「“Gゼロ”の混乱、あと10年は続く」――イアン・ブレマー氏(国際政治学者)インタビュー

イギリスの『ヨーロッパ連合(EU)』離脱は、アメリカがリーダーシップを失った象徴的な出来事だ。大国主導の統治体制が終わり、混沌とした時代は当面続く。国際政治学者のイアン・ブレマー氏が見る“BREXIT”の意味とは――。 (聞き手/本誌編集部)

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――イギリスの『ヨーロッパ連合(EU)』離脱をどう位置付けていますか?
「個人的には、1998年にシンクタンクを設立して以来、最大の地政学リスクだと思っている。第2次世界大戦以降、アメリカが主導してきた世界体制が終焉に向かっていることを示す象徴的な出来事だ。戦後の世界は、アメリカ一極の“G1”時代から、先進国との“G7”、そして中国やインドを交えた“G20”体制へと、緩やかに極を分散させてきた。そして今や、世界に圧倒的なリーダー国が存在しない“Gゼロ”の時代に入った。アメリカは、じわじわと世界の影響力を低下させてきた。その象徴的な事件は2つあった。2001年の同時多発テロ、そして2008年のリーマンショックである。しかし、イギリスのEU離脱は、これらの事件以上に厄介だ。その理由は、誰がどのように事態を収拾すればいいのか誰にもわからない点だ。2001年の同時多発テロが起きた当時、アメリカは未だ世界への影響力があった。賛否は兎も角、アメリカは世界でリーダーシップを発揮し、テロ対策を先導した。2008年のリーマンショック時も力は弱まりつつあったが、アメリカを中心に国際的に連携し、金融政策・財政政策の両面で対策を打った。ところが、今回は事態を収束できるリーダー国が見当たらない。アメリカは過去の事件と違って、当事者意識を失っている。これまでEUを纏めてきたドイツも苦しい。イギリスとの交渉前に、EU内を纏めるだけで多大な労力を強いられるだろう。イギリスが離脱したことで、オランダ、フランス、イタリア各国でイギリスに続こうとしている反EU勢力が力を増している。この状況を直ぐに治められるような対策は存在しない。この先、5年・10年かかるような息の長い対応が求められることになる。だから、イギリスのEU離脱を、単に金融市場や世界経済のマイナス要因だけだと捉えていると、本質を見誤る。寧ろ、ヨーロッパ全体がこれから長期間に亘って脆弱な状態に陥る地政学リスクとして考え直す必要がある」

――ヨーロッパは解体の道へ向かっているということですか? 或いは、これも深化・統合の1つの過程でしょうか?
「両方だと思う。確実に言えるのは、『国家という単位を超えて共通の価値観で纏まろう』というこれまでの歴史に無い統合実験は、失敗に向かっているということだ。残念ながら、“大欧州”の崇高な理念は、今では風前の灯であり、それが再び元に戻ることは無いだろう。一方で、経済面での結びつきが弱まることは無い。EUの単一市場はこれからも無くならないだろうし、経済統合プロセスは今後も続くだろう。ただ、EUはあまりにも急拡大し過ぎた。ロシアやトルコの国境に拙速に近付き過ぎたのだ。EUが彼らとの結び付きを深めるには、政治理念や経済価値があまりにも違い過ぎる。その歪みが、中東から大量に押し寄せる難民問題や、ヨーロッパ各国で頻発するテロとなって、EUを混乱させるようになった」

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――イギリスとEUの離脱交渉は、今後どうなると見ていますか?
「正直、あまり楽観はしていない。離脱の本質的な理由は、EUに対する不信感があるからだ。2008年のリーマンショック以降のEUは、機能不全が続いている。ユーロ危機や、それに続く昨年のギリシャ危機、そして難民問題も、解決というには程遠い状態だ。本来ならば大胆な指導力を発揮すべき課題に対して、EUは結果を残せていない。問題は、EU加盟国内にもイギリスと似た不満を抱く勢力が存在することだ。多くは、イギリスのEU離脱を追い風と感じており、国民投票の実施を主張している。反EU勢力を抑える為にも、イギリスに対しては厳しい姿勢で臨まなければならない。しかし、あまりイギリスを孤立させてしまえば、EUの理念が明確に頓挫することになる。EU側を事実上指導する立場にあるドイツのアンゲラ・メルケル首相は大人の対応を心がけるだろうが、匙加減は難しいだろう。どこまでいっても、EU加盟国全てが納得できる結論を導くことは難しい。だから、政治はとても流動的になる。難民問題やテロ等、何かのきっかけで他の国がドミノ倒しのようにEU離脱に向かう可能性も否定はできない。イギリスとEUが妥結点を見い出すのは、相当に難しいのではないか」

