【中外時評】 平和友好条約の勧め――日露の領土交渉促すには

ロシアのテレビ局『TVツェントル』で人気のトークショー『プラバゴロサ(発言権)』が先月中旬、日露関係をテーマに取り上げた。『日本式のリセット』と題し、各界の専門家らが議論を戦わせた。総じて日本への期待よりも、日本の経済停滞や日露の貿易額が少ない現実等が指摘され、北方領土問題でも後ろ向きの発言が多めだった。とはいえ、日露の関係改善の動きが、ロシアでも国民の関心事になってきた証しとは言えるだろう。番組の題名でも明らかなように、最近の日露外交を主導しているのは日本側だ。安倍晋三首相は5月のソチ訪問に続き、先月には極東のウラジオストクで開いた『東方経済フォーラム』に出席し、プーチン大統領と長時間の会談を重ねた。ロシアとの経済協力を深める為の“8項目の協力プラン”も打ち出している。「私たちの世代が勇気を持って、責任を果たしていこうではありませんか」。首相がフォーラムの演説で熱弁したように、その主な狙いが北方領土問題の解決と平和条約の締結にあることは、ロシア側も承知している。それでも、プーチン大統領が8項目プランを「政治問題を解決する条件作りにも重要だ」と評する等、日本のイニシアチブを歓迎しているのは確かだ。

しかも、評価している点は経済だけではない。外交評論家のフョードル・ルキヤノフ氏は、「安倍首相は、明らかにアメリカが支持しない対露路線を打ち出した。かなりリスクの伴う行動だが、現代世界では多様性と柔軟性がカギを握る。ロシアの有識者や政権関係者は、日本がアメリカ追随型の国家という先入観を修正しようとしている」と語る。ウクライナ危機で冷え込む米露関係を意識した発言と言える。日露関係を進展させる動機はロシア側にもある。『カーネギー財団モスクワセンター』のドミトリー・トレーニン所長は、極東開発を含めた経済的な利益に加え、「アジアで中国一辺倒の関係を変えようとする地政学的な意図がある。外交のバランスという意味で、日本は特別で大きな位置を占める」と指摘する。アメリカや中国との関係といった地政学的な思惑も絡みながら進む日露の接近だが、12月にプーチン氏が大統領として11年ぶりに来日し、首相の地元・山口県で首脳会談を開くことは決まった。領土問題を含めた条約交渉を進展させる道筋は描けるのだろうか。プーチン大統領は予て、1956年の『日ソ共同宣言』の有効性は認めている。「両国議会が批准したことが非常に重要だ」と、最近の記者会見でも強調したばかりだ。同宣言は、平和条約締結後に歯舞・色丹の2島を日本に引き渡すことを明記している。但し、大統領は「どのような条件で返すかは書いていない」とし、問題解決には「非常に高いレベルの信頼が必要だ」と予防線を張っているのが現実だ。

ルキヤノフ氏は、「プーチン大統領が国民の支持を得ているのは、大衆の気持ちを敏感に察して対応するリーダーだからだ。一般の人々が正しいと納得できるなら、彼は行動する」と言う。因みに、ロシアの世論調査会社『レバダセンター』が5月末に実施した調査では、歯舞・色丹の2島だけを日本に引き渡す妥協案でも71%が反対し、賛成は13%だった。世論は厳しい。では、打開策はあるのか。『モスクワ国際関係大学』のドミトリー・ストレリツォフ教授は、「“平和条約”という交渉の名称を変えるべきだ」と提唱する。同教授によれば、平和条約は日本では北方領土問題の別名だが、ロシアの世論では第2次世界大戦の結果としての戦勝国と敗戦国の関係の固定化を意味するという。「平和条約は、ロシアでは戦争の結果でしかない。一般市民は、『何故、戦勝国が敗戦国に領土で妥協しなければならないのか?』と思ってしまう」。そこで、条約を平等で未来に向けた位置付けにする為、例えば『平和友好条約』と命名して、政治・国際連携・経済協力等のロードマップも盛り込んだ多面的な条約にすることが望ましいと強調する。トレーニン所長も、「何れにせよ、領土割譲に繋がる日本との条約締結は、プーチン大統領にとって歴史的功績にはならない。それだけに、日本が信頼できるパートナーとなる確信が得られるかが、交渉のカギを握る」と予測する。今後の交渉で基軸になるであろう日ソ共同宣言は、今月で調印から60年を迎える。この間に、両国関係も世界情勢も大きく変化した。日露が真に条約締結を目指すのなら、文字通り“新たなアプローチ”が不可欠になっている。 (論説副委員長 池田元博)


⦿日本経済新聞 2016年10月2日付掲載⦿

スポンサーサイト

テーマ : 国際政治
ジャンル : 政治・経済

轮廓

George Clooney

Author:George Clooney

最新文章
档案
分类
计数器
排名

FC2Blog Ranking

广告
搜索
RSS链接
链接
QR码
QR