ATM18億円不正引き出し事件、囁かれる暴力団関与の噂――警察が警戒する“第2弾”、カギを握る“地下銀行”の存在

全国のコンビニATMから総額約18億6000万円が不正に引き出された事件は、最早“芸術”とさえ呼べるお手並みだ。暴力団員が次々と逮捕される中、これがヤクザが頭脳で勝負していく“分岐点”ともなる今回の事件。知られざるサイバー犯罪の実態を追跡する。 (取材・文/フリージャーナリスト 片岡亮)

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全国のコンビニ等にあるATMから一斉に約18億6000万円が不正に引き出された事件で、警察は“第2弾”を警戒している。というのも、銀行側が根本的な対策を取れていないからだ。発端は、南アフリカ共和国の『スタンダード銀行』から顧客情報が流出したこと。同行が発行するクレジットカード情報1600枚分が漏れ、偽造カードが作られた。それが日本国内のATMで使われ、現金が大量に引き出された。事件の実質的な被害者は同銀行である。今年5月15日の早朝5時過ぎから約2時間半の間だった。引き出しに使われたATMは、東京都・神奈川県・埼玉県・静岡県・愛知県・大阪府・新潟県・福岡県等の約1800台。海外のカードが利用できる『セブン銀行』・『ゆうちょ銀行』・『イーネット』が主なターゲットで、100人以上の人間が一斉に限度額の現金を引き出した。1枚のカードで複数回引き出したケースもあり、全国で合計2万回近くに上った。一部のATMでは不審な引き出しを検知し、取引を中断。カードを吸収したところ、機械内に残った偽造カードは全て中国系の焼き肉店のクレジットカードだったという。南アでは、以前からATMに特殊な装置を付けて利用者のカード情報を盗み取る犯罪が相次いでおり、過去に逮捕された犯罪者は中国やマレーシアに住む中国系の男たちだった。中国マフィアと関係が明らかになった者もおり、この手の犯罪に中国人が絡んでいることは間違いない。ATMでの海外カードの対応に関しては、2020年東京オリンピックも見据えた外国人観光客によるスムーズな現金引き出しの為、政府が昨年、成長戦略として改善を促進したばかりである。中でも対応に積極的だったのがセブン銀行(2万2000台が対応)とゆうちょ銀行(2万7000台が対応)で、その結果、セブンのATMは海外カードの利用件数が昨年、前年比63%も増加。これを見た各メガバンクも対応し、ATMの設置を急いでいるところだった。しかし、客の利便を急ぐあまり、犯罪防止が弱くなっていた訳だ。特にセブンは銀行業務を殆どせず、提携銀行からの手数料を稼ぐビジネスモデルである。その為、利便性に特化し、ATMは英語・中国語・韓国語・ポルトガル語に対応となっている。その意味では、真っ先に狙われる存在だったのだ。