――「現在の状況は、世界恐慌を迎えた後の1930年代に似ている」という指摘もあります。
「不安定な状況にあるという点では同意するが、中身は似て非なるものだ。経済の相互の結び付きが、当時とは比べものにならないほど強まっている。1930年代は、国家の役割はよっぽど大きく、その結果として、最終的には大国同士の戦争へと向かった。しかし、今は明らかに違う。国同士ではなく、寧ろ1つの国の中に様々な争いがある。アメリカ国内で続く白人と黒人の人種差別を巡る諍いがそうだろうし、日本人も犠牲になったバングラデシュのテロも、トルコのクーデター未遂もそうだ。Gゼロの時代は、世界の秩序も混沌となる。こうした不安定な対立が、様々な場所で頻発するようになる。その行き着く先がどこになるかは、正直、私にもわからない。繰り返しになるが、この状況は5年・10年単位で続く」

――再び大国がリーダーシップを発揮する時代が来る可能性はありますか?
「最有力候補はやはり、アメリカと中国だ。中国については、私が“Gゼロ”についての著作を発表した時は、未だ国として発展途上だった。しかし、現在は成熟している。アジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立を主導し、製品開発力を高め、サプライチェーンも構築している。アジアの一部の国にとっては、中国は既にリーダー国となっている。ただ、中国は嘗てのアメリカのように、世界の警察になるつもりはない。世界の貿易を振興していこうという考えも無いだろう。もう1つの大国であるアメリカも、多方面との貿易関係を構築するというよりも、特定の国と緊密関係を結ぶことを選ぶようになった。そこに長期的な外交戦略は無く、より商業的な価値や自国のセキュリティーが優先される。保護主義的な意味合いが強くなっている。『アメリカが世界の為に…』という発想は薄れている。バラク・オバマ大統領の政策は、確かに成果もあったが、特に外交に関して言えば、世界各国との関係が弱体化したことは間違いない。この傾向は、次の大統領がヒラリー・クリントン氏になってもドナルド・トランプ氏になっても、大きくは変わらないだろう。ただ、アメリカと中国双方にとって、イギリスのEU離脱は歓迎すべきことではない。世界経済と地政学の両面で、安定したヨーロッパを望んでいる。アメリカと中国の利害関係は一致しており、今後は繋がりが強まる可能性もある」

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――大国のリーダーシップが失われつつある一方、各国には大衆迎合主義(ポピュリズム)が台頭しています。
「世界のグローバル化が進む中で、極僅かな富裕層が多くの富を抱え込む構造が定着した。それでも、世界経済が成長しているうちは、新興国の中間層の所得も上昇し、全体では国が豊かになっていた。ところが、2008年のリーマンショック以降、その成長が停滞している。中間層も、嘗てのような成長は見込めず、一方で富裕層はタックスへイブン(租税回避地)等を利用して、所得を防衛するようになった。広がる格差は、多くの中間層や低所得層にとって、国家の不信と不満に繋がる。ポピュリストは、そうした不満を巧みに煽る。『我々のことを考えない政治エリートに罰を与えよう』と。イギリスで起きたのも、これと同じ構図だ。移民問題や経済への影響が争点になったと言われるが、それは表層的な理由で、その裏には、大多数の国民が政治的なエスタブリッシュメントに抱いていた不満が大きかった。この状況はイギリスだけでなく、ヨーロッパ各国やアメリカでも見られる現象だ」

――政治的な指導力を発揮することが益々難しくなっている、と。
「一方で、興味深い動きもある。それは、ローマ法王のような国家を超えた組織の指導者が、重要なリーダーシップを果たしていることだ。ローマ法王は今や、世界を二分するテーマに積極的に関わっている。非科学論争・避妊・同性婚の問題等、何れもセンシティブだが、とても大事で且つ世界的なイシューだ。昨年の地球温暖化防止を議論したパリ会議でも、国家間交渉の裏で世論形成に指導力を発揮したのは、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏や、テスラモーターズを起業したイーロン・マスク氏といった実業家だった。国家のリーダーの影響力が相対的に衰える中で、これらの組織のリーダーシップは今後、更に重要性を増すだろう」

――イギリスは今後、どうなりますか?
「イギリスに対する悲観的な見方が多いので、少し違った見方もしておきたい。世界は、嘗てないほど非中央集権的になっている。多くの国で今、政府は力を失い、権力は中央集権から分散に向かっている。イギリスが若し本当に主体的に自国の国益になる政策を立案し、実行できれば、強い国として国際舞台に復帰する可能性はある。離脱を決めた後に検討に入った法人税率を15%に引き下げる施策案は、その例として挙げられるかもしれない。EUの常識に捉われない施策を効果的に打ち出せるかが、カギを握る。勿論、イギリスが再び輝けるかどうかは、テリーザ・メイ新首相が実際にそこまでのリーダーシップを発揮できればの話だ」


Ian Bremmer 国際政治学者・コンサルティング会社『ユーラシアグループ』社長。1969年、アメリカ合衆国メリーランド州ボルチモア市生まれ。テュレーン大学卒。1994年、スタンフォード大学で修士号及び博士号取得(旧ソビエト連邦研究)。『スタンフォード大学フーバー研究所』研究員を経て、1997年から『ワールドポリシー研究所』上級研究員。1998年に『ユーラシアグループ』を設立して現在に至る。著書に『“Gゼロ”後の世界 主導国なき時代の勝者はだれか』『スーパーパワー Gゼロ時代のアメリカの選択』(共に日本経済新聞出版社)等。


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