甲子園場外で飛び交う札束――高校球児を食い物にする野球賭博のシステムを暴く!

プロ野球『読売ジャイアンツ』の野球賭博事件で、元選手の笠原将生らが取り調べを受ける中、大学院生の胴元2人が逮捕された。裏社会のシステムは実に複雑である。今夏も高校野球が賭博の対象となり、胴元たちは“一気に稼ぐ”チャンス到来とばかりに暗躍した。そのシステムは、果たしてどうなっているのか。全国の裏社会に精通しているノンフィクション作家の影野臣直氏が徹底解説する!

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話は、今から44年前の昭和47(1972)年8月23日にまで遡る。大分県の県立津久見高等学校が、第54回全国高等学校野球選手権大会に初優勝した日のことだ。この優勝で、津久見高校は九州勢で唯一、昭和42(1967)年の第39回選抜高等学校野球大会と前述の第54回大会の両方を制し、高校球史にその名を刻んだ。そして筆者もまた、この日己にあったことを忘れ難き記憶として、心の中に刻んでいた。当時、弱冠13歳の中学1年生が、『トトカルチョ』に勝利したメモリアルデーだったからだ。扨て、トトカルチョとは何ぞや? 一般には、昭和35(1960)年のイタリアでのプロサッカー試合から始まった勝敗予想賭博のことを指す。日本でも最近、公営ギャンブルとして認められている『toto』のモデルとされているイタリアのサッカーくじ『totocalcio(トトカルチョ)』は“totalizzatore del calcio”の略で、“totalizzatore”は“競馬の主催者”“馬券売り場”“加算機”等が語源となっており、“calcio”は“サッカー”“キック”等の意味を持つ。だが、筆者にとってのトトカルチョとは、当時の大阪では野球賭博のことを指す。特に、高校野球賭博を称してトトカルチョと言ったように記憶している。通常の野球賭博は一般にプロ野球が対象で、シーズンを通して行われる。そして、チームの好不調によってハンディ師から適切なハンディキャップが出され、そのハンディを読んで勝ちチームに張る。それに対してトトカルチョは、年に2回の高校野球出場校を枠組みに分け、優勝校・準優勝校の2校を決めて張る。賭手の人気の有無によってオッズが変動し、オッズによっては競馬のように大穴もある。それがトトカルチョの醍醐味なのだ。このトトカルチョのルーツには諸説あるが、筆者の覚え違いでなければ、発祥は大阪市中央区北浜の証券街から始まった。「証券街という土地柄、相場師としての勝負勘を養うように始められた」という説が有力である。それが、瞬く間に近隣の問屋街に広がった。元々、大阪商人は不確かなものには投資しない。堅実さと信用を商いの王道と考えている。そんな商人(あきんど)の間で、何故かトトカルチョが問屋街の店主らの手慰みとなったのである。しかも、ウチの店に至っては、後継ぎの筆者までもが高校野球賭博に夢中になっていた。現在、医師を務める真面目人間の実弟も、兄の筆者ほどではないにせよ、トトカルチョを楽しみにしていた。高校野球大会が始まると、兄弟揃ってテレビの前に陣取り、お互いが買った(賭けた?)高校が勝ち負けすることに一喜一憂したものである。春と夏の高校野球賭博は、大阪の商人たちにとって年に2度の風物詩だったのだ。

