「あれはヤラセではない!」――新宿伊勢丹路上乱闘事件、タイガー・ジェット・シンが明かす43年目の真相

2016-09-10T00:47:51+09:00

Posted by George Clooney

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スポーツ

昭和48(1973)年11月5日18時過ぎ。新宿伊勢丹デパートに買い物に来ていたアントニオ猪木夫妻が、買い物を終えて出口を出たところで、“偶然”出くわした来日中のタイガー・ジェット・シンら外国人レスラー3人連れと遭遇。シンがいきなり路上で猪木を襲った。警察官が駆け付けた時には、現場には誰もいなかった――。その事件は、プロレスとしては珍しく一般紙でも大きく報道されたが、実はその真相は大きく食い違っていた。 (取材・文/スポーツライター 木村光一)

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昭和48(1973)年11月5日。110番通報を受けた四谷警察署は、直ちに新宿区新宿3丁日14番1号にある伊勢丹百貨店本店前へパトカーを急行させた。18時過ぎに到着。現場は、往来の激しい3丁目交差点の近く。目撃者の姿は既に無く、家路を急ぐ歩行者は、赤い回転灯に一瞥をくれただけで足早に通り過ぎた。だが、ヘッドライトに照らされたガードレールと灰色の石畳には、確かに生々しい血痕が残されていた。一体、そこで何が起きたのか? その全容は、翌日の報道で明らかになった。11月7日付(6日発行)東京スポーツ1面に、『宵の新宿で猛虎シンと乱闘事件 “俺は被害者” 負傷猪木怒る』の見出しが躍ったのだ。記事前文には、次のように書かれていた。「新日本プロレスのエース、アントニオ猪木が5日、宵闇迫る東京・新宿の街頭で“猛虎”タイガー・ジェット・シンに襲われ、血だるまの大乱闘、全治1週間の傷を負うという事件が起きた。同日午後6時ごろ、伊勢丹前の舗道でハプニングが起こった。夫人の女優・倍賞美津子さん、実弟の猪木啓介氏と連れだってデパートから出てきたアントニオ猪木と、来日中のタイガー・ジェット・シン、ジャック・ルージョー、ビル・ホワイトの外人レスラーがばったり顔を合わせ、シンが突如叫び声をあげて猪木に殴りかかったことから凄まじい乱闘になり、パトカー数台が出動して大騒ぎになった。3人がかりでやられた猪木はシャツを破かれ、ガードレールに額をぶつけられて約3センチ(全治1週間)の裂傷。血だるまになって東京・六本木の自宅へ帰った。一方のシンも猪木のパンチを浴びてホオに全治4日間の裂傷。とんだ“場外大乱闘”だった」。これが、世にいう『新宿伊勢丹前襲撃事件』のあらましである。

