「この仕事が本当に好きなんです」――ある吉原高級ソープ嬢の告白

日々の湖口を凌ぐ為に身体を売る“末端”の女たちもいれば、1回8万円からという吉原の女もいる。1回の料金の差は4~5万円(手取り)も変わってくるが、一体何が違うのか? 日本有数のソープ街である吉原の超高級店で働く女は、どういった思いを抱えて仕事に就くのか――。 (取材・文/ノンフィクションライター 八木澤高明)

20161005 07
「お待たせしちゃって、すいません」――。部屋に案内されてから5分ほど。この日、話を聞かせてもらうことになっていたソープ嬢のエリ子(仮名)が現れた。黒髪に細身の美女である。筆者は客ではなかったが、普段、客にするように入り口で正座をして、「宜しくお願いします」と挨拶をした。訪ねたソープランドは、最低8万円の料金がかかる高級店。吉原には現在、150軒のソープランドがあり、1万円から遊べる店もあるが、その中でも数少ないトップランクの店である。筆者は、横浜に嘗て存在した売春街“黄金町”の取材を皮切りに、全国の裏風俗地帯を歩いてきた。以前から興味はあったものの、江戸時代初期に始まり、来年で400周年を迎える日本の由緒ある色街である吉原のソープ嬢取材はしたことがなかった。果たして、どんな女性が、どんな思いで働いているのか気になったこともあり、今回、取材を申し込んでみたのだった。筆者の申し出を受け入れてくれたのが、超高級ソープで働くエリ子だった。部屋の中を見回してみる。ソープランドは浴場として営業許可を取っていることもあり、スチームバスが置かれていた。働く女性は飽く迄も、入浴する男性の補助をするという立場である。店は、客に場所を提供しているに過ぎないので、店で使うコンドーム等の備品は女性が用意している。この日、仕事を終えたばかりの彼女の荷物を見ると、何日も旅行に行くような大きな黒いボストンバッグが部屋の片隅に置かれていた。「お客さまを迎える時の服だったり、仕事で必要なものを入れると、これぐらいのバッグが必要なんですよ」。1日に迎える客は当然、1人だけではないのて、客毎に服を代えるとボストンバッグが一杯になってしまうのだ。これまで、黄金町等で取材してきた路上の娼婦たちは、小さなハンドバッグにコンドームと化粧道具を入れただけで体を売っていた。高級ソープランドと最底辺の娼婦たちとの違いを、こんなところからも思い知らされた。

20161005 08
エリ子が風俗稼業に足を踏み入れたのは、高校在学中のことだった。岡山県出身の彼女は、先ずセクキャバで働き始めた。「最初から、普通のアルバイトをやる気は無かったですね。『どうせなら稼げるほうがいいかな』って思ったんです」。周りの友人たちもそうした店で働いていたこともあり、何の抵抗も感じなかったという。高校は卒業したものの、直後から広島市内の箱型ヘルスで働き始めた。「一度、水商売を経験してしまうと、もう他の仕事はできないですよ。セックスへの興味も湧き始めて、高校を卒業したら、何の迷いも無くへルスで働くことにしたんです」。広島の店で働き始めて、直ぐに彼女は人気が出た。「『折角やるなら、色んな土地で働いてみたい』という気持ちが出てきたんです。『大阪は広島以上に風俗が盛んで、デリヘルが多い』と聞いたんで、『そこで頑張ってみたいな』って思うようになったんです。自分を試してみたかったんです」。広島から大阪へ。有名なデリヘルで働き始め、大阪の街中を歩いている時に、飛田新地のスカウトマンに声をかけられた。「そんな場所があるなんて知らなかったから、『ちょっと働いてみたいな』って興味が湧いたんてす。デリへルを1週間だけ休んで、働いてみることにしたんです」。彼女が働いたのは、飛田でも若い女がいることて有名な青春通りだった。19歳の時だった。「お客さんは次から次へと来ましたよ。やり手のお姉さんがいるので、変な人は来ないから楽でしたね。15分ということでお客さんは入ってきましたけど、タイマーは3分にセットして、只管に数を捌いていました」。3分とはまさにインスタントセックスだが、彼女の魅力で、客は短い時間に気が付かなかったのかもしれない。半日で20人の相手はしたという。彼女は、更に修行でもするかのように風俗業界を歩いていく。「次に、福原(兵庫県神戸市)のソープに行きました。それから雄琴(滋賀県大津市)・中州(福岡市)・川崎と働いて、今の吉原に来たんです。雄琴の店には大きな門があって、外からは見えないようになっていたんです。大きなお店で、中には美容室もありましたね。ただ、『ドレスは派手なものは駄目だ』とか、『メイクは濃くしちゃ駄目だ』とか厳しい店だったんで、働き易くはなかったです。それに比べると、ここ吉原は罰金も無いですし、服装も何も言われないんで、今までで一番働き易い職場ですね」。18歳から風俗業界に飛び込んだエリ子は、店では23歳になっているが、実年齢は今年で26歳になる。8年かけて様々な色街を周り、吉原という彼女にとって働き易い色街と出会ったのだ。

