被害者一家を17年近くも支配し、暴力と脅迫で6000万円近くを詐取――平和な一家を滅茶苦茶にした“自称”霊能者の恐怖洗脳事件

事件は、地方紙の小さなベタ記事で報じられただけだった。しかし、それは結果的に小さく収束したことによるものであって、場合によっては数名の死者を出し、全国紙に大々的に報道されていたかもしれないほど、残酷で悲劇的な事件だった。我々の周囲でも起こりかねない霊能者乗っ取り事件。“第2の角田事件”と呼ばれるこの事件は一体、どのようなものだったのか? (取材・文/犯罪ジャーナリスト 響波速人)

20161014 06
2014年6月20日付の中日新聞尾張版に、小さな記事が載った。『金脅し取った疑い 蟹江署が2人逮捕』。記事の内容は、主犯の金子ちえみ(当時55・以下同)が共犯の女(55)と共謀し、被害者のA子さん(52)の両腕を粘着テープで縛り、金槌で背中や腰等を殴って、現金3万円を脅し取ったというものだ。何だか不可解な熱女同士のトラブルを思わせるが、その後、この事件について追従するメディアは無く、誰の記憶からも忘れられていた。ところが、公判が始まるや否や、とんでもない事件だったことが判明する。主犯の金子は“霊能者”を名乗り、被書者一家を17年近くも支配してきて、暴力と脅迫で6000万円を毟り取った挙げ句、夫とも離婚させ、最終的には本人に自殺を強要。まるで、尼崎連続変死事件の主犯格・角田美代子のような女だったのである。関係者の証言や公判記録等から明らかになった事件の経緯はこうだ。A子さんは、金子と1996年頃、長女が通う小学校のママ友として知り合った。ある日、金子に喫茶店に誘われ、自分が霊能者であることを聞かされた。「私ね、小さい頃から死んだ人が見えるのよ。でも、信してもらえず、親に精神病院に連れて行かれた。その後、私と同じような能力を持った人に出会って、自分の能力をコントロールできるようにしてもらったのよ」。A子さんとて、こんな話を直ちに信じた訳ではない。きっかけは、長女が不登校になったことだった。A子さんは「全ては自分が悪いのだ」と思い込み、カウンセリングやセミナー等に足を運び、必死に解決しようとしていたが、金子が「私は大学院卒で、教員免許もある。少年院で問題を抱えた子供の指導をしたこともある」等と出鱈目を言って、「そんなことで良くなる訳がない。私の言うことを聞かないと駄目だ」と介入してきて、その指示に従ったところ、状況が改善したことから、一目置くようになったのだ。「長女が転居先で学校へ行けるようになったお礼を、金子と主人の実家の先祖にしなければならないことを言われた。主人の親には『受け取れない』と言われたが、『子供たちが元気でいられるのはご先祖様のおかげだから、供養のお金に使って下さい』と言って、何とか受け取ってもらった。その後、金子には『自分へのお礼が足りない』『先祖より自分へのお礼が少ないのはおかしい』と言われ、結局、100万円を払った」(A子さんの公判供述)。

20161014 09
更に、金子の“弟子”を名乗る女(共犯者とは別)が現れ、金子に1回1万円、この女に1回5000円を支払っての“霊視”を行うようになった。「金子を信じるようになったのは、この弟子の存在が大きかった。『金子さんは本当にいい人。A子さんのことを凄く思っている』とか、『A子さんの為にお金を散らしてくれている』等と言われた。お金を散らすというのは、私たちの邪を祓うということ。金子がお金を使えば、私たちが助かるというのです。霊視は、金子に乗り移った霊から彼是アドバイスを受けるのですが、『自分の肉体に戻ってくるには体力がいるし、危険を伴うからお金がいる』という理屈でした」(同)。ある日、A子さんは霊にアドバイスされたことを書き留めていたノートを、娘2人に見られてしまうという“ミス”を犯した。それを知った金子は怒り狂い、「霊が怒っている。『お前を殺す』と言っている」と脅し、「あんたは邪が多いから、こんな不始末を犯す。1000万円払えば許される」等と言われた。丁度、亡くなった姑がA子さん名義で残してくれた遺産が1000万円あったので、それをそっくりそのまま金子に渡した。この出来事について、捜査関係者がこう指摘する。「A子さんは、嫁ぎ先である夫の実家が裕福だったことから、狙い撃ちされたような節がある。これで、金子が調子に乗ったのかもしれない。それ以来、A子さんは金子から立て続けに現金をせびられるようになった」。その後、A子さんは「子供の不登校が治ったら、地元に戻って来なければならない。そうしないと、貴女が寝たきりになる」とアドバイスされ、マンションを引き払って地元に戻った。そのマンションは、「私が霊能力で売れるようにしてあげる。売れたらお金ちょうだい」と言われ、諸経費を差し引いた1000万円を金子に渡すことになった。ところが、今度は転校を繰り返した弊害で、次女が不登校になった。この打開策として金子は、「大阪の劇団に入り、旅芸人になるべきだ。このままでは次女が引きこもりになる。劇団に入ったら夫婦でいる意味が無くなるので、旦那さんとは離婚すべきだ」等と提案した。当時のA子さんは、こんな荒唐無稽な忠告を受け入れてしまうほど、金子による洗脳が進んでいた。当時、夫は東京に単身赴任中だったが、いきなり離婚を切り出され、訳がわからないという感じだったという。「『娘たちの為に別れたい』と言って、私が押し切った形だった。慰謝料や養育費の話し合いについては、金子にも介入してもらった。私は、『兎に角、娘の為に金子の言うことを聞かなきゃいけない』という追い詰められた精神状態だった」(A子さん)。

