【「佳く生きる」為の処方箋】(21) 病気を割り出す“点と線”

若い頃は推理小説をよく読みました。特に、松本清張の小説は、『点と線』や『砂の器』等を熱心に読んだものです。証拠や裏付けを徹底的に積み重ねて、犯人を追い詰めていく。そんな推理小説の手法は、医師の診断にも通じるものがあります。先日、こんな患者さんを診ました。胸が締めつけられる症状が出て、冠動脈CT検査まで受けたが、原因がはっきりしない。医師からは一先ず『冠攣縮性狭心症』と診断されたが、「どうも心配だ」と言うのです。冠攣縮とは、寒さ等から自律神経作用の微妙なアンバランスを生じて、冠動脈が強く収縮する状態。心筋への血流が乏しくなり、狭心症を引き起こします。この患者さんの訴えはこうでした。「お昼前くらいから、体を動かすと胸が苦しくなります。でも、午後になると大丈夫なんです」。この言葉を聞いた段階で、「冠攣縮の可能性は低い」と確信しました。何故なら、冠攣縮は睡眠中や安静時に起こることが多いからです。病気には、その病気を裏付ける特有の“言葉”があります。例えば、冠攣縮の患者さんは、「夜、胸が苦しくて目が覚めた」とか、「朝、起きた時にいつも調子が悪い」等と訴えます。ところが、この方からはこのような言葉はなく、逆に「体を動かすと苦しくなる」とのこと。これは『労作狭心症』の典型的な言葉です。階段を駆け上がる・トイレで息む等、明確なきっかけがあって発作が起こる狭心症のことです。では、発作の原因は何なのか。その謎解きのカギは、CT画像に隠されていました。左の冠動脈の付け根部分が、通常よりも少し肺動脈側に寄っていたのです。これは元々、冠動脈の位置がずれている“起始異常”と呼ばれる状態です。

この方の場合、若いうちは問題無かったのですが、年を取って血圧が上がり、大動脈自体も太くなってきた為、左冠動脈が肺動脈と大動脈に挟み撃ちされる格好になった。しかも、動脈硬化もある程度進んでいる。この為、ちょっと無理をした時に血流が乏しくなり、発作が起きたのではないか…。そう睨んで、更に訊きました。「不整脈が出ることはありますか?」。患者さんは、「はい」と即答しました。「不整脈が出ると、気分が悪くなるでしょう?」。これまた、「はい」と即答です。「やっぱり」と合点がいきました。この不整脈は、血流が一時的に途絶えたことを意味しています。狭み撃ちにあった冠動脈が一時的に血流不足に陥り、そして再び流れ出した時に脈が飛ぶような不整脈が誘発されるのです。ただ、失神したり、AED(自動体外式除細動器)のお世話になったりしたことはないそうなので、血流の途絶は未だ軽症と考えられました。そして、最後の検証は「何故、発作は午後には起こらないのか?」ですが、これも理由は明白でした。朝飲んだ降圧薬が午後には効いて、血圧が下がり、例の“挟み撃ち”が解消されるのです。ここまでくると、まるでオセロの石がダーッと同じ色にひっくり返るように、推理が確信へと変わります。証言や証拠がひとつに繋がり、“犯人”とその“犯行”の全体像が1つのストーリーとして浮かび上がってくるのです。正しい診断に辿りつけるかどうかは、医師としての経験と知識が絶対条件ですが、もう1つ必要なものがあります。経験と知識に支えられた自分なりの細かい目の“篩”です。例えば、CT画像から起始異常を見つけられるのは、そういう目で見ているから。目の粗い篩なら、絶対に見逃します。経験と知識と精密な“篩”。犯人を突き止める刑事さんに必要な条件は、医師にとっても心要不可欠なのです。


天野篤(あまの・あつし) 心臓外科医・『順天堂医院』院長。1955年、埼玉県生まれ。日本大学医学部卒。『亀田総合病院』『新東京病院』等を経て、2002年に順天堂大学医学部心臓血管外科教授に就任。2012年2月18日に天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀。2016年4月より現職。著書に『一途一心、命をつなぐ』(飛鳥新社)・『この道を生きる、心臓外科ひとすじ』(NHK出版新書)等。


キャプチャ  2016年10月6日号掲載
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