fc2ブログ

【この素晴らしき世界】(61) 元気が出る男、トミーズ健②

貧しい境遇育ち、トミーズ健ちゃんの切ないけれど笑える貧乏話の続きです。健ちゃんのクリスマスプレゼントのエピソードも面白くてたまりません。皆さんは、親からのクリスマスプレゼントはどんなものを貰いましたか? 玩具ですか? 洋服ですか? 今から50年前のクリスマスプレゼントはえぇ加減なものでした。家が特に貧しかった健ちゃん家の、ある年のクリスマスの出来事です。お父さんは朝から工場で働いて、夕方にカブに乗って帰ってきます。お母さんは夜の仕事をしていたので、家には子供たち3人だけ。帰ってきたお父さんを玄関で迎えると、脇に何かを包んだ新聞紙を抱えている。お父さんは靴を脱ぎ、家に上がり、居問の卓袱台の上に徐にその“何か”を置きました。「メリークリスマス! お前らにクリスマスプレゼントや」。喜ぶ健ちゃんたち。「開けてみぃ」とのお父さんの一声が合図になり、我先に新聞紙の包みを開けました。そして一瞬、子供たちの手が止まりました。そこにあったのは…豚の頭でした。沖縄の市場のお肉屋さんなんかによく並んでいるそれです。卓袱台の上には、豚の頭を丸々ボイルしたものが出現したのです。豚の頭は存在感が違います。醤油で味付けした鶏のモモ肉をボイルし、関節のところを銀紙で巻いて、我々の時代はよくクリスマスに食べていました。若しかしたら、健ちゃんのお父さんにはうっすらその記憶があって、豚の頭をボイルしたのを間違って買ってきたのか? 若しくは、クリスマスとはご馳走を食べる日だから、お父さんにとってご馳走といえば豚の頭だったのか? 真相は誰にもわかりません。

「クリスマスプレゼントや!」と嬉しそうに笑うお父さんを前に、「クリスマスは鶏やで。何で豚の頭なん?」とは誰も言えません。「ボイルしているからそのままで食べられるぞ。スプーンで肉剥がして食え。美味いぞ! 塩振って食べたらもっと美味いぞ!」。子供たちはお父さんの言う通り、台所からスプーンを持ってきて、豚の頭の肉を剥がして食べたそうです。そしてまたお父さんの言う通り、少し塩を付けると更に美味しくなったそうです。健ちゃんたち3人は無言で豚の頭を見つめながら、黙々と食べました。暫くして改めて豚の頭を見ると…穴ぼこだらけに変わっていました。夜中にお母さんが仕事から帰ってきてびっくり。「ギャー! 何これ、気持ち悪い! クリスマスに何買ってきてんの!? 豚の頭なんか買ってこんといて!」。お母さんが怒ってくれたおかげで、翌日からは穴ぼこだらけの豚の頭を食べなくてすみました。健ちゃんは嬉しかったそうです。「捨てるのもったいないから、アンタ全部食べや」。お母さんに言われたお父さんは、次の日から毎日、仕事から帰ると冷蔵庫から穴ぼこだらけの豚の頭を出しては温めて、スプーンでお肉を剥がして塩を付けて食べました。豚の頭は食べるところがいっぱいあるので、中々食べ切ることができません。毎晩毎晩、温めて食べるうちに豚の頭は徐々に黒くなり、もう最後は豚の頭らしき真っ黒い塊を食べていたそうです。それが健ちゃんのクリスマスの思い出。「面白いなぁ! 俺にはこんなクリスマスの思い出はない。やっぱり芸人さんってこんな境遇で育っていないとアカンのかなぁ。何で俺の親父は豚の頭を持って帰ってこうへんねん!」。大笑いしながらも、真面目に健ちゃんの家が羨ましかったです。


東野幸治(ひがしの・こうじ) お笑い芸人・司会者。1967年、兵庫県生まれ。兵庫県立宝塚高校卒業後、『吉本興業』に入社。現在、『ワイドナショー』(フジテレビ系)・『行列のできる法律相談所』(日本テレビ系)・『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送)・『梅沢富美男と東野幸治のまんぷく農家メシ!』(NHK BSプレミアム)等にレギュラー出演中。著書に『泥の家族』(シンコーミュージック)・『この間。』(ワニブックス)。


キャプチャ  2019年3月21日号掲載
スポンサーサイト



テーマ : お笑い芸人
ジャンル : お笑い

轮廓

George Clooney

Author:George Clooney

最新文章
档案
分类
计数器
排名

FC2Blog Ranking

广告
搜索
RSS链接
链接