これから望む景色は天国か地獄か――新都知事・小池百合子の危機

先日行われた東京都知事選により、小池百合子氏が当選。初の女性都知事が誕生した。自民党への反党行為を犯しながら勝ち取った東京都知事の椅子だが、“政界渡り鳥”の彼女の前に立ちはだかる“都議会の壁”はあまりにも高い――。 (取材・文/フリーライター 西本頑司)

20161006 01
NHK大河ドラマ『おんな城主』ではないが、東京都庁の“おんな城主”となった小池百合子の評価が鰻登りで高まっている。何せ、7月31日の都知事選で圧勝したのだ。自民党は即座に除名処分を白紙撤回し、逆に小池出馬を徹底的に邪魔した石原伸晃を東京都連会長職から辞任させる等、節操なく手の平を返している。それにしても、小池の見せた選挙戦は“お見事”の一言であろう。猪瀬直樹や舛添要一という自民党が支持してきた都知事が、“不正献金”と“職権乱用”で辞任した上での都知事選だった。加えて、先の参院選での野党統一候補の強さが証明され、与党にとって不利な条件だったにも関わらず、強行出馬したことで保守分裂選挙に。若しも、小池が野党候補に惨敗したとなれば、当然、A級戦犯として容赦なく除名処分され、小池の政治家生命は絶たれていたことだろう。元々、東京に確たる地盤も無く、自公の組織票も期待できないとなれば、普通に考えれば全く勝ち目の無い戦いだった。それを見事にひっくり返しての圧勝劇。小池の評価が高まるのも当然というか、既に自民党内では「総理総裁の目も出てきた」との声すら出てきた。自民党の長老格の元政治家が解説する。「派閥のボスになる政治家には2通りある。1つは、どれだけカネを集めるかという“集金力”だな。もう1つが、選挙に強いという“選挙力”。政治家というのは、落選すれば“只の人”。選挙に強いというだけで平伏すのだよ。まぁ、政治家の本能がそうさせるんだな。特に、今回の小池は劣勢の状況から圧勝した。桶狭間の織田信長のようなものだ。これほど“喧嘩に強い”となれば、彼女に従おうとする連中は少なくない。石原慎太郎のように東京を“小池王国”にするにせよ、橋下(徹)のように都知事の実績で派閥を立ち上げるにしろ、東京オリンピック後はニューリーダーの1人になっているだろう」。乾坤一擲、政治家生命を賭けた戦いに勝ったことで、“政界渡り鳥”と揶揄された“厚化粧女”は、何と総理の椅子を狙えるニューリーダーにまで上り詰めたようなのだ。

