【「佳く生きる」為の処方箋】(19) セカンドオピニオンの罠

「手術に対して少しでも迷いがあるなら、主治医以外の医師の“セカンドオピニオン”を是非聞いて頂きたい」と前回書きました。今回は、これを聞く際に遭遇しがちな“落とし穴”について述べたいと思います。つい先日も、別の病院で「手術を勧められた」という患者さんが相談に来られました。「『体の負担が軽くて済む最先端の手術法があり、今なら病状が軽度なので、それを受けられる』と医師から言われた。急いで手術をしたほうがいいでしょうか?」といった内容でした。心臓手術を受ける基準については、学会のガイドラインで症状や検査所見に応じた段階が設けられています。平たく言うと、手術を“したほうがいい”“してもいい”“しなくてもいい”“しないほうがいい”という4段階です。最先端の手術法を勧めた医師は、「この患者さんの病状は“してもいい”段階であり、もう少しすると“したほうがいい”段階に進む」と判断したそうです。そして、「最先端の体に優しい手術法は、“してもいい”段階の今だからこそ受けられる」と。以前流行ったフレーズを借りるなら、「いつやるの? 今でしょ」という訳です。しかし、私からしたら手術は未だ“しなくてもいい”段階です。仮に“したほうがいい”段階にまで進んだとしても、「標準的な手術であれば術式変更も無く、精細な手術も可能なので、何の問題もありません」と答えます。最先端の手術は“今”でないと受けられないですが、その利点は美容面と多少の早期回復であり、肝心の手術結果に違いが生じる訳でもありません。健康保険が利く標準手術は、もう少し先でも未だ十分に間に合うのです。この場合は、セカンドオピニオンを受けることで手術に“待った”がかけられた訳ですが、逆の場合もあります。セカンドオピニオンを求めて行った先で、「今ならできます」と最先端治療を勧められるケースです。

この連載の第2回でも書きましたが、“切らずに治す”とか、“極小さな切開で手術ができる”といった体に優しい“低侵襲手術”は、患者さんにとって非常に魅力的で、ピカピカ光輝いているように感じられるものです。医師もそれがわかっているから、「今ならできます」と誘導しようとする。患者さんはスーッと吸い寄せられたところでパクッと捕まえられて…。ちょっと過激な表現ですが、そんな構図になっているのです。勿論、そのような外科医に捕獲されても、患者さん本人が心から納得してその最先端手術を受け、結果も満足できるものであれば全く問題はありません。健康保険が利かず、高額な費用がかかったとしても、結果が良ければ患者さんの満足度は高いでしょう。但し、それらの手術の中には“早過ぎる手術”や、“必要の無い手術”も含まれていた可能性があるのです。低侵襲とはいえ、手術は手術。合併症等の危険性もゼロではないことは知っておいてほしいと思います。セカンドオピニオンは迷いを断ち、納得して手術を受ける為のものなのに、そんな落とし穴があるなんて、一体どうしたらいいのか――。陳腐ではありますが、最終的には、その医師の人間性を信頼できるかどうかがカギになると思います。その際、信頼のポイントは2つ。先ずはエビデンス(科学的根拠)に基づき、標準的な手術についてもきちんと説明してくれる。そして、その上で「自分の経験から判断すると…」と、医師個人の見解を率直に伝えてくれる。この2点に、医師の誠実さが現れると考えます。「この人になら医師としてだけでなく、1人の人間としても命を託せる」と思えたら文句無し。やはり、信頼に勝るものは無いのです。


天野篤(あまの・あつし) 心臓外科医・『順天堂医院』院長。1955年、埼玉県生まれ。日本大学医学部卒。『亀田総合病院』『新東京病院』等を経て、2002年に順天堂大学医学部心臓血管外科教授に就任。2012年2月18日に天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀。2016年4月より現職。著書に『一途一心、命をつなぐ』(飛鳥新社)・『この道を生きる、心臓外科ひとすじ』(NHK出版新書)等。


キャプチャ  2016年9月22日号掲載
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