20161005 09
一方で、吉原はソープランドの激戦区ということもあり、常に自分自身のブラッシュアップは欠かさない。吉原で働くソープ嬢向けの講習会もあり、彼女はほぼ欠かさず参加しているという。「ベッドでサービス前にするお辞儀の角度ですとか、お客さんと最初にするキスは30秒以上かけてディープキスをするとか、基本的なところではゴムの付け方を勉強するんです」。彼女は、この仕事が天職なのだろう。楽しげに仕事のことを語るのだった。しかし、ソープ嬢の中には、精神を病んで自殺する者も少なからずいるという。「実は、私たちがいる部屋も、自殺した人がいるって話ですよ。見える人には見えるらしいです」。ソープランドに来る男たちは、肉欲だけでなく、精神的な安らぎを求めて来る者も少なくない。そうした客の精神的な悩みを打ち明けられたりすれば、知らず知らずに、ソープ嬢の心の中に精神的な疲れが澱みのように溜まっていく。それは、肉体的な疲労以上に取り除くことは困難なものなのかもしれない。「私はエッチも好きですし、この仕事が本当に好きなんですよ。だから、精神的に落ち込んだりすることも無いんです」。ただ、楽観的に過ごしている訳ではなく、性病に対する備えはいつも心がけている。「コンドームは必ず着けていますが、月に2回は性病の検査に行きますよ。1回2万円はかかるんで、痛い出費ですけど、仕方ないですね。その時には、喉の検査もしてもらうんです。意外と喉に感染しているっていう人が少なくないんです」。血液検査や喉の性病の検査代は、店が出してくれる訳ではなく、全て自腹である。吉原ではコンドームを着けないサービスも少なくないが、彼女は絶対に無理だという。「外国からのお客さんも最近多くなってきて、梅毒等の性病に罹った女の子もいるって話です。そうした子は勿論、コンドームを着けていない店の子だと思います。女の子も、そんなサービスはやりたくないんですよ。だけど、『お客さんを取る為には仕方ない』と思ってやっているんです」。エリ子は若さもあり、多くの客が付いている。ただ、この状態がいつまでも続くとは思っていない。筆者は、全国の場末のちょんの間等で、嘗て高級ソープ等で働いていたものの、食い詰めて働いている女たちを見てきた。彼女は26歳という若さながら、客が付かなくなった“娼婦の末路”というものを、その目に焼き付けているのかもしれない。食事は常に自炊し、出来る限りお金は貯金しているという。天真爛漫に振る舞う一方で、彼女なりに冷静な視点で現実を見つめる賢さがある。吉原の高級ソープ嬢は、人知れない努力で懸命に世の中を生きているのだった。


キャプチャ  第20号掲載

スポンサーサイト

テーマ : 社会ニュース
ジャンル : ニュース

轮廓

George Clooney

Author:George Clooney

最新文章
档案
分类
计数器
排名

FC2Blog Ranking

广告
搜索
RSS链接
链接
QR码
QR