東芝の“聖域”原子力に隠された不都合な真実――原発の稼働予定は3年遅れ、グレーな経歴より“国策”重視

『東芝』の不正会計を象徴する“チャレンジ”が、アメリカの原子力子会社『ウェスチングハウス(WH)』でも行われていたことが、本誌の取材でわかった。不正会計を調査した第三者委員会は、チャレンジを“過大な目標設定”や“業績改善の指示”等と定義。東芝経営陣がチャレンジの達成を部下に強要したことが、利益水増しの原因だったと指摘している。 (小笠原啓・林英樹・主任編集委員 田村賢司・坂田亮太郎)

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本誌が入手した内部資料によると、WHの最高財務責任者(CFO)だった“T”は2013年7月、日本語と英語で1通の電子メールを送った。メールには、「予算達成」に向けて「チャレンジも織り込む」と書かれていた。受け取ったのは、WHの会長だった志賀重範や、社長兼最高経営責任者(CEO)のダニエル・ロデリックら40人超。志賀は来月、東芝の会長に就任する予定の人物だ。第三者委はWHを巡り、2013年度の会計処理で不正があったと指摘。詳しく調べた役員責任調査委員会は、当時の東芝社長だった田中久雄と副社長CFOの久保誠に、善管注意義務違反があったと認定した。志賀は、この件で責任を問われていないが、“関与者”の1人として名前が挙げられている。志賀は、「当時の役割・責任の中できちんと対処したと考えている」とコメントした。WHは2012年度と2013年度に単体で計1156億円を減損処理し、2年連続で赤字に陥っていた。しかし東芝は、対外的には原子力事業は“順調”と主張し続けていた。メールが送られたのは、WHが赤字に苦しんでいた時期である。メールの背景を説明しよう。東芝は2006年、約6000億円を投じてWHを買収。昨年までに30基以上の原子力発電所を新規受注し、原子力事業の売上高を1兆円に伸ばすと宣言した。だが、2011年の東日本大震災で目算が狂う。原発の安全神話が崩壊して、新規受注が停滞。経営不振に陥ったWHは、2012年度の単体決算で約762億円の減損処理を迫られ、赤字に転落した。WHのCFOだったTが志賀らにメールを送ったのは、減損処理が確定した5日後、2013年7月28日のことだ。Tは、こう書いた。「各PLでそれぞれチャレンジも織り込む。予算達成に向けてPLを鼓舞していきたい」。“PL”はプロダクトラインの略称で、事業部門を意味する。WHは当時、“新規建設”や“燃料”等4部門で収益を管理していた。Tが危惧していたのはWHの業績が回復せず、東芝本体に悪影響を及ぼすことだった。Tは東芝副社長の久保に対し、「2013年度は東芝(連結)レベルでののれん減損回避が課題」だと、別のメールで報告している。

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WHが手掛ける『AP1000』型原発の新規建設プロジェクトでは、コスト超過が深刻になっていた。更に、ウラン燃料の売り上げ減とチャレンジ未達が足を引っ張り、2013年度は予算達成が難しいとTは分析した。Tは、減益の要因を英語で“unachievable challenges for each PLs”と表現している。「この状況を打開するには、PLを“鼓舞”する必要がある」とTは考えた。喫緊の課題は資金不足だった。新規建設の不調と“dividend payment(配当支払い)”が根深い問題になっていた。そこでTは、次のような対策を志賀とロデリックに具申した。「各PLには投資の抑制、インボイスのタイムリーな送付、回収強化、注入抑制、棚卸削減、支払い繰り延べ等チャレンジする」。様々な手法を駆使して資金をかき集めるよう、各PLに求めたのだ。会計を預かるCFOの“チャレンジ”が何を意味するか、各PLの担当者がわからなかった筈がない。社長のロデリックや会長の志賀も同様だ。Tがメールを送ったのと同じ時期、東芝の別の部門では、チャレンジという名目で様々な不正会計が続けられていた。志賀は本誌の取材に対し、WH会長時代にチャレンジという言葉を「使ったこと、聞いたことはあるが、私自身は達成困難な改善要求をする趣旨で使ったことはない」と述べた。チャレンジの効果はあったのだろうか。WHは2013年度も約394億円の減損処理を余儀なくされ、2年連続で赤字に転落した。WHでのチャレンジの実態が、何故今まで明かされなかったのか。背景には、東芝経営陣も含めた隠蔽工作がある。本誌昨年11月23日号では、次のように報じている。東芝の法務部門は第三者委の委員と“謀議”し、WHに対する調査範囲を限定するよう画策した。謀議の内容は、現社長の室町正志や前社長の田中にもメールで伝えられた。第三者委がWHの問題点にメスを入れ、東芝が連結で計上する暖簾の議論に発展すれば、経営危機に繋がりかねなかったからだ。結果として第三者委は、WHの減損問題を調べていない。つまりWHには、外部の目が入っていない不透明な部分が残されている。本誌は昨年、WHで減損隠しがあった事実を報道し、問題の再調査を促した。だが、東芝の監査委員会委員長の佐藤良二は昨年12月、記者会見で「現在の監査委員会の役割ではない」と述べ、再調査の意思が無いことを示した。来月、志賀が東芝会長に就任する。指名委員会委員長の小林喜光(『三菱ケミカルホールディングス』会長)は、「過去の解釈よりも、新生東芝になくてはならない人物」だと志賀を評価した。ロデリックも来月、原子力等を所管する東芝の社内カンパニー『エネルギーシステムソリューション』の社長に昇格する。社外取締役のみで構成された監査委員会と指名委員会は、「新生東芝」(小林)のカギを握る存在だ。その何れもが、WH問題を“過去”のものとして目を瞑ろうとしているようだ。

