【男の子育て日記】(22) ○月×日

5月14日 従妹の結婚式に出席する為、妻と一文とで上京した。今回、親戚一同に一文お披露目となる。「きゃわい~い」と持て囃される光景を想像すると、ニヤニヤが止まらなかった。Tシャツとジーンズにスニーカーという“正装”で出席するつもりだった。いいんだもんね、おいら作家だもん。親戚も「毅宏だから…」と、とっくに諦めているし。ところが、だ。式当日の朝、風呂上がりに全裸で寝落ちしたせいではないと思うが、起きた途端、強烈なモーニングアタックに襲われた。20年くらい前に花粉症にかかってからというもの、症状は年々重くなり、今では春先だけでなく、1年中、目薬と飲み薬が欠かせなくなってしまった。しかも、1年に数回、途撤もない頭痛にヤラれてしまう。それが、よりにもよって大事な日に来るなんて。右目の奥に錐を捻じ込まれるような痛みで、喋ることも覚束無い。親族による記念写真までは、ふらつきながらも立っていた。しかし、間もなく限界。結婚式本番は、別室でずっと横になっていた。水を飲んでも吐くの繰り返し。目を閉じては、取り留めのない悪夢が次から次へとフラッシュバックしてきた。結局、式場に一歩も足を踏み入れないままセレモニーは終了した。何しに東京まで来たんだ俺。その間、一文は妻が面倒を見てくれた。これまで“ヤリマン”“人格が欠けている”等と、このエッセイで語ってきたが、訂正したい。お詫びはしないけど。あぁ、主役の花嫁より我が子がチヤホヤされるところを見たかった。雑司が谷で『ビアレストラン アミ』を経営している叔父(拙著『さらば雑司ヶ谷』に登場。あの小説は実話が基になっているが、叔父だけが実名で、普段やっている裏稼業にも言及した)が、赤ら顔で顔を覗き込んでくる。「毅宏、大丈夫かぁ?」。紙より白くなった俺の顔を見るや、ハッとした。「まさかお前、清原と同じことをしているんじゃ…!」。人を見て言え。この連載、“ジャンキー子育て日記”かい。帰りの新幹線の中で少しずつ快復し、京都駅に着く頃には息を吹き返した。駅ビルで大好物の喜多方ラーメンに舌鼓を打った。「全く、さっきまでの大騒ぎは何だったの…」。妻が呆れている。「そこも含めて俺に惚れたんだろうが」。一文がじっと見ている。視線が痛い。

5月25日 出産後もプラス18kgのままの妻が、遂に意を決してエステに足を運んだ。随分と厳しい言葉を浴びせられたらしい。直後のツイート。
夫の俺はもっと泣きたい。帰宅した妻の太股には、大きな青紫の痣が。まるでDVみたいだ。脂肪を溶解する注射を打ってもらったという。「兎に角、炭水化物を摂らないことだな」。妻は、「でき~ん」と泣き崩れる。一文がまたじっと見ている。呆れた両親を手本に、この子は育つ。


樋口毅宏(ひぐち・たけひろ) 作家。1971年、東京都生まれ。帝京大学文学部卒業後、『コアマガジン』に入社。『ニャン2倶楽部Z』『BUBKA』編集部を経て、『白夜書房』に移籍。『コリアムービー』『みうらじゅんマガジン』の編集長を務める。2009年に作家に転身。著書に『日本のセックス』(双葉文庫)・『ルック・バック・イン・アンガー』(祥伝社文庫)・『さよなら小沢健二』(扶桑社)等。


キャプチャ  2016年10月13日号掲載
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