胴元に実際に支払う賭金は1000円程度。大卒の新卒初任給が昭和44(1969)年当時で3万2400円だった時代、現在の物価指数から考えて7000~8000円が相場というところだろうか。賭博や博打というには大袈裟で、それほどカネのかかるものではなかったのだ。学生の頃、毎日のように通ったパチンコや、点5(=100点5円)の麻雀店のレート並みの遊びであった。それでも、小学生だった筆者が、お年玉やお小遣い等を貯めたお金をトトカルチョに充てていたのである。全く、末恐ろしい少年であった。筆者たち兄弟は罪になることさえ知らず、高校野球の賭博を娯楽として楽しんでいたのだ。ただ、商家の教育のおかげなのか、その後も博打にのめり込んだことは無い。ただ、人並み程度の付き合いはする。賭け事は嫌いではなく、ゴルフ・麻雀・競馬・競輪等は、誘われれば、物理的に参加不可能な場所にいる時以外は喜んで参加させてもらっている。ただ、ギャンブル依存症とか、人生を博打で棒に振るタイプの人間ではなかったようだ。そんな少年が、いつから高校野球賭博にハマったのか――。前述した津久見高校優勝の、更に3年前。当時、ウチに古崎新一(仮名)という住み込みの従業員がいた。従業員の中では一番若く、最も不良っぽかった青年である。無口で協調性が無く、いつも1人でいるので、従業員の間でも異色の存在だった。だが、当時小学5年生の筆者はそんな彼が大好きで、いつも学校が終わると彼の元に行き、遊んでもらった。彼は、筆者に色んなことを教えてくれた。オートバイの運転を教えてくれたのも彼だった。何より、年齢的に筆者は第2次成長期を前にしていたので、女やセックスの話には息を潜めて聞いたものだった。エロ本を見せ、筆者の股間が勃起したことを爆笑した古崎。大人への登竜門の前でウロウロしていた少年を、彼は門戸まで出迎え、中に誘ってくれたのである。古崎のようなワルの先輩がいると、自分もドンドン大人になっていくような気がした。そんなある日…。「臣ちゃん、おもろい遊びやってみるか?」。古崎は突然言った。「うん」。筆者は、彼がまた未知の世界へ連れて行ってくれるのかと、期待に胸を弾ませた。「臣ちゃんは、高校野球好きやろ? 今度の夏の甲子園、どこが優勝すると思う?」。当時、野球少年だった筆者は、古崎の問いに元気よく答えた。「やっぱり、高校野球は大阪や! あの浪商(大阪体育大学浪商高校)に勝った明星が優勝するで!」。彼はニヤッと笑って、筆者を見た。その時の彼の笑顔は今も忘れない。「ほな、臣ちゃん。これで今年の甲子園、どこが優勝するか予想してみ」。古崎は、ガリ版刷りのワラ半紙を筆者に手渡した。そこには、昭和44年度の甲子園出場30校(第51回大会)の名がズラッと記載されていた。高校名の脇には点数表があり、各自が点数を書くように余白になっている。その横には、出場校の過去の大会での実績や詳細等が簡潔に書かれていた。

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「えぇか? 今年(昭和44年)の参加30校を、優勝から順に点数をつけるんや。優勝校は30点、準優勝校は29点。真っ先に負けると思う高校は最低の1点や」「ほんで、どうすんの?」「それを、1回戦毎に勝った高校の点数を加算していくんや。わかるか、臣ちゃん」。筆者はコクリと頷いた。「う~ん、優勝は大阪の明星高校で30点やけど、準優勝校は京都の名門・平安高校やなぁ。平安に29点。ケツは北海道の三笠高校(南北海道代表)や芦別工業高校(北北海道代表)に1点・2点つけるわ」。野球留学や屋内施設が充実していない時代、冬場を長く雪で閉ざされている北海道や青森等の東北勢は、高校野球では1回戦敗退の常連だった。筆者の予想優勝校の明星高校(大阪府代表)は1回戦で宮崎商業高校(宮崎県代表)と、予想準優勝校の平安高校は1回戦で横手高校(秋田県代表)と対戦して、共に筆者の予想が当たり、両校は勝っている。この場合の筆者の得点は、30点+29点で59点となる。逆に、若し宮崎商と横手が勝っていれば、筆者が獲得する点は10点以下になっていた。そのように、毎日勝利した高校の点数を累計していき、最終的に決勝で勝利した高校の点数を加算して、古崎のトトカルチョは終わる。累計点が最も多かった賭手が、賞金を獲得するというシステムだった。「ほな、お金賭けてみるか? 勝ったら、臣ちゃんの出したお金が何十倍にもなるかもしれんで」「えぇ~ホンマに? なんぼ賭けたらえぇのん?」「一応、1日1000円やけど、臣ちゃんは子供やから100円でえぇわ」。古崎は、楽しそうに言った。今になって考えると、古崎は胴元だったので、100円ぼっちの賭金を取る必要も無く、恐らくは筆者を遊ばせてやろうと思ったのだろう。そんなことも知らずに、筆者は古崎に質問した。「俺が勝ったら、いくらになんのん?」。大阪商人の子は、金銭への執着心が強い。幼少時からの教育がいいのか、カネに関しては殊更しっかりしている。「ハハハ…。まぁ、やってみ。世の中、自分の思うようにばかりはならんもんやで」。

