤)の3種類に色分けしている。2011年4月には、11市町村に跨る1149㎢と東京23区の2倍近く、対象となる住民も約8万人に上っていた。政府はその後、“緑”と“黄”の区域の除染を重点的に着手。現在では、避難区域は8市町村の724㎢・約5万人にまで縮小した。今回の提言では、残る地区も今年度末までに解除し、“赤”の区域についても「5年後を目途に住民が戻れる地域を一部で作るべきだ」とした。ただ、肝心の住民帰還は進んでいない。復興庁によると、実際に解除された区域に戻ったのは1400世帯程度で、対象の1割程度とみられる。同庁が昨年実施した住民調査でも、同年に避難解除された楢葉町の住民の4分の1が「今後、楢葉町には戻らない」と回答。「戻るかどうか判断がつかない」とした人も2割強いる。自治体も、解除に慎重な姿勢を示す。一部が避難指示区域の圏内にある川俣町は先月上旬、当初は今月を目指していた解除時期の目標を、約半年先送りした。

理由は、「解除後の町民の生活再建に課題がある為」。同町の基幹産業は農業だが、「風評被害の懸念が強く、営農を再開しても将来の先行きが描き難い」とし、「拙速な解除では住民は戻らない」としている。除染には巨額の費用もかかる。環境省が震災以降、昨年度までに実施した除染費用は1.8兆円。今年度の当初予算と補正予算案で、計8000億円超を計上している。巨額の費用を投じても、住民が帰還しなければ無駄金になりかねない。にも拘らず、政府が早急に避難指示解除を推し進めようとするのは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを見据えている為だ。政府は東京オリンピックを“復興五輪”と位置付け、「復興した日本の姿を世界にPRしたい」と意気込む。『東京オリンピック組織委員会』も、野球やソフトボールの一部試合を福島県内で開催する案を検討する等、前のめりだ。被災地住民の政府・与党への不満も懸念材料だ。先月の参院選では、福島選挙区で法務省の岩城光英大臣(当時)が落選した。原発事故への政府の対応に不信感があったとみられる。政府・与党は「復興に取り組んでいる」との姿勢を強調し、「住民の支持を得たい」との考えも透けて見える。ただ、それ以前に、昨年度の復興庁予算では、総額の34%に当たる1兆9229億円が執行されなかった。住宅再建・公共事業・風評被害対策で積み残しが多い。住民帰還、そして復興の為には、解除を急ぐだけでなく、地域の再生に向けた環境作りが何より重要であるにも拘らず、だ。復興庁幹部は、「“卵が先か、鶏が先か”の話。解除して戻る人が増えれば、生活に必要なサービスが増え、また人が増える」と話す。復興に向けて、そうした好循環を作ることが、政府、とりわけ復興庁に求められていることではないか。 (古賀雄大)


⦿日本経済新聞電子版 2016年8月30日付掲載⦿
スポンサーサイト

テーマ : 政治のニュース
ジャンル : ニュース

轮廓

George Clooney

Author:George Clooney

最新文章
档案
分类
计数器
排名

FC2Blog Ranking

广告
搜索
RSS链接
链接
QR码
QR