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【不養生のススメ】(17) 週刊誌の特集に煽られるな





20180831 27
“食べてはいけない”・“食べてはいけない、はいけなくない”――。そんな話題が週刊誌上を賑わせている。最近、私のリンについての研究でも、『週刊新潮』と『週刊文春』で論争が起こった。そこで今回は、私の研究を通じて、科学とメディアの情報について読者にも考えてもらいたい。私が2007年に渡米した時、世界的にリードしているハーバード大学の疫学研究に携わるチャンスを得た。現地でこの研究の考え方・やり方を学べたのは、私の人生にとって大きな財産になった。疫学研究とは、大勢の健常な市民を何十年も追跡調査して、病気になった人が現れたら、過去の調査データから原因を探り出す研究だ。私が携わった研究は40年以上も追跡調査していて、しかもその調査内容は細かく、例えば飲む牛乳がファットかノンファット(※無脂肪)かまで調べる。こんな細かい生活習慣に関する調査を2年毎に行ない、コンピュータに蓄積している。協力する市民の数は何十万人という規模。どんな病気がどんな生活習慣に関わるのか、相関関係が見えてくる。しかも、調査中に癌等の病気と診断された場合、参加者は癌の組織まで提供する。遺伝子や蛋白質を調べて、より詳しい因果関係も調べられる。日本でも疫学研究はあるが、癌組織までの提供はしておらず、縮めようのない日米の差を痛感した。但し、疫学研究では病気のメカニズムはわからない。そこで私は別の研究室に異動し、動物モデルにて基礎研究に従事した。研究テーマは“リンと老化”だった。

リンは、カルシウムの次に体内に多く存在するミネラルだ。約80%がカルシウムと結合し、骨や歯の成分となる。残りは、細胞の成分、エネルギー伝達、糖や脂質代謝にも重要な役割を担っている。リン不足は、骨軟化症・歯周病・筋肉低下等を引き起こす。とはいえ、実際、リン不足はあまり問題にならない。何故なら、タンパク質と結合している有機リンを無意識のうちに十分に摂取しているからだ。ところが最近は、加工食品に含まれる、蛋白質と結合していない無機リン酸の過剰摂取が問題になっている。厚生労働省によると、成人1日に必要なリン摂取量は、男性約1000㎎、女性約800㎎だ。2015年の国民健康栄養調査では、成人のリン摂取量は、男性は平均1066㎎、女性は平均933㎎。この調査では食品添加物のリンの量は加算されていない。また、リンは表示義務がない為、実際、私たちのリン摂取量は不明だ。歴史的には、リン酸過剰摂取に対する懸念は腎臓病患者に限られていた。慢性的に腎臓の機能が低下すると、リンを体外に排泄できず、リンの血中濃度が高まる。その結果、リンとカルシウムが血管に沈着、血管の石灰化を促し、心血管疾患や死亡のリスクが高まる。しかし2014年、ジョンズホプキンス大学の研究者らは、健常者でもリンの過剰摂取が死亡リスク増加に関与することを報告した。1日にリンを1400㎎以上摂取した場合、全死亡リスクが増加するという内容だ。また、私たちの研究室では動物実験で、高リン酸が老化を促すことを発見した。抗老化遺伝子とされるクロト遺伝子を欠損したマウスは短命であり、皮膚、生殖器や筋肉の萎縮、肺気腫、骨異常、大動脈や全身の石灰化等、様々な早発性老化が認められた。クロト遺伝子を欠損したマウスは、血清のリン酸値が非常に高く、私たちは、この高リン酸が老化の原因と考えた。そこで、このマウスに遺伝子操作や食事療法を行ない、リン酸値を正常化させると、驚くことに、このマウスの老化やそれに伴う病気が殆ど改善した。しかし、次に高リン酸の食事を与えると、再び老化現象が起きた。従って、リンの過剰摂取は老化を促進すると考えた。そして、食品添加物を多く含む加工食品はなるべく避けることを促した。そんな中、最近、週刊新潮からリンに関するインタビューを受けた。私が前述の話を伝えたところ、新潮は他の専門家や企業の意見、実名の食品リストと一緒に、“食べてはいけない「国産食品」実名リスト”という記事に纏めた。但し、私は実名リストには関与していないし、其々の食品のリン含有量や健康への影響は承知していない。また同特集は、私が主張する“食べ過ぎてはいけない”とは違い、1回だけでもその食品を食べると健康に影響するような恐怖感を読者に与える構成になっている。この私のコメントに対して、今度は週刊文春から「リンの許容上限量は3000㎎。許容上限に達するリンを摂取しようとすれば、ソーセージでは1日67本になる」等と批判を受けた。確かに、私の研究は動物実験で、人間が日常的に食品添加物から摂取するリンに比べて相当多い。

20180831 28
私自身、添加物ゼロの生活を勧めているわけではない。食品添加物のおかげで食品の加工技術が向上し、食味の良い食品が安価に入手できるようになったのも事実だ。加工技術は人類の進歩にも大きく関与している。私は、「人には個人差があり、年齢や体質によって腎機能にも差がある。基準以下ならいくらでも食べていいという考え方ではなく、やはり摂取は最小限に留めるべき」と考えている。文春の批判にもそうコメントした。メディアの科学・医学情報は、専門家の客観的・科学的な査読をしておらず、業界のスポンサー等との利益相反に関しても公開義務もない。事後の検証もフォローアップもしない。編集者が科学論文の都合のいい部分を切り取って、“科学的根拠”と主張しているに過ぎないものが多い。読者の関心を集める為に、“食べてはいけない”だの“食べてはいけない、はいけなくない”だのといった極端な論争を引き起こしがちだ。私は、誰であれ、好きなものを楽しく食べればいいと思う。但し、楽しむ為には、どのように食べるかをもっと学ぶべきだ。例えば、私はチーズケーキが大好きだが、より楽しむ為に外食の時だけにしている。毎日食べればネガティブな影響が起こり、好物が楽しめなくなるからだ。酒好きは適量の酒を飲めばいい。でも、飲み過ぎは危険で、酒を楽しむことができなくなる。ジョージ・バーナード・ショーは、「食べ物に対する愛ほど誠実なものはない」といった。真の誠実な愛は、相手をよく理解して敬意を払うことだ。


大西睦子(おおにし・むつこ) 内科医師・医学博士。1970年、愛知県生まれ。東京女子医科大学卒業後、同大学血液内科入局。『国立がんセンター』・東京大学医学部附属病院を経て、2007年に『ダナ・ファーバー癌研究所』留学。2008~2013年にハーバード大学で肥満や老化に関する研究に従事。現在はマサチューセッツ州ケンブリッジ在住。著書に『カロリーゼロにだまされるな 本当は怖い人工甘味料の裏側』(ダイヤモンド社)・『健康でいたければ“それ”は食べるな ハーバード大学で研究した医師の警告』(朝日新聞出版)等。


キャプチャ  2018年8月号掲載




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