引きこもりの若者にお寺を開放した住職魂…北九州市真宗木辺派宝樹寺の『カフェテラ』に学ぶ

お寺をどう活かすかは、住職の思いによる。全国に70万人とも言われる引きこもりの若者に門を開いた住職がいる。北九州市の信州木辺派宝樹寺の林義淳住職(44)だ。自らの体験が背中を押した。

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月に2日だが、土曜日の午後になると、様々な要因で社会参加の場面が狭まり、就労や就学等自宅以外での生活の場が長期に亘って失われている“引きこもり”の若者たちがやって来るお寺がある。福岡県北九州市の真宗木辺派宝樹寺が催す寺喫茶『Café☆Tera(カフェテラ)』である。お寺に集まったからといって、別段畏まる必要は無く、過ごし方は各人の自由だ。お茶とお菓子を楽しみながら、ゆったりとした時間が流れる。参加者同士でお喋りしたり、スマホでゲームをしたり、本堂でゴロ寝したり。近くの海岸へ散歩に出かける参加者もいる。悩みを抱えた若者が心置きなく過ごし、話し合える居場所を提供し、社会に出る一歩を踏み出す力を養う為の活動に取り組むのが、同寺の林義淳住職(44)だ。「引きこもりの方たちは、“生き辛さ”を心に抱えています。お寺は仏事が大事ですが、悩みを抱えた人が気兼ねなく立ち寄れる、社会に開かれた場所であるべきという思いも、現在の活動に結び付いています」と話す林住職自身、“生き辛さ”を抱えて青年期を過ごしたという。先代住職の次男として生まれ、浄土真宗本願寺派の養成校である中央仕教字院(京都市)に入学し、得度したものの、僧侶にやりがいを見出せず、虚しい気持ちのまま卒業。自坊には戻らず、生き方の答えが中々見つからない。その頃、唯一の心の支えであったパンクロックのバンド活動に没頭した。そんな折、母親と兄が病気で入院したことから、平成6(1994)年から自坊に戻らざるを得ず、兄の代わりに法務を手伝うことになる。こうして門徒と接するようになると、「こんな自分でも人から必要とされている。自分の存在が認められている」という感覚が芽生え始め、「自分を必要としてくれる人に対して、僧侶として少しでも役に立ちたい」と、改めて仏教を学び直したのである。平成19(2007)年に父から住職を引き継ぐ。晋山に当たって、「今後、自分に何ができるのか?」と考えた林住職の目に留まったのが、「当時、問題視されていた引きこもりの方たちの姿でした。以前の自分と同じく、生き辛さを心に抱えている人たち、出口の見えない悩みに苦しんでいる若者…。皆、あの時の自分に見えました。と同時に、『1人でも親身になって耳を傾けてくれる大人が傍にいたら、どんなにか心強いのではないか』とも感じたのです」。

カフェテラを始めたのは平成20(2008)年11月。北九州市で引きこもり支援を行うNPO法人『STEP・北九州』で活動の要点を学び、同法人で支援を受けていた人たちに「お寺でも支援をしようと思っているので遊びに来て下さい」と声をかけたところ、早速、団体の代表者と共に数名が訪れた。以後、参加者は順調に増え続けたのだ。毎回十数名が参加し、年齢層は20代後半から30代前半が中心。「私とそれほど年齢差が無いからか、支援者と受益者というような堅苦しい関係ではなく、兄弟か従兄弟のような付き合い方にしています。彼らと接する時は普段着です。法衣や作務衣だと緊張させてしまうと思うからです」(林住職)。そんなカフェテラの雰囲気は、平成21(2009)年から毎月1回、宝樹寺がホームページで配信しているインターネットラジオ番組『カフェトーク♪』で聴くことができる。林住職は、「カフェテラに参加しようと思っても、他人と交流することが苦手になっている人にとっては、中々足を運び難いものです。実際に利用している参加者と共にインターネットラジオ番組を作り、声を通してその場の雰囲気を伝えることができれば、躊躇している人の不安も軽減して、足を向け易くなるのでは」との思いから『カフェトーク♪』を始めたという。収録に参加するのは、林住職と引きこもり経験を持つスタッフ2名に加えて、カフェテラの参加者が数名。カフェテラが催す山登りやカラオケ大会等のイベント情報、最近見た映画、旅先での出来事等、話題は様々。凡そ50分に編集し、ホームページにアップロードする作業は、林住職が自ら行う。出演者のリラックスした様子が目に浮かぶようで、『カフェトーク♪』のリスナーが実際にカフェテラに参加するようにもなった。

