「高度な衛星、運用力不足」「単純ミスをカバーできず」――『宇宙航空研究開発機構(JAXA)』・奥村直樹理事長インタビュー

今年2月の打ち上げ後、2ヵ月も経たずに分解し、宇宙のゴミとなったX線天文衛星『ひとみ』。310億円もの税金がふいになった。『宇宙航空研究開発機構(JAXA)』と文部科学省は、早くも代わりの衛星を打ち上げることを決め、予算も要求した。先ず、国民へ説明責任を果たすべきではないか。JAXA理事長の奥村直樹氏に聞いた。 (聞き手/本紙編集委員 知野恵子)

20161003 01

――宇宙開発は、技術の粋を集めていると思っていた。だが、今回はかなりお粗末だ。衛星の回転を止めようとした『NEC』の担当者が逆に速く回転させてしまい、衛星が分解した。
「プラスとマイナスを間違えて入力した。そこだけ切り取ると、非常にお粗末で単純なミスに見える。だが、構造的問題が背景にある」

――どういうことか?
「衛星のような大きなシステムは、全体を統括する“システム工学”が重要だ。ミスをカバーするように設計しておかないといけない。組織としても、早い段階で手を打つべきだった。管理能力に弱さがあった」

――責任はどこにあるのか?
「誰かが単独で全ての責任を負うような話ではない」

――「誰も悪くない」と言っているように聞こえる。
「勿論、ミスした人たちはいる。だが、故意ではないし、最大限努力した。ひとみのプロジェクトチームは8年前に発足したが、その後の技術審査がどうだったのか等、過去に遡って問う必要がある」

――企業の責任は?
「NECは、JAXAの指示に従って業務を支援する契約になっていた。これだと、衛星をきちんと機能させる責任を持たない。契約の仕方に問題があった」

――企業とは、いつもそういう契約を結ぶのか?
「宇宙科学部門だけだ。契約書の表現も曖昧で、複数の読み方ができる。作業内容・品質水準をきちっと決めておかないといけない。社会常識的なことが十分実行されてこなかった」

――理事長等幹部3人が、給与の一部を自主返納した。これで国民の理解を得られると思うか?
「個人の給与返納で済むようなレベルではないとわかっている。ただ、私たちの思いを表したかった」

――幹部3人以外には、どう対処したのか?
「プロジェクト責任者については、職務規定違反があったかどうかを審査中だ。企業に対しても、過失責任をどこまで問えるか、弁護士と検討している」

――『宇宙政策委員会』という政府の有識者会議は、失敗の背景を「現場力の低下にある」と指摘した。抽象的な表現だが、どう受け止めたか?
「『昔の人が賢くて、今の人が駄目になった』という意味ではないだろう。ただ、昔と比べて衛星が大型化し、沢山のソフトウェアで動かす。見た目以上に高度で複雑になっている。そういう現実に対応する能力が無かった」

――『ひとみ』の失敗後、プロジェクト責任者は一度も記者会見に出てこない。従来はそんなことは無かった。国民への説明責任を果たしていないのではないか?
「私が指示した。当事者には思い入れがある。妙なところへ議論が行ったり、間違った印象を与えたりすることを恐れた」

――原因究明を短期間で済ませた。従来だと、もっと時間をかけて精査した。
「衛星は宇宙にあり、地上に物的証拠が無い。それで、『記憶が薄れないうちに究明しよう』と考えた。JAXAを挙げて取り組み、国内外の協力も得たので、早く解明できた」

――「代替衛星を2020年に打ち上げる」と直ぐに決めた。何故急ぐのか?
「宇宙科学分野の研究者や、アメリカ航空宇宙局(NASA)が支持した」

――「同じものを作るので、代替衛星は安くなる」という話だった。だが、試算では240億円。あまり下がっていない。高くないか?
「中身の精査はこれからだ。担当する企業も決まっていない。まだまだ価格は変わる。衛星は一般に高額だが、ひとみを超えることはあり得ない」

――その高額な衛星は税金で造る。失敗しても直ぐに同じことができるとなると、JAXAや企業に甘えや慢心を生まないか?
「今回は特別だ。非常に早く意義を理解してもらえた。それを伝えていく」

――最大の教訓は何か?
「仕事の原点に立ち返る重要性だ。国から戴く巨額のお金は、単なる研究費ではない。『使えるものを作れ』と託されている。それを認識した上で、研究者の自由な発想をどう生かすか考えないといけない」

――失敗の総括はきちんとできたのか?
「企業との責任分担を明確にする等、4つの対策を立てた。プロジェクト管理規定等も抽象的で曖昧だったので、改善する」

――最近、製造業のトラブルが自立つ。防衛省の通信衛星を輸送中に損傷したり、ジェット旅客機『MRJ』や大型客船も難航したりしている。もの作り力が低下しているのか?
「全体が見えなくなっていることが課題の1つだと思う。私たちも同じだが、その努力が足りないように感じる」

               ◇

■専門家以外にも目配りを
打ち上げ・分解・運用断念・代わりの衛星…。僅か半年の間に、色々なことが起きた。嘗ては、失敗すると「税金の無駄遣いだ」と厳しく批判され、宇宙開発は停滞した。だが、今回は異例の早さで進む。背景には、『ひとみ』に期待した科学者や海外の宇宙機関への配慮がある。内閣府の有識者会議は、その人たちに「丁寧に説明すべきだ」と強調した。だが、専門家以外にも目配りが必要だ。宇宙科学へ関心を寄せる人がいる一方、費用対効果へ疑問を抱く人もいる。奥村氏は、「巨額な税金が託されるのは、『使えるものを作れ』ということだ」と強調した。それ抜きには、科学成果も国民の支持も得られない。 (本誌編集委員 知野恵子)


⦿読売新聞 2016年9月28日付掲載⦿

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