【中外時評】 構造変化、ITで商機に――長期の視点で市場育成

様々なものを情報ネットワークで繋ぐIoTや人工知能(AI)等、進歩の著しいIT(情報技術)は、強い企業を作る上で助けになる。但し肝心なのは、「利益を上げる仕組みをどう築くか?」という構想力だ。経済・社会の構造変化を自社の成長に繋げようと、大きな絵を描く企業もある。ドローン(小型無人機)を飛ばして、工事をする現場の3次元測量データを作成。完成図面との差を自動計算して、施工する範囲や掘削する土の量等を正確に掴む――。必要なダンプカーの台数や工事日数を割り出し、建設会社が効率的に作業を進められるようにする『コマツ』の『スマートコンストラクション』というサービスだ。工事が始まれば、建設機械がインターネット経由で現場の起伏を示す3次元データを受け取り、自動で整地や掘削をする。機械任せで作業が楽になる。このサービスが生まれた背景には、コマツの建機ユーザーである建設会社が置かれた状況がある。建設業界では今後、人手不足が一段と深刻になる。国土交通省によると、建設現場で働く技能労働者約340万人の内、10年以内に約110万人が高齢化等の理由で離職する可能性がある。全国約45万5000の建設会社の96%は、従業員が20人以下の企業だ。小規模の建設会社にとって人手不足の影響は大きく、経営を直撃する。

一方で、橋梁やトンネル等、老朽インフラの建て替えや維持の工事は相次ぐ見通し。災害の被害を小さくする“減災”の観点からも、インフラ対策は避けて通れない。建設会社の出番は増える。建設業は地域経済の担い手でもある。労働力不足という難題はあるが、地方創生と老朽インフラ対策の為、建設業の社会的役割は高まる――。そんな見取り図を描き、建設会社の生産性向上の支援策としてコマツが組み立てたのがスマートコンストラクションだ。建設会社の経営改善は、コマツの利益にも繋がる。サービス開始は昨年2月。建設会社の生産性向上という目標に対し、現在の達成度は「中間地点への8合目に来た辺り」と、同社執行役員でスマートコンストラクション推進本部の四家千佳史部長は話す。“現場の見える化”はできたが、最も効率よく作業をする為に各区域をどんな順番で工事するかという問題や、ダンプカーの待ち時間削減等、課題は多い為だ。コマツは建機にセンサーを取り付けて、掘削等の細かな動きをデータ化している。それらのビッグデータをAIで分析し、建機を無駄無く動かすことも視野にある。建設会社の生産性向上が進めば、その果実をコマツとの間でどのように分け合うか、新たな仕組みを考えたいという。それは、企業の中長期の成長戦略に他ならない。

医療の効率化の流れを成長の梃子にする絵を描くのが『テルモ』だ。測定値を電子カルテに自動送信する血圧計や血糖値測定器等を『HRジョイント』シリーズとして製品化。これらを病院の中だけに留まらず、地域医療の現場へも普及させる戦略だ。病院・診療所・訪問看護ステーション・介護施設・調剤薬局等をインターネットで結び、個人の健康データを共有する“地域医療連携”が各地で進もうとしている。個人の健康状態を日頃から管理することで、病気の予防や医療費削減に繋げる。テルモとしては、「自ら情報システムを組んで、製品販売で得られる以上の利益を取る」という選択肢もある筈だ。だが、「サーバー利用に課金する等、情報システムで稼ぐつもりは一切無い。当社の収益源は飽く迄も強みの医療機器」と、同社HRジョイント責任者の小沢仁氏は言う。情報ネットワークの構築はこれを得意とする企業が多い為で、地域毎に協業してテルモは医療機器の供給に徹する考えだ。「“何でも自前で”は商機を狭める」との判断がある。コマツとテルモの戦略には共通点がある。製品の売り先、つまり市場を自らの手で育てようとしている点だ。企業がITを経営に活用してこなかった訳ではない。ただ、部品在庫の圧縮や資産効率向上を進めるサプライチェーンマネジメント(SCM)に代表されるように、ITを業務効率化の為に使ってきた傾向が強い。業務合理化の意義は勿論あるにしても、企業を新たなステージに導く視点がもっと欲しい。ITの使い方も、事業分野や企業戦略の違いによって“百社百様”になる。手本になる企業は無い。 (論説副委員長 水野裕司)


⦿日本経済新聞 2016年9月25日付掲載⦿




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