【警察の実力2016】(11) ベールに包まれた外事警察、北朝鮮スパイ摘発の裏側

北朝鮮や中国等のスパイを摘発する外事警察。だが、その実態はベールに包まれている。どのようにして摘発しているのか、その実態に迫った。 (取材・文/フリージャーナリスト 李策)

20161007 05
昨年12月、警視庁公安部外事第2課は、詐欺容疑で1人の男を逮捕し、「北朝鮮のスパイだった」と発表した。男は、『在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)』が運営する『朝鮮大学校』(東京都小平市)の元准教授。北朝鮮の工作機関『225局』のエージェントとして、韓国国内の親北派と接触。政財界の情報収集や、反体制活動に関わる秘密指令を伝え、工作資金を渡す等していたという。警視庁は、全国の警察本部の中で唯一、過激派やスパイ摘発の専門部署である公安部を置いている。外事第2課はその中で、中国と北朝鮮を担当。工作員の動向や、精密機械等戦略物資の不正輸出を捜査している。他の道府県警察本部では警備部外事課が同様の任に当たっており、全国纏めて“外事警察”とも総称される。ひと口に「スパイを摘発する」と言っても、実は、日本にはその根拠となる法律が無い。因みに、お隣の韓国の場合、何がスパイ行為に当たるかを明確に定めた『国家保安法』がある。政府の許可無く北朝鮮当局者と会ったり、北朝鮮の体制を称賛したりしただけでも違法で、冒頭の准教授と接触していた親北派の人物も、同法違反で実刑判決を受けている。では、そのような法律の無い日本の“スパイハンター”たちはどうしているのか。それを教えてくれる資料が手元にある。『北朝鮮への不正送金対策推進計画』と題された2枚組のペーパーだ。1枚目の右肩には、1993年12月1日の日付と共に、㊙の印がある。朝鮮半島が第1次核危機の最中にあった当時、警察庁内部で作成された“朝鮮総連捜査マニュアル”だ。この文書では、捜査の進め方について次のような“推進要領”が示されている。

①朝鮮総連系パチンコ業者一覧表の作成
【中略】
⑤入り口事件への着手
  容疑者の逮捕・取り調べ、関係場所の捜索、参考人の取り調べ等
⑥押収資料等の分析→送全実態の解明
⑦入り口事件の送致
⑧脱税容疑の抽出→課税通報→強制査察
⑨送金実態の解明

つまり、スパイ活動と直接関係無いものであっても、捜査対象者を取調室の椅子に座らせ、ガサ入れをして、資料を押収する根拠となる違法行為を“入り口事件”として立件。そこから実態解明に進むという訳だ。だから勢い、“入り口事件”の内容はショボいものになりがちだ。外国人登録の記載漏れや些細な著作権の侵害等で、冒頭の准教授のケースも、逮捕容疑となったクレジットカードの不正使用では、処分保留で釈放されている。これは警察としても、割り切ってのことだろう。

ところが、近年ではショボい事件で始まり、そのまま終わってしまうケースも見られるようになった。全国の外事警察が手掛ける北朝鮮事案は、このところ、中古タイヤ・ニット生地・冷凍タラ・壁紙・ファンデーション等、些か“小粒”な製品の不正輸出事件が主流になっている。典型的なのが、京都府警等が昨年5月に揃発した北朝鮮産マツタケの不正輸人事件だ。朝鮮総連トップの次男が逮捕されたことで大きく報道されたが、実は外事警察の内部にも、この捜査を冷ややかに見る向きが少なくなかった。外事警察OBが語る。「不正輸入されたマツタケの量は約3トン。価格にして精々1億円前後で、一部マスコミが書いたような“金正恩の外貨収入源”というほどのものじゃない。財政難の朝鮮総連が、湖口を凌ぐ為に手を染めていただけだ」。そして、「勿論、そこから何か重要な秘密を探り当てたのならいいが、それも無かった。“北朝鮮に圧力をかけているフリ”をしたい安倍政権の意向に付き合っただけ」と指摘する。実は、外事警察の手掛ける北朝鮮事案が“小粒”になっている背景には、安倍政権の“強硬姿勢”がある。2007年1月、第1次安倍内閣で警察庁長官を務めていた漆間厳氏は、こう檄を飛ばしたとされる。「北朝鮮が困る事件の摘発こそが、拉致問題を解決に近付ける」「その為には、資金源等について『ここまでやられるのか』と相手が思うほどに事件化していくのが有効だ」。当局内で“政治警察宣言”とも言われるこの号令に従い、外事警察は北朝鮮関連の事件摘発を量産しているのだ。本来、巧妙に偽装されたスパイ網や、戦略物資の不正輸出を摘発するには、年単位の時間がかかる。しかし、そんなやり方をしていたのでは、“お上”の期待に応えることはできない。そこで必然的に、外事警察の目はより“簡単な事件”に向くことになった。折しも、国連制裁で北朝鮮への“贅沢品”輸出が禁止され、日本の独自制裁により、日朝間での全ての品目の貿易が禁じられた。その為、“小粒”な取引の摘発で点数稼ぎができるようになった訳だ。その結果、「冷戦時代に築き上げた北朝鮮に対する防諜ノウハウが相当、減退してしまった」(前出のOB)とも囁かれている。一方、外事警察の北朝鮮案件が“小粒”になるのは、「ある程度は仕方のないこと」との見方もある。昔に比べ、北朝鮮の日本に対する関心が明らかに薄れている為だ。北朝鮮情報の専門サイト『デイリーNKジャパン』の高英起編集長が話す。「嘗て、日本は北朝鮮にとって重要な資金源であり、対日部門を仕切る幹部の発言力も強かった。しかし、日本経済のマイナス成長と、朝鮮総連系信用組合の経営破綻が重なり、送金が細ったことで、日本の魅力が薄れてしまった。拉致問題や国内での人権問題がネックになり、国交正常化とそれに伴う経済支援獲得が殆ど不可能になった事情もある」。更には、中国等の技術力向上によって日本の精密機器への依存度が下がったことや、日朝貿易の全面禁止等によって人の往来が極端に減ったことも、外事警察の仕事不足に拍車を掛けている。ただ、北朝鮮の核武装が現実化した今、北朝鮮情報の重要度は寧ろ増している。外事警察が、その使命と役割を大きく転換する時なのかもしれない。


キャプチャ  2016年7月30日号掲載
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