【警察の実力2016】(12) 営業にも使えるホシの落とし方…元刑事が明かす取り調べの5ヵ条

「刑事の取り調べと営業マンの商談には共通点が多い」――。そう指摘するのは、元警視庁捜査2課の大場良明氏だ。営業にも使える取り調べの5ヵ条を伝授しよう。

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①先ず心理状態を探れ
「朝早くから申し訳ないですね」――。取り調べの日の朝、容疑者と取調室で向き合って座った大場氏は、そんな言葉を掛けることから聴取を始めたという。冗談や笑顔を交え、決して高飛車な態度を取らない。「取り調べ中に怒鳴り散らし、威圧的な態度を取る刑事は有能とは言えない。理想は、刑事コロンボや古畑任三郎のように、物腰柔らかに“ホシ”に接する」というのが大場氏の信条だ。そうやって相手の緊張を解しながら、実は大場氏が具に観察していたことがある。その1つが目の動き。ホシに若し罪悪感があれば、視線を逸らしたり、瞬きが多かったりするという。或いは手や声に震えは無いか。汗の量はどうか。昼食時の食欲は、溜め息の回数は…。人の表情や動作には、その心理状態を窺える幾つもの“ヒント”が隠されている。優秀な刑事はそれを見逃さず、ホシの本心を探っていくのだ。それはまさに、商談の場に通じる心理戦だ。客の一挙手一投足から、どんな話題や条件を提示すれば興味を引くのか読み取れば、交渉を有利に進める為の武器となる。若しホシが“当たり”だった場合、取り調べ開始から数時間も経てば、大抵は唇が粉を吹いたように真っ白になるという。但し、これらは飽く迄も心証に過ぎない。自供を引き出すには、更なる技術が必要となる。

②何よりも信頼を勝ち取ること
大場氏が取り調べで重視するのは、ホシと如何に信頼関係を築くかである。その為のコツは2点ある。1つ目は、相手の立場を考慮し、決して人格を傷付けないことだ。贈収賄や横領等の事件を扱う捜査2課の刑事だった大場氏にとって、取り調べの対象で多かったのが、議員・公務員・会社役員といった社会的地位の高い人たちだ。彼らに対して大場氏は、「貴方は、これまで立派な仕事を続けてきた。しかし、その中で法に触れてしまった、たった1つの汚点がある。その汚点について話をしてほしい」という言葉を掛けていた。この狙いについて大場氏は、「例えば、ホシに収賄容疑があるのなら、それは彼に権限があるから。努力と功績が無いと、そんな地位には就けないし、賄賂も貰えない。中には、ホシのプライドをズタズタにしてしまう刑事もいるが、それでは反発されるだけ。プライドは剥ぎ取るものではなく、自ら脱ぐことに価値がある。努力と功績を認め、“褒め殺し”で相手のプライドを尊重するほうが、自供を引き出せる可能性が高い」と解説する。そして2つ目は、決して嘘を吐かないということだ。例えば、「お前のことは全てお見通しだ」という言葉はNGワード。何故なら、如何に刑事と雖も、ホシの家庭や職場でのこと等全ては知り得ず、「全てお見通し」と言うのは嘘を吐いていることになるからだ。「そんな嘘は直ぐにバレるし、やはり反感を持たれるだけ。営業マンが商品を売り込む時も、その商品の良い部分だけをアピールするのではなく、他の商品に劣る点も正直に話したほうが嘘は無く、信頼してもらえる」(大場氏)。相手の立場を尊重し、その場凌ぎの嘘は絶対に吐かない。そうして信頼関係を築くことが、刑事と営業マンに共通する鉄則なのである。

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③でも100%信用するべからず
とはいえ、相手の言うことを100%信用してはいけないということも、共通する留意点と言えるかもしれない。取り調べの末にホシが自供を始めたとする。だが、その自供を鵜呑みにしてはいけない。何故か。大場氏は、「落ちたホシは、自分の良いところを見せようと、ストーリーに沿った話をしがち。捜査側も、自分たちが把握していない事実を聞くと、つい身を乗り出してしまう。自供を引き出したとしても、その裏付け捜査を入念にしなければ、後に矛盾が生じ、公判で無罪になってしまう恐れがある。『自供の大半が嘘かもしれない』という前提で詰めていく作業が必要」と語る。信頼関係を築くことと一見矛盾するようだが、これは契約後のトラブルを回避する為、営業マンにも欠かせない“基本動作”だろう。営業努力で客と信頼関係を築き、やっとの思いで契約にこぎ着けたと思ったら、実は相手に支払い能力がまるで無かったというようなことはあってはならないからだ。

④自供後も安心してはいけない
自供を終えたホシに、大場氏が必ず聞いていたことがある。その1つが、「本当に貴方がやったのか? 本当は犯人ではないのではないか?」という問い掛けだ。これは、供述に間違いが無いことを改めて確認する為のプロセスだ。一旦供述を全てひっくり返し、ホシにもう一度事実を話させて、矛盾点が無いか細かく検証する。公判で有罪に持ち込めるかどうかの最後の詰めの作業と言える。そしてもう1つ、大場氏が必ず尋ねていたのが、「何故自供したのか」ということだ。自供に至った心理状況を自らの口で語る時、「100人中100人の表情が優しくなる。嘘を吐くことに疲れ、自供したことで楽になるのだろう」と大場氏は振り返る。「自供して良かった」とホシに感じてもらい、その後も信頼関係を維持することが重要という。勿論、どんな言葉をきっかけにホシが心を動かし、自供するに至ったのかという情報は、自身の取り調べ技術の向上にも繋がる。契約後も客に「買って良かった」と感じてもらうことで信頼関係を維持し、その成功例をフィードバックし、次に生かすことは、営業マンに必須のテクニックと言えよう。

⑤人を好きになるべし
引退した大場氏が最近強く感じるのは、現場の警察官が世間の批判を恐れて内向きになっていることだ。そんな後輩たちに思い返してほしい言葉がある。「声無きに聞き、形無きに見る」。明治時代に警察制度を確立した“近代警察の父”、初代大警視(警視総監)の川路利良の訓言だ。大場氏は、「恋人間や家庭内での暴力(DV)、ストーカー相談への対応等、現場の警察官1人ひとりが初動判断の難しさに直面している。判断に迷った時は、常に市民の立場になって考えてほしい。市民に信頼され頼られてこそ、警察官の存在価値がある。まさに、市民の声無き声に耳を傾けることが、これまで以上に求められている」と語る。そして、「人を好きになってほしい」とも思う。インターネットやメールに慣れ、人と向き合って対話することに苦手意識を抱く若手は、警察官にも少なくないという。大場氏は、過去に取り調べた事件関係者との付き合いを今も続けている。緊迫した取調室で心の奥底を見せ合ったからこそ、本当の人間関係を築けたのかもしれない。それは取調室に限らず、商談の場も同様だろう。そうした人間関係を築けるコミュニケーション力こそが、一流の営業マンの“証し”と言えるのだ。


キャプチャ  2016年7月30日号掲載

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テーマ : 警察
ジャンル : 政治・経済

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