【ヘンな食べ物】(05) 和食に合いそうな昆虫

「昆虫なんてカリカリした食感だけで、風味なんてあって無いようなもの」――。そんな私の偏見が覆されたのは、タイ南部にあるハジャイという町でのことだった。「凄く美味しいタガメ料理がある」と聞き、地元ホテルのコックさんに「調理を見せてほしい」と頼んだ。タガメとは田圃に住んでおり、大きな鎌のような前肢で小魚やカエル等を捕まえる水棲昆虫だ。ホテルのキッチンに行ったものの、面食らったのは用意された食材の少なさ。アブラゼミを平べったくしたような体長約0㎝のタガメがたった1匹。後は、エビを塩漬けにして発酵させた味噌のような“ガピ”・唐辛子・大蒜。以上。「えっ、これで料理になるの?」と訝るが、コック氏は平然と料理を始めた。先ず、ガピをフォークの先に付けてガスの火で炙る。「こうすると香りが良くなる」とのこと。次に、主役であるタガメを、ガピと同様にガスの火で30秒ほど炙る。そして、背中の羽根を取ると、下から小さくて薄い肉が現れた。その肉の匂いを嗅いでビックリ。何と、甘酸っぱいライムのような匂いがするのだ。実は、この香りがタガメ料理の胆だった。このタガメ肉をガピ・大蒜・唐辛子と一緒に石臼ですり潰し、水を注ぐと出来上がり。名称は『ナンプリックメンダー』。実はこれ、“ご飯の供”としてハジャイでは絶大な人気があるとのこと。確かに、ご飯と一緒に食べると、唐辛子の辛さとガピの発酵した旨味としょっぱさ、それにタガメ独特の爽やかな風味がたまらない。ライムと茗荷と柚子が合わさったような風味なのだ。これは、日本の食材との相性も良さそうだ。例えば、冷や奴に乗せるとか、胡瓜と一緒に和えるとか、蕎麦の薬味にも使ってみたい…。和食に合う昆虫があるとは夢にも考えたことはなく、「まだまだ世界は広い」と驚いたのだった。


高野秀行(たかの・ひでゆき) ノンフィクション作家。1966年、東京都生まれ。早稲田大学第1文学部仏文科卒。『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)・『アジア未知動物紀行』(講談社文庫)・『世界のシワに夢を見ろ!』(小学館文庫)等著書多数。


キャプチャ  2016年9月22日号掲載
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