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東芝は先月、WHを含む原子力事業で2600億円を減損処理した。東芝の格付けが低下したことで、WHの資金調達コストが上昇したのが原因だという。一方で室町は、「原子力事業の事業性・将来計画に大きな変更は無い」と説明。今後15年間で45基の新規受注を目指す方針は変えなかった。今月3日昼、本誌等のインタビューに臨んだロデリック(右写真)も、極めて楽観的な見通しを示した。「来月には、インドで少なくとも6基契約できると考えている」「中国は200基の原発を造る計画で、今後5~10年でこの内30~50基を我々が受注できるだろう」。記者団から疑念を呈されても、ロデリックは強気の姿勢を崩さなかった。取材場所は、ジョージア州オーガスタ郊外にあるボーグル原発3・4号機の建設現場。WHの作業員ら約4000人が働いている。巨額減損を実施しても、原発ビジネスは“順調”だとアピールしたかった訳だ。1979年のスリーマイル島原発事故以降、アメリカでは原発の新規建設が長らく途絶えていた。ボーグル3・4号機は事故後、アメリカ国内で初となる建設計画だった。だが既に、当初の計画から大幅な遅れが生じている。当初は2016~2017年稼働予定だったのが、今では2019~2020年へと後ずれ。現在の工事進捗率は20~30%に留まっているという。現場を歩くと、圧力容器やタービンローターといった原発の中核部品が収容されず、別の場所で保管されていた。「アメリカの建設許諾の仕組みが変わり、工事が進められなかった為で、今後は予定通り進む」。横についた東芝の原子力事業担当者は、工期が順調であることを強調する。2011年の福島第1原発事故を受け、『アメリカ原子力規制委員会(NRC)』は原発の安全基準を厳格化。結果、格納容器を保護する遮蔽壁等で細かな設計変更が求められるようになり、更に工期が延びる可能性が出てきた。シェール革命の影響等で、天然ガスの価格は下落傾向が続く。工事の遅れは、原発の高いコスト競争力を前提にした利益計画に狂いを生じさせることになる。海外での大胆な受注計画も大きく崩れる恐れがある。中国は現在、原発の国産化を進めている。WHの技術をベースに中国で開発された第3世代と呼ばれる新型炉が、『国際原子力機関(IAEA)』による安全性評価を得る等、事業化に向けて着実に動き出している。ロデリックは「我々には実績がある」と胸を張るが、中国が国産技術を袖にして、WHによる大規模受注を容認するとは考え難い。中国以外の国々でも、今後は安値を武器にする中国勢との競争が激化する。買収以後、WHが受注し、建設しているのは8基のみ。思惑通りに受注できる保証は無い。ロデリックが強気を貫く背景には、原発で稼がない限り再生が難しいという苦しい台所事情がある。過去数年間、東芝の利益を支えてきたNAND型フラッシュメモリーの変調が覆い隠せなくなってきたからだ。

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「スマートフォンの減速が需給バランスを歪めている」――。こう指摘するのは、半導体業界に詳しい『IHS』グローバル調査部ディレクターの南川明だ。『Apple』がiPhoneの減産に踏み切ったことも影響し、フラッシュメモリーの価格は下落が続いている。東芝は、来年3月期の“メモリ事業”の営業利益が前期比で8割減ると予測する。フラッシュメモリーは2年程前まで、20%超の営業利益率を誇る東芝の大黒柱だった。ここで稼ぐ巨額の利益を分配することで、メモリー以外の半導体・家電・パソコンといった不振事業を延命させてきたと言えるだろう。だが、今のフラッシュメモリーに他の事業を支える余裕は無い。価格の反転は見込み難い上、先行投資負担が重くのしかかるからだ。東芝は今年3月18日、今後3年間で8600億円をフラッシュメモリーに投じることを発表した。注力するのが、次世代型の“3次元メモリー”だ。3次元メモリーの量産技術では、「韓国サムスン電子が2年程先行している」(東芝半導体関係者)。手を拱くと、サムスンに圧倒的な差を付けられかねない。当面は厳しくても設備投資を続けることで、「市場シェアを確保し、研究開発費を賄っていく」と『東芝ストレージ&デバイスソリューション』社長の森誠一は述べる。但し、東芝が巨額の投資を続けるのは難しい。財務体質が脆弱だからだ。不正会計により、ほぼ全事業で収益力が悪化。白物家電を中国企業に売却する等、大規模なリストラに踏み切らざるを得なくなった。医療機器子会社を『キヤノン』に約6655億円で売却することで一息ついたが、それでも今年3月期は4832億円の最終損失に沈み、自己資本比率は前の期の17.1%から僅か5.8%に落ちた。この比率は、リーマンショック直後の2009年3月期の7.1%をも下回り、過去最低水準。これに伴って、格付けも大幅に低下し、投機的水準と呼ばれるレベルになった。更に深刻なのは、リストラをしても収益力が一向に上向かないことだろう。本業の強さを端的に示す営業利益率は、2012年3月期以降、昨年3月期まで1期を除いて1~2%台。来年3月期は、前述の大規模リストラで1200億円の黒字にV字回復するとしているが、営業利益率はそれでも2.3%と殆ど変わらない。同業の『日立製作所』と比較すると、その低収益ぶりは歴然としている。日立の営業利益率は同じ期間中、4~6%台。東芝は、殆どの期で日立の半分以下の利益率となっているのだ。