古崎の予言は的を射ていた。振り返ってみると、この第51回大会はまさに大番狂わせだった。決勝に残ったのは、甲子園常連校の古豪・松山商業高校(愛媛県代表)と、過去に優勝旗を持ち帰ったことのない東北勢の三沢高校(青森県代表)との間で行われた。この決勝戦で、甲子園史上初の延長18回引き分け再試合に縺れ込んでいる。しかも、甘いマスクの三沢のエース・太田幸司の投打による活躍で、女子高生の熱い声援が甲子園を沸かせていた。決勝戦の激闘は4時間16分にも及び、18回終了時に規定により翌日に再試合となっている。再試合は4対2で松山商が制し、史上初の東北勢による優勝という快挙はならなかった。しかし、今も尚、高校野球史上最高の決勝戦と語り継がれている。筆者が予想した優勝校・準優勝校は、奇しくも甲子園のアイドル“幸ちゃん”こと太田幸司率いる三沢に敗れている。優勝すると思っていた明星は2回戦で、準優勝校と予想した平安は準々決勝で、共に敗退していった。甲子園開会前は、そんな試合展開になるとは夢にも思っていなかった。結果は惨敗だった。兎にも角にも、これが筆者の人生で初めての野球賭博だった。時期的にも、日本プロ野球史上最大の汚点とされる“黒い霧事件”(昭和45年)と前後していることでご理解頂けるだろう。古崎が行ったトトカルチョは、毎試合毎試合の得点合計を全試合記載しなくてはならず、翌年からは、現在も行われているトトカルチョの形態に様変わりした。それでは、現在のトトカルチョはどのように行われるのだろう。今も行われている高校野球賭博は、優勝と準優勝校を予想する。古崎のように、全校の得点を記載しなくてもよい。途中経過も関係無く、決勝戦が全てで、決勝に残れば勝利の50%は手中にすることができる。競馬や競輪のように連勝式だが、基本的には連勝単式が多い。連勝複式だと、決勝戦に進出した2校が決まった時点で終わってしまう。これでは、決勝戦を見る楽しみが半減してしまう。そこで、連勝単式になったのである。これは全国共通であろうと思う。では、昨年の第97回全国高等学校野球選手権大会を例にとって、トトカルチョを実践してみよう。第97回大会は、全国から49校が出場して行われた。先ず、胴元となる者は、参加校を8枠程度に選別する。その8枠に、出場校を近隣県同士が対戦しないように、上手く枠に入れていくのである。例えば、1枠に日本の最北端の北北海道の代表校を入れ、最後尾の8枠に南北海道の代表校。次の2枠に日本最南端の沖縄の代表校を入れ、7枠に鹿児島の代表校。3枠には青森の代表校、6枠には秋田の代表校。4枠は熊本の代表校で、5枠に岩手の代表校…と枠を埋めていく。

