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【Global Economy】(107) イギリス、それでも原発推進の理由…廃炉・建設市場へ技術養う

『日立製作所』がイギリス政府の支援を得て、原子力発電所の建設計画を進めている。日本のインフラ輸出の目玉として期待がかかるが、『東京電力』福島第1原発事故以来、原発への逆風は強まっている。イギリスが原発を活用しようとする背景を探った。 (編集委員 倉貫浩一)





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日立が原発建設を予定しているイギリスのアングルシー島は、本土と橋で結ばれ、ロンドンから特急列車で4時間程かかる。古代の巨石遺跡や美しい海岸線が有名で、イギリスの保養地として知られる。島の主要産業は観光業と農業で、7万人の人口は減少が見込まれている。島の北部で稼働していた原発は、老朽化の為に停止した。日立は、隣接地に原発2基を新設する計画で、2020年代前半の運転開始を目指す。ビジネス・エネルギー・産業戦略大臣のグレッグ・クラーク氏は6月、議会で「日立が建設する原発は、現在の電力需要の6%の電力を供給し、建設や運転に関わる数千の雇用を提供する。原子力は重要な役割を果たす」と意義を語っている。イギリスは、北海油田で石油・ガスの採掘を始めたことでエネルギー輸出国となり、自給率が飛躍的に高まった。この結果、原発の役割の重要性が相対的に低下した。だが、2000年代に入り北海油田が枯渇し始め、エネルギーを輸入に頼らざるを得なくなった(※グラフ①)。イギリスが原発政策を推進しようとしている理由について、『海外電力調査会』調査部門調査第二部長の奈良長寿氏は、「エネルギーの自給率が低下し、輸入国に転じたことで、安全保障上の懸念が高まった為だ」と指摘する。火力発電の燃料を輸入せざるを得なくなったことで、イギリスの自給率は、2000年の74%から2016年に67%まで低下した(※表②)。更に、「2020年代までには30%程度まで下がる」との見方もある。

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奈良氏は、「イギリスはノルウェーや中東から石油とガスを輸入している。今後、更に自給率が下がり、ロシア等から大量のガスを輸入する事態になれば、外交上の弱みを握られると懸念している」と見る。
ヨーロッパには、エネルギー輸入でロシアへの依存が高まることへの根強い警戒感がある。ロシアがエネルギー価格の交渉で、供給力を利用して外交政策で圧力をかける恐れがある為だ。一方で、イギリスの長期的な電力供給体制は不透明さを増している。「2030年までに、15基ある原発の内、14基が老朽化で稼働を止める」と見込まれている。電力の供給力を維持する為、イギリスは8つの地域で原発の新設計画を持ち、様々な支援策を講じている(※表③)。代表的なものが固定価格買い取り制度(※FIT-CfD)だ。原発事業者の投資回収を確実にする為、事前に決めた固定価格より電気の市場価格が下回った場合、差額が補填される。また、原発建設の許認可プロセスを効率化したり、建設費用を一定額まで債務保証する制度も設けたりしている。日立は、総事業費約3兆円の内、イギリス政府から約2兆円の融資を受けることで合意したが、買い取り制度の固定価格を巡る交渉が決着していない。価格を高く設定すれば日立に有利になるが、イギリスにとっては補助金の額が増え、最終的に消費者の負担増に繋がるからだ。それでもイギリスが原発を選択するのは、地球環境問題への対応もある。イギリスは、温室効果ガスの排出量について、2050年に1990年比80%削減を掲げている。この為、発電コストは安いが、二酸化炭素を大量に出す石炭火力には頼れない。二酸化炭素を地中等に封じ込める仕組みを持たない石炭火力は廃止する方針だ。イギリスは原発の黎明期から原発ビジネスに取り組んできた。だが、国内では関連技術が衰退しており、フランスや日本等海外企業に頼らざるを得なくなっている。北海油田への依存によって人材と技術が不足していることが影響している。

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だが、原発建設を継続することで、人材を呼び込み、世界の原発建設と廃炉ビジネスで優位に立とうとしている。イギリスは2013年、原子力戦略『The UK's Nuclear Future』を纏めた。今後数十年間で、世界の原発の建設市場は140兆円、廃炉市場は35兆円に達すると見込み、原子力人材育成の為の組織も作った。次世代炉の開発も視野に入れている。原発新設は、海外から人材を集めて技術力を高める狙いがある。イギリスの政策には、エネルギー安全保障上の問題を抱える日本にとって参考になる点が多い。日本のエネルギーの自給率は、2000年には20%だったが、原発事故を経て、準国産エネルギーとして位置付けられる原発の再稼働が遅れたことで、2016年には8%まで下がった。石油・ガス等の資源を輸入に頼る日本の自給率の低さは深刻だ。日本は、エネルギー政策の方向性を示すエネルギー基本計画で、太陽光や風力等の再生可能エネルギーを将来的に主力電源とすることを掲げる。だが、再生エネは時間帯や天候によって変動する出力を均す必要があり、技術面やコスト面で課題を抱えている。電力の安定供給の実現には、日本もイギリス同様、原発の有効活用が欠かせない。しかし、政府は原発の新増設について明言を避けている。原発事故の影響で再稼働が遅れる間に、技術と人材の枯渇も懸念される。海外への原発輸出は有効な手立てではあるが、国内での新増設をどう進めるのか、しっかりとした議論を前に進めなければ、本質的な問題解決にはなるまい。


キャプチャ  2018年9月28日付掲載
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