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それでも、東芝が利益を積み上げて自己資本比率を上げていければいいが、今度は負債の膨張が難題となる。借入金と社債の“有利子負債残高”は、今年3月期に1兆4517億円に膨らみ、営業CF(キャッシュフロー)に対する倍率は974.5倍にも達した。前期の営業CFで有利子負債を返済するには、実に1000年近くかかることを意味する。悲惨な状況と言わざるを得ない。負債の膨張は別の問題を孕む。“財務制限条項”である。金融機関が信用力の低い企業に融資を行う際に付ける条件のことで、企業がその基準を割り込むと、即座に債務の返済を求められる。これが東芝に重くのしかかる。今年3月期の第3四半期報告書には、「純資産や営業損益、格付けが、財務制限条項に定める一定水準を下回ると債務返済をする」との趣旨が記載されている。東芝の財務制限条項は、前期までの融資にも付けられていた。前期末に格付けが投機的水準に下げられた時点で、負債の返済を迫られてもおかしくない筈だが、その形跡は無い。銀行と東芝との間で、返済の繰り延べ交渉を行ったと見るのが自然だ。「リストラをしても収益力は上がらないが、融資が巨額過ぎ、取引先・従業員も膨大な数に上る。融資の即時返済を迫れば、東芝が行き詰まるのは確実だけに、実行できなかった」というのが銀行の本音だろう。東芝は、銀行によって延命させられている“ゾンビ企業”とさえ言えそうな状態である。不正会計の発覚から1年が経過し、東芝の外見は大きく変わった。不正を主導した歴代3社長は引責辞任に追い込まれた。複数の事業が切り売りされ、1万人超の従業員がリストラの憂き目に遭った。長年の懸案だったWHの暖簾問題は、2600億円を減損処理することで一定の目途をつけた。来月には、事業売却を主導した綱川智が社長に就任し、新体制が発足する。綱川は「柵の無い合理的な経営判断を行い、自由闊達な雰囲気を作り出す」と抱負を語った。構造改革が一段落したのを機にトップ人事を刷新することで、一連の不正会計問題に幕を引きたい訳だ。但し、東芝内部には今も“聖域”が残されている。本誌が繰り返し述べてきたように、WHの買収こそが不正会計の原点だ。巨費を投じたWHが想定通りに稼げなくなった為、複数の事業部門が利益の水増しに手を染めた。WH内部でも“チャレンジ”が求められていた。にも拘らず、東芝は「原子力事業は“順調”」と主張し続けてきた。赤字事業を整理する過程でも、WHは守られてきた。室町は「売れる事業は売る」と宣言し、家電やテレビ等を次々と俎上に載せてきた。一方、累積赤字に陥っていたWHの売却は、話題にすらならなかった。

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2600億円の減損に踏み切っても、東芝のスタンスは変わらない。WHのロデリックは強気の発言を繰り返し、志賀は「原子力事業全体としては、現在も収益力は十分にある」と述べた。東芝社内では今も尚、原子力の未来は“薔薇色”なのだ。志賀が会長に昇格する人事も、この延長線上にある。指名委員長の小林は、「若干グレーだと思われているが、原子力という国策的な事業をやる上で、余人を以て代え難い」と志賀を評した。不正会計との決別姿勢を示す絶好の機会に、敢えて“グレー”な人物を会長として選んだ意味は重い。対外的なイメージが多少損なわれても、原子力ビジネスを重視した訳だ。小林が言うように、原子力は“国策”である。東芝は、そこに寄り添うと決めたのだろう。原子力が東芝の意思決定を歪める構図は、今も昔も変わらない。現実を直視しない限り、東芝再生は難しい。 《敬称略》


キャプチャ  2016年5月30日号掲載


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