ATMのセキュリティーに詳しい専門家によると、「偽造カードでも、正しい顧客情報が記録されたものならATM上で検知することはかなり難しく、今、対策できるのは引き出し限度額の引き下げしかない」という。実際、セブン銀行は事件を受けて5月27日、海外カードによる限度額を1回当たり10万円から5万円に引き下げることを発表した。ゆうちょ銀行は既に昨年、偽造カード対策として20万円から10万円に引き下げていたのだが、更なる引き下げを検討中だという。一方で警察は、この大規模犯罪に当初「大がかりな国際犯罪グループが関わっている」とみていたが、早々に、そのターゲットは中国マフィアと連携した日本の暴力団とされつつある。その証拠に、続々と逮捕されているのは皆日本人で、昨年12月27日にも偽造カードを使って、関東地方のATMで約1億円の盗難を行ったのも、同じグループだと見られている。こちらはエルサルバドル共和国のクレジットカード情報が偽造されているが、南アと中米ではかなりの距離があって、直接の行き来は少ないことから、「日本人を中心とした犯行グループが中国マフィア等と手を組んで、国際的な犯罪情報入手で動いた」と見るほうが妥当だ。先月上旬、神奈川県警は藤沢市の通信機器販売会社役員・辻村賢司容疑者と、橫浜市の無職・佐久間宇宏容疑者を逮捕。2人は、大和市と横浜市のコンビニ2店舗のATMから白色の偽造カードを使って240万円を引き出した容疑が持たれているが、警察の調べに対し「全部で1200万円を引き出した。報酬を合計55万円貰った」と供述している。後日、別件で200万円を引き出した容疑で再逮捕された。佐久間容疑者を知る男性は、「最近、ガラの悪い連中と一緒にいるところを何度か見た」と証言している。また今月5日、静岡県警はコンビニ2店舗で50万円を引き出した福島県郡山市の建設作業員・国井将平容疑者を逮捕。同県内の被害総額は、計25店舗で約2600万円。他の共犯者と共に車で移動していたと見られている。続いて東京都では、新宿区の物品販売業・小幡研二容疑者と、同区の職業不詳・渡辺一穂容疑者が、日野市のコンビニ4店で550万円を引き出した疑いで逮捕された。「知人の男に引き出した現金とカードを渡し、報酬を貰った」と供述している。埼玉県でも、職業不詳の小西和俊容疑者が、草加市のコンビニで60万円を引き出した疑いで逮捕。本人は「身に覚えがありません」と否認しているが、コンビニの防犯カメラには小西容疑者の姿がはっきりと映っていた。今月12日には、静岡県で730万円を引き出した容疑で、神奈川県平塚市在住の大野義祐容疑者が逮捕された。大野容疑者は、コンビニ2店舗で73回にも亘って現金を引き出していたが、大野容疑者の知人は「誰かにコキ使われて雑用を熟しているようだった」と証言している。

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これらの容疑者は皆一様に仲間数人と車で移動しながら犯行に及んでいたとみられ、グループから指示を受けた“出し子”(引き出し役)と呼ばれる実行犯として逮捕されているが、その奥にいる主犯には行き着いていない。ただ、今月2日、新潟県警が大規模逮捕に至った11人の内の1人は、『6代目山口組』系組幹部の田中純也容疑者と判明した。県内のコンビニ11店舗で1140万円を引き出した疑いで、県内の被害8800万円の内一部を摘発。ここでやっと暴力団の一端が出てきた。この最大級のATM犯罪、その手口は磁気カードの悪用だ。北米では大半のカードがICチップカードになっているが、日本では未だ広く流通する古いタイプの仕組みが仇となった。日本のセキュリティー対策が遅れていたのは、これまで日本の金融機関が国際送金に消極的な対応をしていた為だ。インターネットのオンラインバンキングのサービスも、日本語による案内が大半。国際送金はかなり面倒な作業が必要で、手数料も高い。これで逆に利用者が少なく、犯罪も増えていなかった。名目上は犯罪対策やテロ対策としていたが、これは逆に弱点ともなった。それだけに、今回の犯行は外国人だけでやれるものではなく、日本の脆弱性を熟知している国内犯罪者の手助けが不可欠だった。海外では、発展途上国でも出稼ぎ労働者の仕送り目的等で、携帯端末による送金等も普及している為、寧ろセキュリティーは二重三重で強化されてきた。途上国では人々のビジネス欲も高く、“事業の為の借金”は日本よりずっと需要がある為、東南アジア諸国の銀行のほうが日本のそれより金利が高いのである。経済成長率が落ちている日本は、その結果として海外送金にも後ろ向きで、今回の事件の遠因となった。1億人以上の人口を擁し、商売が自国内だけで成立してきたこともあり、地理的な孤立と言語的な孤立の両面を生んだが、一方でグローバル犯罪についていけない“内弁慶”となっていた訳である。今、個々の銀行で付け焼刃的なセキュリティー対策をしても、世界各国で進められる送金システム強化を認識しない限り、同様の事件は起こり続ける。台湾出身で、日本で長く証券マンとして勤め、現在はバングラデシュで金融取引に携わっている実業家の李争融氏によると、「過去の大規模な金融犯罪では、引き出された現金は直ぐに地下銀行へと消えるのがパターン」だという。