20161014 08
2003年6月に離婚成立。その5日後には、娘2人を引き連れて劇団に入った。夫に財産分与として貰った1000万円は、「私がいい条件で別れさせてあげたんだから」と金子に取り上げられ、夫から養育費等が振り込まれてくる口座も金子に管理されることになった。その後、金子はA子さんの身内を名乗り、頻繁に劇団の公演先にやって来た。その理由はA子さんにもわからなかったが、事件発覚後、劇団の座長の供述により明らかになった。「彼女は、我々一座を見に来るというよりは、交際している私に会う為に、遠くから足を運んでくれているようでした。彼女は、A子さん親子に会う為に通っていたのではなく、寧ろA子さん親子のわがままに辟易していて、『もう聞きたくない』というようなことをいつも言っていました。2005年8月から彼女とのセックスが始まり、彼女が逮捕される直前の2014年5月14日まで、数え切れないほどのセックスをしました」。何のことはない。愛人に会う為の口実として、A子さん親子を利用していたのである。2011年3月、東日本大震災で公演ができなくなったことから、A子さんは劇団を辞めて地元に戻った。金子から、「うちの娘が『特別支援学校の教師になりたい』と言っている。今度は、あんたがうちの娘の為に命懸けで協力してよ」と言われていたのもあった。だが、金子の娘は2年連続で採用試験に不合格。すると金子は、「責任を取って本当に死んでよね」と激怒し、A子さんに「平成25年4月13日に死にます」という念書を書かせた。「これ以後は、聞くに耐えないような暴力が始まった。A子さんの顔面を拳で殴ったり、頭を金槌や灰皿で殴ったり、犬を興奮させて態と噛ませたり、頭を丸坊主にしたこともあった。自殺を強要していた2013年4月13日以降は、『何故死ぬ勇気が無いの? 早く死んでよ。そんなに自分が大事なの?』等と言って、腹に包丁を突き立てさせたり、絶食を命じたりした。『この家を2500万円で買い取れば許してやる』等と言って、更に500万円を脅し取り、こうした仕打ちに耐え切れなくなったA子さんが逃げ出すまで、約9ヵ月間に亘って毎日のように暴力を振るい続けていた」(捜査関係者)。

20161014 07
その直前の様子について、A子さんは公判で次のように語っている。「逃げる前日は、外の人気の無いところで殴られた。家に戻り、電話の女性相談にかけてみたら、『関係を断ちなさい』と言われた。次の日、金子の家へ行き、中へは入らず扉を開けたまま、『お金は用意できない。ごめんなさい』と言うと、金子が私を中に引き入れて鍵をかけ、『金槌を取ってくる。殺してやる』と言って奥へ入っていき、何かを後ろに隠して『殺してやる』と言ってきたので、自分で鍵を開けて逃げた。実家に戻り、もう一度女性相談に電話した。昨日とは違う人が出たが、その人にも『関係を断ちなさい。貴女は只のカモです』と言われた」。それが2013年5月末のこと。A子さんは、弟や妹が手配してくれたホテルを転々とし、暫くしてウィークリーマンションに移った。それでも、「金子が霊能力を使って、娘たちにどんな酷いことをするかわからない」と怯え、実に8ヵ月近くも警察に相談できなかったという。警察は、A子さんが500万円を脅し取られた件等を立証し、2014年5月30日、金子を恐喝や強要未遂容疑で逮捕した。「だが、金子は公判になっても起訴事実を認めず、逆にA子さんを侮辱するような発言を繰り返した。ところが、名古屋地裁で論告弁論が終了し、判決期日を指定されるや否や、それまでの発言を翻し、『全てを認めて570万円を返済する』と言い出した。だが、名古屋地裁は金子に懲役4年6ヵ月の実刑判決を言い渡した」(名古屋地裁詰め記者)。更に、A子さんは金子一家を相手取り、約1500万円の返済を求める民事訴訟を起こした。金子側は白旗を上げ、自宅を売却して、約600万円を支払う意思があることを示したが、A子さん側に和解を拒否された。「金子は控訴審で、これらの“贖罪行為”が考慮され、懲役4年に減刑されたが、『1審判決が不当に重いとは言えない。貴女が相当期間服役するのは変わりありません』と釘を刺されていた。金子は観念し、上告することなく服役した」(地元ジャーナリスト)。この事件の恐ろしいところは、金子の家の付近住民が誰ひとりとして異常に気付いていなかったということだ。「あの家の奥さんが霊能者だなんて聞いたこともありません。相暴な感じも無く、本当に“普通の人”という印象です。逮捕される2~3年前には、町内会の役員をやってもらって、子供たちの為に祭りの世話をしてもらったり、神楽太鼓の練習にも付き合ってもらいました。事件を知って近所中ビックリしましたけど、本当に何も知りませんでした」(近所の住民)。確定判決後、金子の自宅は取り壊されて更地になった。だが、滅茶苦茶にされたA子さんの人生は元に戻らない。若し、A子さんが本当に死亡していたら、金子の処遇はこれどころでは済まなかっただろう――。


キャプチャ  第20号掲載

スポンサーサイト

テーマ : 地域のニュース
ジャンル : ニュース

轮廓

George Clooney

Author:George Clooney

最新文章
档案
分类
计数器
排名

FC2Blog Ranking

广告
搜索
RSS链接
链接
QR码
QR