いや、この“渡り鳥”にこそ小池の強さの秘密がある。事実、彼女が取り入ってきた政治家は皆、“選挙上手”“喧嘩上手”ばかりなのだ。『ワールドビジネスサテライト』(テレビ東京系)の初代キャスターとして、“財界のホステス”と呼ばれていた小池。そんな彼女が政界に転身したのは、1992年の日本新党ブームだった。この時のボスは細川護熙。戦後の“55年体制”を崩壊させた殿様に一時は心酔していたものの、真の立役者は“豪腕”小沢一郎と気付くや、すぐさま細川を見限り、“政界の壊し屋”の元に走った。実に機を見るに敏であろう。更に、2000年の時点で小沢より小泉純一郎のほうが「喧嘩が強い」と判断している目利きも、流石の一言。郵政民営化をぶち上げた小泉の押しかけ女房となるや、“刺客”まで買って出る技け目の無さ。2005年の所謂“郵政選挙”では、抵抗勢力の小林興起と一騎打ち。全く地盤の無い東京5区で小林を討ち取る功績を挙げている。小泉の任期満了後に選んだのは、安倍晋三だった。ああ見えて“総裁戦”の強さは折り紙付きで、“麻垣康三”と呼ばれたポスト小泉争いでは、その名の通り、麻生太郎・谷垣禎一・福田康夫に次ぐ4番手から捲り勝ちしている。それで、小池のお目に叶ったのだろう。小池は、第1次安倍政権最大のネックとなっていた防衛大臣に名乗りを上げる。この時期の防衛大臣は、防衛施設庁談合事件で額賀福志郎、山田洋行事件で久間章生が相次いで辞任する等、難題を抱えていた。その火中の栗を拾うことで、安倍の寵愛を受けようとした訳だ。大物議員たちが大臣職を追われていたのは、“防衛省の天皇”と呼ばれた守屋武昌(事務次官)が原因だった。そこで小池は、防衛省の天敵である警察庁の幹部を事務次官に起用する荒技に出る。当然、猛反発する防衛省側に、“自分のクビ”と引き替えに守屋のクビを差し出させた(これで守屋は逮捕される)。もうおわかりだろう。小池の25年に及ぶ政治活動は、「如何にして選挙に勝つか、喧嘩に勝つか」ということに特化している。その時代、最も強い政治家の下につき、徹底的に学んできたのが小池百合子という政治家なのである。その意味で圧倒的不利と呼ばれた今回の都知事選も十分、「勝算あり」と踏んでいたのだろう。実際、都連の推す増田寛也は、岩手県知事と民間起用の総務大臣という経歴から、決して選挙に強いタイプではない。更に、今回の選挙で“ガンレイパー”という有難くない異名を与えられた鳥越俊太郎にせよ、政治はズブの素人。しかも、同じキャスター職だけに、鳥越が“見てくれだけで頭は空っぽ”なのも熟知していたのだろう。また、今回のスキャンダルも業界では知る人ぞ知るネタ、小池が知っていたとしたとしても不思議ではない。「警察ジャーナリストで知られる寺澤有が、2002年頃に掴んで“上智大学事件”と何度も追求してきたネタですからね。抑々、雑誌系ジャーナリストはサンデー毎日や週刊朝日を雑誌ジャーナリズムと認めていない。雑誌報道の代表ヅラする鳥越に文春と新潮が噛みついたのは当然ですよ」(週刊誌記者)。実際、選挙戦になるや、小池は徹底的に鳥越を挑発。底の浅い人間性を世間に知らしめる戦法を採ってきた。“小池vs鳥越”という有名人対決の構図にして、後は鳥越がスキャンダルで潰れるのを待つだけ。戦上手の政治家たちの下で学んできた小池にすれば、増田や鳥越など赤子の手を捻る程度の相手だった訳だ。

この“喧嘩上手”を武器に、小池の次なるターゲットは、言うまでもなく“都政”の完全支配となる。早速、入庁2日目にして『都政改革本部』を設置。小泉の手法に倣って、反対派の自民党東京都連を抵抗勢力とアピールしながら潰す計画を立てている。ところが、である。都政の実情に詳しい政治ブローカーが断言する。「小池百合子は、都政を甘く見過ぎています。このまま調子に乗って都政に手を突っ込めば、政治家生命どころか、正真正銘、生命の危機になると思いますよ」。このブローカーは、先日の“自転車事故”で再起不能になった自民党幹事長・谷垣禎一の名前を挙げ、「今回、小池が強引に出馬した背景には、仲の良い谷垣の存在があったのは周知の事実。あまりにもタイミングが良過ぎると思いませんか?」と声を潜める。些か陰謀論過ぎる話だが、このブローカーは「ここに都政の闇がある」と真顔で語る。「小池は国政しかやっていないし、東京も落下傘候補でやって来た。恐らく、都議など国会議員の手下ぐらいにしか思っていない。そこが大きな間違いなのです。いいですか。都議は、下手な国会議員より遥かに利権も権力を持っている。小池が潰そうとしている“都議のドン”内田茂は、小泉が抵抗勢力で潰した郵政民営化の反対派議員など比較にならないぐらい危険な人物なんです」。確かに、今回の都議選で異様だったのは、自民党内ではそれなりのポストにいる石原伸晃が、まるで茶坊主のように自民党東京都連の使いっ走りをしていたことであろう。敗戦後も一貫して都連の責任を認めず、逆に小池の出馬を事実上黙認した党本部を追求。都連会長職を辞すことで、都連執行部の責任を回避させる努力までしていた。あの傲慢で自己中心的な男が、あそこまで“ビビっている”以上、侮れない力があるのは間違いあるまい。何故、都議はそれほど強いのか。先ず、東京都政が黒字という点であろう。GDP換算で100兆円規模。これは韓国に匹敵する。日本を代表する大企業の本社が集中しており、しかも都税は“外形標準課税”といって、赤字でも事業規模で一定の税金を徴収している。都の財政は頗る順調なのだ。それだけでなく、東京は23の特別区によって権限が都政に集約されている。他の県会議員に比べて、持っている権限が遥かに巨大なのだ。政治家の資金集めの基本は“口利き”と言っていい。国会議員の場合、口を利く対象は霞ヶ関である。しかし、政治家を軽く見ている高級官僚たちは、野党や新人議員では動かない。官僚人事に口出しできるそれなりの派閥でなければ、口利き自体ができないのだ。その点、地方自治体は違う。相手は地方公務員の県庁職員。県会議員とは地縁・血縁も絡む分、口利きをし易い。普通の県政は“3割自治”だが、黒字続きの都政は予算規模も大きく、用途も多岐に亘っている。下手な国会議員より、都議のほうが上というのも頷けよう。都議とは、要するに“東京国の国会議員”も同然なのだ。そのボスである内田茂は、小池の想像を遥かに超える権力を持っているようなのだ。

