【ヘンな食べ物】(06) クモ臭い巨大グモ

妻と一緒にメコン河沿いを旅していた時だった。カンボジア中部の小さなバスターミナルで休憩していると、女の人たちが大きな笊を頭に乗せて売っているのが見えた。笊の中には、体長10㎝もある巨大蜘蛛の素揚げが山盛り。思わず、バスを降りて呼び止めた。アジアでは、路上売りの食品のひとつくらい味見しても文句を言われないので、そのタランチュラそっくりの蜘蛛をひょいと掴み、口の中に放り込んだ。そのまま歩いて行こうとしたら、売り子のおばちゃんと周りの人が凄い形相で私を取り囲み、怒り出した。このタランチュラ、日本円で1匹15円ほどなのだが、具沢山のバゲットサンドが50円で買えるこの国では、決して安価なおやつではないだろう。「それは悪いことをした」と、お詫びの印に10個買い、ビニール袋に入れてもらった。バスの中に戻って、同行していた妻に見せると、彼女はぎょっとした。「何これ? 蜘蛛臭い!」。今まで、私と一緒の旅で、どんなゲテモノでも平気で食ってきた妻が拒否したのは、後にも先にもこの巨大蜘蛛だけである。どこが“蜘蛛臭い”のかよくわからないが、「挨っぽい臭いがする」とのこと。私は気にせず、ビニールから1つずつ摘んでバリバリ食べた。確かにちょっと黴臭い感じはするが、サクッとして、海老か小魚のかき揚げみたいである。本来ならビールを飲みたいところだが、丁度この日、風邪を引いて朝から熱があった。ビールを飲む気が湧かず、巨大蜘蛛も4匹食べたら胸焼けがしてきた。後はぐったりして、バスに揺られるのみ。その晩、カンボジアとラオスの国境の町で、私は安宿のべッドに倒れていた。高熱のせいで憶えていないのだが、妻によれば、「何か食べたい。俺、今朝から蜘蛛しか食べていないんだよ…」と繰り返していたという。


高野秀行(たかの・ひでゆき) ノンフィクション作家。1966年、東京都生まれ。早稲田大学第1文学部仏文科卒。『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)・『アジア未知動物紀行』(講談社文庫)・『世界のシワに夢を見ろ!』(小学館文庫)等著書多数。


キャプチャ  2016年9月29日号掲載
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