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8年目を迎えて、今や軌道に乗った支援活動だが、「開始当初は不安もあった」と林住職は話す。「始めるまでは、メディアで紹介される引きこもりのイメージが強く、『無気力で気難しい性格で、接し難いタイプの方たちだろう』と身構えていました。また、『若い人には、お寺に対して抵抗感があるのではないか』と不安もありました。しかし、実際に参加者と話してみると、確かに言葉数も少なく、会話の受け答えの間も長いとは感じたが、決して接し難くはなく、『メディアが発信するネガティブな情報に惑わされてはいけない』と感じた。また、お寺への抵抗感どころか、木造建築で広い本堂や畳敷きの部屋は、参加者にとって安心できる居心地のいい場所だとわかったという。不登校だった人、大学卒業後も就職先が見つからなかった人、職場の人間関係に躓いた人等、参加者の今に至る理由は其々だ。そんな参加者の話に、林住職は真摯に耳を傾ける。「仕事上、月忌参り等の際にお茶飲みがてら門徒さんのお話を聴き続けてきたことで、傾聴することの大事さが自然と身に付いたのだと思います。それが、引きこもりの方たちとの交流にも役に立ちました」。こうした姿勢が、引きこもっていた心を少しずつ解いていく。他人との会話にブランクがあることから、声が小さく、言葉数の少なかった参加者も、回を重ねると、会話のキャッチボールができるようになっていく。それまで自分の考え方だけに囚われていた心が和らぎ、他者と接して、その考え方に触れる機会が増えることで、物事の見方や考え方に変化が生まれる。引きこもり経験のあるカフェテラスタッフ2名の存在も、環境作りには大きい。参加者からは、「経験したことや理由は違っても、生き辛さを感じている者同士なので、ここは安心できる」「自分と同じ趣味を持っている人がいるので、自分の趣味嗜好を気兼ねなく話せるところがいい」「裸の自分を出せる」といった感想が寄せられている。参加者の9割はリピーターで、その内の約半数は、ここに来てから仕事に就くことができたようだ。引きこもり状態を脱して社会参加へ第一歩を踏み出す場として、着実に成果を上げているのだ。

引きこもりの若者は、平成22(2010)年の内閣府調査だと、全国に約70万人いるという。当人のみならず、その家族を考え合わせると、数百万の人々が悩み苦しんでいることになるだろう。宝樹寺のような支援活動が多くのお寺に広がっていくことが期待される。取り組む際のポイントを林住職に聞いた。「お寺単体で始めようとすると、支援のコツを身に付けたり、準備等が大変です。既に地域で引きこもり支援に取り組まれているNPO等があれば、お寺から協働を持ちかけて協力してもらうと、スムーズに支援活動を始められるでしょう。私の場合も、『お寺単体で活動を始めても、対象者に信者獲得の勧誘活動と思われかねない』と考えて、先ずは地域で活動していた“STEP・北九州”に支援のコツを学びました」。安易に取り組める活動でないことは確かだろう。林住職は現在、『STEP・北九州』の理事も務め、ボランティア団体等と連携しつつ、活動を展開している。林住職は、こうも話す。「世間の常識やルールに縛られないお寺という空間こそ、日常生活において精神的に追い込まれた方たちの心を一休みさせる場所に、うってつけの場所だと再認識しています。寺院は市民の心を休ませ、回復させることができる機能を備えた施設――いえ、元々心を休ませる社会のシェルターだと思います。参加者と接している時は、気持ちの上でお坊さんの衣を脱いで、支援者ぶらず、こちらからくだらない話や失敗談、僧侶にもある悩みなんかを話しかけると、参加者と打ち解け易くなるものです」。支援団体とのネットワークを築きつつ、お寺という安らぎの環境を最大限に生かし、悩みを抱えた人に自然体で接する。お寺の『Café☆Tera』『カフェトーク♪』を通じて、強張った心を解き解してきた林住職の活動からは、お寺だからこそできる社会貢献のヒントが見えてくる。


キャプチャ  2016年4月号掲載


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