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実は、都議の強さはそれだけではない。地元警察との癒着こそ、都道府県議員たちの権力の源泉となっているという。警察の不正を追及する元兵庫県警の飛松五男氏によれば、各都道府県の警察本部と癒着しているのは国会議員ではなく、県会議員と断言している。自らの体験談として、「交通課に勤務していているとき、県会議員の命令で毎日10件、“交通違反のもみ消し”をやっていた」と自著『歪曲捜査 ケンカ刑事が暴く警察の実態』(第三書館)に明記している。タクシーや運送会社等、交通違反がビジネスに直結する会社は、県会議員に1件5万円で揉み消しを依頼。議員は、各警察署に“1件5000円”で発注するというのだ。更に企業は、県会議員を通じて警察情報を買うともいう。これは犯罪歴・思想信条・消費者金融使用歴の3点セットで、「年契約で1社当たり800万円」(飛松氏)という。こうした地元企業と地元県警の癒着を仕切るのは、飽く迄も県会議員。県警本部の予算が各都道府県から出ている関係で、県警本部の幹部たちと県会議員はベッタリとなっているらしい。実際、国会議員でこれほど警察情報にアクセスできるのは、警察キャリアから政界に転身した一部の政治家ぐらいであろう。「県警本部の部長クラスは、地方公務員試験で採用されて出世したノンキャリアのエリートが就く。各所轄署の署長もそう。現場を仕切っているのはノンキャリエリートであって、国家公務員として採用されるキャリアではないのです。このノンキャリエリートと県会議員が予算の関係で癒着する。警察情報を自由にできるから地元企業は政治家に献金するわけで、その意味では国会議員より力を持っているんですよ」(飛松氏のインタビューより)。扨て、都議が癒着する警察本部は、言うまでもなく天下の警視庁だ。予算は2700億円、人員は4万9000人。首都の治安を守る名目で、警視庁にはありとあらゆる捜査情報が集まってくる。都議は、この日本最強の捜査機関の現場幹部たちと結託している。これが、“都議のボス”内田茂が恐れられている最大の理由なのだ。謂わば、都庁・警視庁とがっちり“鉄のトライアングル”を組んでいるのが都議・自民党都連なのである。石原伸晃如きが顎で使われるのも当然であろう。選挙に圧勝し、気をよくした小池は、世間の人気取りも予て今後、“オリンピック利権”に手を突っ込む筈だ。最大の利権は、新国立競技場等の会場設営ではない。当初、3000億円から1兆8000億円に跳ね上がった最大の理由は“テロ対策費”――つまり、警視庁の利権なのである。猪瀬直樹や舛添要一共に、ここに手を出して潰されたと言われている。裏で警視庁が動いていたとすれば、彼らの内部情報が漏れてスキャンダルになったのも納得できよう。調子に乗った小池が“テロ対策費”に切り込めば、先の政治ブローカーが危惧していた“生命の危機”も冗談には聞こえなくなる。鳥越ではないが、“ガン(銃)サバイバー”となるかもしれないのだ。都政の闇というパンドラの箱には、“絶望”しか残っていない。それを知らずに開いた小池の運命は一体、どうなるのか。蓋し見物である。 《敬称略》


キャプチャ  2016年10月号掲載

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