「現金であっても、一旦は犯罪者グループによって纏められた後、口座から口座へと移され、地下銀行に持ち込まれます。地下銀行は政府によって承認された金融機関ではないので、表で取り扱うことができないカネが横行します。日本の韓国系パチンコチェーン“マルハン”が作ったカンボジアの銀行等も、そういったカネが出入りしていると言われていますし、プノンペンに住む暴力団の元大物幹部がそれを取り仕切っているという話もあります。地下銀行による国際送金は、日本の銀行なんかよりずっとスムーズで、国から国へと渡して、たとえ犯人が全員逮捕されてもカネを取り戻せない仕組みができています」。ただ、これは犯罪者にとっても危険な話だという。「地下銀行に関わる連中は殺し屋を雇っていて、都合の悪い仲間を口封じで殺すこともしょっちゅう。『分け前を海外で渡す』と言われ、渡航したまま帰ってこなかった人も数知れず」。その話で思い当たるのが、50代の日本人で、暴力団と親密に交際する実業家のAだ。Aは十数年前、マネーロンダリングを手伝った際に、仲間の1人をフィリピンで事故に見せかけて殺害したという。Aをよく知る女性が証言する。「Aは交通事故に見せかけて、その人を殺し、何食わぬ顔で帰国しました。でも、殺された人の仲間がずっと疑念を抱いていて、フィリピンの警察に多額の賄賂を渡してまで捜査を続けてもらっていたんです。それを知らずに2年前、Aは『ほとぼりが冷めた』と思ってマニラに飛んだところ、現地で逮捕されたんです。Aは日本の外務省に助けを求めましたが、引き渡し条約も無いので助け舟は無し。長く拘留されて終身刑も目前という中で、闇社会に懇願して2億円ものカネを支払って実刑を逃れ、日本に帰れたんです。でも、帰国後のAは借りのある暴力団の言いなりで、何でもかんでも協力していたところ、先日、暴力団絡みの事件で逮捕されました」。実際、Aの経営する会社は、突然の休業状態となっている。何れにせよ、犯罪の国際化が進む中で、「IT企業が続々と急成長しているバングラデシュでは、犯罪エンジニアも次々に生まれている」と前出の李氏は指摘する。「今、台湾のIT企業は続々とバングラデシュ人を雇っています。インド人同様に理系に強い人が多くて、イギリス連邦の1つなので英語も堪能ですし、何より欧米からの下請け仕事での経験が豊富です。天然資源が無い国なので、外貨を得る為にチームワークに長け、勤勉。報酬が高額化しているITエンジニアの採用市場で、バングラデシュ人はお買い得なんです。一般事務や営業なら中国人でよくても、エンジニアはバングラデシュ人が上。インド人もITに強いですが、文化的に1つの会社で長く働こうとはしません。その点、バングラデシュ人はチームに愛着を持つので、そこも利点です。ただ、中にはダークサイドに走る者もいて、今、流行しているのが、銀行ATMに感染させるコンピューターウィルスの開発です」。

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これは“マルウェア”と呼ばれる類のもので、ATMへの感染は7年ほど前に発見されたことをきっかけに存在が広まった。ATMに特殊なカードを差し込み、本体をコントロール。紙幣を引き出した後にマルウェア自体を自己崩壊して、証拠隠滅して作業終了。ロシアのコンピューターセキュリティー大手『カスペルスキー』は、既にアメリカ・ロシア・フランス・マカオ・中国・フィリピン・スペイン・ドイツ等でATM用マルウェアを検出したが、一見して感染の見分けがつかず、対策は困難と言われる。当然、この手の新世代犯罪には捜査陣も大混乱だ。クレジットカード偽造集団の取り締まりを専門に行う組織犯罪対策特別捜査隊でさえ、その全貌は未だに掴めてはいないという。ただ、サイバー犯罪でも全てがインターネット上で行われる訳ではなく、“出し子”が物理的に札束を持ち去らなければならず、警察にとってはそこだけが摘発チャンス。続々と数多く逮捕者が出ている訳だが、その背後に中国マフィアをバックに持つ在日中国人の半グレ集団がいるとみられている。何しろ、半グレ集団はオレオレ詐欺の実績から大量の出し子スタッフを抱えており、それをそのまま活用できる。その教育機関というか、詐欺集団員の訓練は物凄く進歩している。警察の知識なんて比較にならない。「サイバー犯罪を取り締まるにも、各都道府県では数人の民間スペシャリストが漸く採用されたに過ぎず、犯罪には対応できていないですからね」(警察関係者)。空恐ろしい話だ。4年前にオレオレ詐欺で逮捕され、2年の実刑判決を受けた千葉県在住の30代男性は、まさに半グレ集団から依頼を受けた“出し子”だった。「10年ぐらい前、先輩と一緒に“実話ナックルズ”にも載ったことがある」と話す元暴走族メンバーで、元は危険ドラッグ販売で日銭を稼いでいたが、ドラッグ入手ルートが摘発されて無収入になり、話を持ち掛けられたという。「暴力団関係者ですが、組員・構成員ではない半グレの先輩からでした。でも、現金を引き出す手順だけしか聞いていなくて、その現金が何なのか全く知らされなかったんです。『もしやオレオレ詐欺じゃないか?』とは認識していましたけど、断れなかったですよ」。

