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【言論StrongStyle】(24) サウジアラビアとはサウド家の私物なのだ、国王は世襲で独裁制である





人類の歴史を振り返ると、2つの思想が戦っていることがわかる。1つは、“人を殺してはならない”が当たり前の国。もう1つは、それが通じない国。中東最大の原油埋蔵量と生産量を誇る国・サウジアラビアも後者だったことに、衝撃を受けた日本人も多いのではないか。サウジアラビアのジャーナリストであったジャマル・カショギ氏が、10月2日にトルコ国内のサウジアラビア領事館を訪れた後に行方不明となった。どうやら、サウジアラビア政府の殺し屋に暗殺されたらしい。しかも、遺体の首が切断されていたので、残虐な拷問を加えられたのではないかとの疑いがもたれている。サウジアラビアはアメリカの同盟国であり、G20にも参加している富裕国である。長年、“中東のヒトラー”と呼ばれたイラクのサダム・フセインと対立し、現在も過激なイスラム原理主義を掲げるイランと、事ある毎に激しく罵り合っている。国内に多くのユダヤ人を抱え、イスラエルの安全保障を国策の最優先事項の1つとするアメリカは、伝統的にサウジを“話がわかる国”と見做して関係を尊重してきた。イスラエルを無碍にしない国と。ところが今回の事件で、人権の尊重を世界に説いてきたアメリカとしては苦しい立場に追い込まれた。中東情勢は“敵の敵は味方”との格言に象徴されるように、常に暗闘が繰り返され、時に武力紛争に発展する。争点は2つ。1つは石油資源の争奪。もう1つは宗教問題で、ユダヤ教のイスラエルとイスラム教諸国の対立が軸だ。但し、イスラム諸国も一枚岩ではなく、原理主義を掲げるシーア派はイランを盟主とし、比較的穏健なスンニ派の代表がサウジアラビアであると聞かされてきた日本人には、何が何やらわからないだろう。

そして、約10年前に中東から北アフリカで『アラブの春』と呼ばれた革命が多発した。インターネットを駆使して革命運動を展開したので、『フェイスブック革命』とも呼ばれた。ところが、民主化どころか暴乱に苦しめられており、多くの国が独裁に回帰している。しかし、サウジアラビアの実態について、イスラム研究者で知らぬものなど1人もいない。よくよく勉強しない人々が、“比較的穏健”という言葉を吟味せずに、「そんなものか」と勝手に思い込んだだけだ。サウジアラビアはイスラム原理主義の国で、ムハンマドの時代の暮らしを本気で理想としている。因みにムハンマドは、我が国の聖徳太子と全く同時代の人物である。女性の人権など皆無。湾岸戦争の時、アメリカ軍の女性兵士がホットパンツで街を歩き回り、「イスラムの教えに反する」と外交問題に発展した。サウジアラビアの女性は、飛行機が領域外に出ると一斉にベールを脱ぎ棄てるとか。一度でも外国を見ると、徹底した男女差別の自国に疑問を持ってしまうらしい。しかし、大抵のサウジの女性は「自分は父親や夫の持ち物である」と教えられて生きている。イスラム教の聖典『コーラン』は、それ自体が法律としての効力を持ち、裁判でも世俗の法より優先される。「それではヨーロッパ中世の魔女裁判の時代と同じではないか」と思われるかもしれないが、その通りだ。抑々、サウジアラビアとは“サウド家のアラビア”の意味である。サウド家とはアラビア半島の豪族で、第1次世界大戦前後にオスマントルコ帝国が弱体化、そして崩壊していくどさくさに紛れて国を名乗った。国というより、自分の領地をサウジアラビアと名付けたら、いつの間にか周囲から国のように扱われたというのが実態だ。それが今も続いている。要するに、サウジアラビアとはサウド家の私物なのだ。現に、歴代国王はサウド家の世襲で、完全な独裁制である。但し、間違っても我が国の皇室と対等の存在等と考えてはならない。日本で言えば、戦国時代の斎藤道三の子孫が国王を名乗っているようなものである。幸か不幸か、20世紀中盤からは石油資源によるオイルマネーで、国自体は富裕である。より正確に言えば、サウド家のおこぼれで国民は生活させてもらっている。こんな国が“比較的穏健”となる時点で、如何に中東が我々日本人と異なる過酷な世界であるかが理解できよう。

中東は1948年の第1次中東戦争以来、10年に1回戦争が起きる地域と言われてきたが、イラク戦争以降は紛争が慢性化している。理由は勿論、アメリカのイラク戦後の処理が稚拙で、平和秩序とかけ離れてしまったからだ。そこにアラブの春が輪をかけた。フェイスブック革命以前、中東諸国は2つのうち、どちらかの方法で秩序を保っていた。1つは、軍国主義により正気を保つ方法。エジプト、リビア、チュニジアは、軍に権力基盤を置く大統領の独裁により、国を纏めていた。革命により政権を倒したはいいが、どこの国でも軍の主導による秩序回復が渇望されている。どこの国でも民衆の多数の意思に任せれば、「イスラムの教えに従って生きたい」となるので、国が纏まらないからだ。ヨルダン等は国王と軍を中心に纏まる傾向があるが、サウジアラビアより少しだけマシとされるクウェートの王家は、イラクに侵略された時に国民を見捨てて真っ先に逃げ出した連中だ。正気を保つもう1つの方法は、ファシズムだ。イランの宗教原理主義がこれに近い。つい最近までは、イラクとシリアがバース党独裁により国を纏めていた。イラクもシリアも宗教も民族もばらばらなので、独裁政党が力尽くで纏め上げるしかなかったのだ。今や国としてのシリアなど跡形もないが、それでもバース党のバシャール・アサドは、“21世紀に入って最も人を殺した独裁者”の記録を更新しながら、今日も戦っている。扨て、石油を依存する我が国にとっても、中東情勢は重大な関心だ。では、彼らとどう付き合うべきか? 国益に従って付き合うべきである。間違っても問題を解決しよう等と考えてはならない。問題は解決しないから問題なのであって、対処し続けるしかないのだ。日本人はなまじっか問題解決能力が高いから、「世界を平和に…」等と考えるが、止めたほうがいい。


倉山満(くらやま・みつる) 憲政史研究家。1973年、香川県生まれ。中央大学文学部史学科卒。同大学院文学研究科日本史学専攻修士課程修了。在学中の1999年から2015年まで国士舘大学日本政教研究所非常勤職員。2012年に『希望日本研究所』所長、ウェブ配信サービス『倉山塾』開講。2013年に『YouTube』上に『チャンネルくらら』開局。『国際法で読み解く世界史の真実』(PHP研究所)・『右も左も誤解だらけの立憲主義』(徳間書店)・『工作員・西郷隆盛 謀略の幕末維新史』(講談社)等著書多数。近著に『明治天皇の世界史 6人の皇帝たちの19世紀』(PHP新書)。


キャプチャ  2018年11月6日号掲載




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