この出場校を、古崎式に当て嵌めてみれば、

■1枠
北北海道代表…白樺学園(4年ぶり3回目) 佐賀代表…龍谷(20年ぶり3回目) 高知代表…明徳義塾(6年連繞17回目) 富山代表…高岡商業(7年ぶり17回目) 兵庫代表…滝川二(3年ぶり4回目) 福井代表…敦賀気比(2年連統17回目)
■2枠
沖縄代表…興南(5年ぶり10回目) 宮崎代表…宮崎日大(18年ぶり2回目) 香川代表…藤井学園寒川(6年ぶり2回目) 石川代表…遊学館(3年ぶり6回目) 埼玉代表…花咲徳栄(4年ぶり3回目) 静岡代表…静岡(2年連続24回目)
■3枠
青森代表…三沢商業(29年ぶり2回目) 長崎代表…創成館(初出場) 神奈川代表…東海大相模(2年連続10回目) 鳥取代表…鳥取城北(2年ぶり4回目) 西東京代表…早稲田実業(5年ぶり29回目) 滋賀代表…比叡山(16年ぶり8回目)
■4枠
熊本代表…九州学院(5年ぶり8回目) 山形代表…鶴岡東(4年ぶり4回目) 広島代表…広島新庄(初出場) 千葉代表…専大松戸(初出場) 大阪代表…大阪偕星学園(初出場) 岐阜代表…岐阜城北(14年ぶり3回目)
■5枠
岩手代表…花巻東(2年ぶり8回目) 新潟代表…中越(12年ぶり9回目) 山口代表…下関商業(20年ぶり9回目) 栃木代表…作新学院(5年ぶり11回目) 山梨代表…東海大甲府(2年連続13回目) 奈良代表…天理(3年ぶり27回目)
■6枠
秋田代表…秋田商業(2年ぶり18回目) 福岡代表…九州国際大付属(2年連続6回目) 福島代表…聖光学院(9年ぶり12回目) 茨城代表…霞ヶ浦(初出場) 東東京代表…関東第一(5年ぶり6回目) 京都代表…鳥羽(15年ぶり6回目)
■7枠
鹿児島代表…鹿児島実業(5年ぶり18回目) 宮城代表…仙台育英(2年ぶり25回目) 愛媛代表…今治西(3年ぶり13回目) 岡山代表…岡山学芸館(初出場) 和歌山代表…智弁和歌山(3年ぶり21回目) 愛知代表…中京大中京(5年ぶり27回目)
■8枠
南北海道代表…北海(4年ぶり36回目) 大分代表…明豊(4年ぶり5回目) 徳島代表…寒川(6年ぶり2回目) 島根代表…石見智翠館(2年ぶり9回目) 群馬代表…健大高崎(2年連続3回目) 三重代表…津商(初出場) 長野代表…上田西(2年ぶり2回目)

このように8枠までが組まれる。

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この枠組みを客に持っていき、高校野球の開幕前に賭金を徴収するのである。1口1000円程度と賭金は安いが、客は当てようと多くの枠を買うので、かなりの金額が集金される。客が30人いて、集金された賭金が50万円だったとしたら、その賭金総額から25%がテラ銭として胴元の懐に入る。つまり、50万円×25%=12万5000円が胴元が取るテラ銭なのだ。この辺りはJRAと同じテラ銭比率だが、JRAは公営ギャンブルの為、15%(競馬の運営費)と国が10%(国庫納付金)を取るという形だ。この両方を合わせてテラ銭としている。そして、残りの50万円×75%=37万5000円を当たった人で分けるシステムで、オッズは25%控除後の表示となる。これもトトカルチョと同じであるが、賭金額が判明し難い為、テラ銭を40%取るところもあれば、酷いところでは70~80%近くのテラ銭を取るところもあるという。客につける配当は、50万円×20%=10万円。つまり、40万円は胴元のものとなる。例に挙げた昨年の第97回大会の優勝校は、神奈川代表の東海大相模だった。準優勝校は宮城代表の仙台育英。このトトカルチョの枠番でいうと3番と7番。人気と前評判の高かった高校が両枠に入っている。こうなると、賭手の30人の9割前後が、前評判の高かった東海大相模を頭に流したのではないか。恐らく、オッズはかなり低かった筈だ。真面な業者で、テラ銭が25%の場合、賭手が45口分購入していたとして、37万5000円÷45口=8333…。トトカルチョでいう1桁台のオッズは、通常のオッズとしては格別に低い。それでも、1000円賭けたものが8000円以上になって返ってくるのだから、一般人の感覚で言えば“儲けた”気持ちになるのだろう。ただ、胴元は初めにテラ銭を引いているので、損をすることは無い。愈々、今夏の第98回大会の予選が全国各地で始まった。参加校は4000校とも言われ、その頂点にある深紅の優勝旗を手にするのは僅か1校のみ。高校野球はトーナメント方式の為、試合での小さなミスさえ命取りになる。だから、大番狂わせがある高校野球は面白いのだ。

※これは飽く迄も野球賭博の一例です。各地、様々な博打のやり方があります。野球賭博は犯罪です。絶対に真似をしないで下さい。


キャプチャ  2016年9月号掲載


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