断れない関係で成り立つのが半グレ人脈の武器。大きなピラミッド階層でありながら、暴力団のように組織図になっていないことが利点で、「先輩のことは知っていても、その上の上の人になると名前も知らない」と男性。この組織形態こそが、犯行グループにとって都合の良いものなのである。ただ、男性は「実際には暴力団がどっぷり関わっている」と言う。目的だけ共有しており、後は自由行動なのが不気味な犯罪集団だ。「組を破門されたように装っていたりする人もいますし、最初から構成員にはなっていなくても、実際には暴力団員と同じことやっていたりもします。今、ヤクザ追放で厳しいので、若いのは皆、組織と関係していない振りをするんですよ。組員じゃなかった先輩も、実際は山口組の人とよく一緒にいましたからね」。男性は不正に数百万円を引き出し、実働1時間で30万円の報酬を受け取ったが、実際には「自分も捕まりたくないから」と、更に後輩に5万円で仕事を委託。このように、下の人間にやらせるのはOKなのだという。こういう仕組みが、今回の犯罪の構図にも使われた可能性は非常に高い。「俺は逮捕されたけど、事件で逮捕されなかった人も10人以上知っている。俺は出所してグループから抜けたけど、捕まらなかった連中は今も新たな犯罪をやっている筈」と男性。無知な若者が下請け・孫請けで広がるのがアウトロー犯罪の特徴。マルチ商法ばりに大儲けしているのはそのトップの一角だけなのだが、一説には、東京オリンピック開催時のお祭り騒ぎに乗じて壮大な計画が進んでいるとも言われる。18億円も奪えた犯罪なら、今から4年かけて計画したとしても、十分過ぎる利益になる。警察がそこに中国マフィア・暴力団・半グレ等の影を見ながらも、末端のチンピラしか捕まえられていないなら、それこそ“第2弾”は直ぐそこまできている。本稿執筆中、中国から輸入された偽造カード用の空カード2000枚が、羽田空港で押収されていたことが判明した。真相の解明が待たれるが、こうしている今も尚、続々と起こるこの手の犯罪に打つ手はあるのか――。

■海外旅行ではスキミングの詐欺に要注意!
日本はまだまだクレジットカード後進国であることをご存知だろうか? いくら1人当たり3枚以上の所有をしていても、クレジットカードの利用方法については、セキュリティーへの考えがとても甘いのだ。「スキミングなんて、例えば性質の悪い居酒屋の店員だって、会計の時に悪さをしようとすればできる。防衛策なんてあり得ませんよ」(消費者生活センター)。『日本クレジット協会』は、ゴルフ場におけるスキミングに関して注意喚起を発表した。これは最近、ゴルフ場においてクレジットカードから磁気データのみを盗み出し(スキミング)、偽造カードを作成してATMから現金を不正に引き出すというクレジットカード被害が拡大しているというもの。同協会では、暗証番号式のロッカーに荷物を預ける際に、カードの暗証番号と同じ番号を使用しないこと、また照証番号入力時には周囲に不審者がいないか、小型カメラが無いか等を十分確認の上、利用するように呼びかけている。「最近では、ホテルのクロークにカバンを預けるのも危険です。日本のショップでは、説明したスキミングの被害はあまり報告されていないのですが、海外では一気に多くなってくるので、海外のショップでカードを使う時にスキミングされている可能性はあります」(同)とのこと。海外旅行では要注意だ。


キャプチャ  2016年9月号掲載




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