ともあれ、この前代未聞の襲撃事件によってタイガー・ジェット・シンの悪名は轟き、“狂人レスラー”としてブレイクした。以降、復讐を誓う猪木と繰り広げられた血で血を洗う抗争は、当時、人気低迷に喘いでいた『新日本プロレス』を大躍進させる原動力となる。だが、常識に照らし合わせるなら、猪木が警察に被害届を提出せず、襲撃した3人の外国人選手も契約解除の処分を受けなかったこと等、この1件には不可解さも付き纏った。ドキュメンタリー映画作家・森達也の著書『悪役レスラーは笑う』(岩波新書)に、こんな記述がある。「伊勢丹襲撃事件が起きたとき、僕は高校生。教室でプロレス好きの友人たちと『聞いたか?』などと大騒ぎした記憶はある。でも、心のどこかで、シナリオらしきものはあるだろうなとは思っていた。各スポーツ紙が1面でこの惨劇の写真を載せていた(つまり各社はカメラマンを伊勢丹前に配置させていた)ことの意味を冷静に考えれば、裏舞台など簡単に透けて見える」。当時のプロレスファンの偽らざる心境である。それでも、事件後も観客やテレビ中継スタッフに暴行を働いて病院送りにする等、一向に衰えないタイガー・ジェット・シンの狂いっぷりにはファンも脱帽。軈て、事件は伝説と化していった。だが、平成13(2001)年、元新日本プロレス審判部長・ミスター高橋の著書『流血の魔術 最強の演技 すべてのプロレスはショーである』(講談社)が出版され、襲撃は“ヤラセ”だったと暴露される。「翌朝の新聞は、狂気の外国人レスラーの犯行について書き立ててくれた。スポーツ紙だけではなく、一般紙までが大々的に、だ。これぞまさしく猪木さんが狙っていたアングルだった。嘘の事件をつくりあげ、警察を出動させたのだから、完全な犯罪だ」。“伝説”は崩壊。以来、新宿伊勢丹前襲撃事件がファンの口に上ることは、二度と無くなった。筆者はこれまで、アントニオ猪木、タイガー・ジェット・シン、櫻井康雄(元東京スポーツ編集局長)に事件の真相についてコメントを求めてきた。因みに、猪木の発言は現役引退前の平成8(1996)年のもの。他は、『流血の魔術』によってプロレスの仕組みが世間に知れ渡って以降――平成24(2012)年の証言である。「シンの襲撃は知らなかった。けれども、誰かが俺のスケジュールをシンに教えてけしかけた可能性はあるんじゃないか。あの頃、新日本プロレスの社員は何とか会社を盛り上げようと必死に考えていた。俺に内緒で何かを仕掛けるくらいのことはやりかねなかったよ」(猪木)、「ノー! 断じてヤラセではない! あのストリートファイトが本物だったからこそ、猪木と私の試合はヒートして、ファンを熱狂させたのだ」(シン)、「東スポだけが猪木の独占インタビューを取れたのは、新宿でシンが猪木を襲っているのを偶々目撃したプロレスファンがうちに電話をかけてきて、逸早く我々が動いたから。ヤラセじゃないから、事件現場にうちの記者はいなかったし、写真も撮っていない。それが証拠ですよ」(櫻井)。猪木は、“仕掛け”の存在には微妙な含みを持たせたが、自らがヤラセに関与していないという点で3人の主張は一致していた。

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「東スポだけが猪木の独占インタビューを取れた」「ヤラセじゃないから事件現場に東スポ記者はいなかったし、写真も撮っていない」という言葉が引っかかった。何故なら、事件は一般紙を含む新聞各紙で一斉に報道されていた筈で、筆者も確かにどこかで現場写真を目にした記憶があったからだ。念の為、『国立国会図書館』で事件翌日の新聞紙面を調べた。すると、驚くべき事実が判明。一般紙はおろか、各スポーツ紙もこの事件を報じた事実は無く、当の東スポにしても本当に現場写真を載せていなかった。つまり、『悪役レスラーは笑う』や『流血の魔術』に書かれているような事件翌日の光景は、現実には存在する筈が無かったのである。これはどういうことか――。タ刊紙や週刊誌も隈なく調べてみた。結果、発見できたのは、『週刊サンケイ』(現在の『週刊SPA!』)に掲載された『アントニオ猪木が殴打された“新宿・夜の乱闘”』という記事のみ。但し、事件から10年を経て、新日本プロレスの人気が絶頂を迎えた辺りから、改めて事件は様々なメディアに“昭和プロレス史の重大事件”として再び登場している。が、不思議なのは、何故かそれらの記事の大半で、18時に発生した襲撃が“白昼”の出来事と書き換えられ、決まって「事件は一般紙でも報じられた」という決まり文句が添えられているのである。何故、そんな現象が起きたのか? 筆者は、その原因が『週刊少年サンデー』連載の『プロレススーパースター列伝』(原作:梶原一騎、作画:原田久仁信)にあると推察した。実在する人気レスラーの半生をドラマティックに描いたこの実録劇画には、タイガー・ジェット・シン編も存在し、実はその劇中で新宿伊勢丹前襲撃事件は“白昼の惨劇”として描かれていたのである。そこから察するに、読者(=プロレスファン)或いはプロレス関係者らは、知らず識らずのうちにこの劇画によって記憶を上書きされ、書き換えられた内容が、ほぼそっくりそのまま、以降のプロレス史の“常識”として語り継がれた――。そう理解すれば、全て辻棲が合う。なるほど、実際には見ていない現場写真の記憶も、劇画の1コマとのすり替えだったのだとすれば納得もいくのである。「一般紙でも報じられた」なる文言の謎については、未だ解けていない。何れにせよ、昭和のプロレスは謎ばかり。どこまで謎解きを行うかで、また面白さも違ってくる。 《文中敬称略》


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