【中外時評】 育休延長ちょっと待った――女性の活躍に水差す懸念

働く側と企業側。其々、立ち位置が異なるからこそ、違う意見が出る。一方が強く推せば、もう一方が待ったをかける。国の審議会では長年、そんな光景が繰り返されてきた。しかし今、労使が共に慎重な姿勢で一致している論点がある。何のテーマか。育児休業の延長だ。先月から、『労働政策審議会』の分科会で議論が始まった。国からのお題は両立支援策。とりわけ、原則子供が1歳になるまで、最長で1歳半までという育休の期間をどう考えるかだ。待機児童の問題が解消せず、この間に預け先が見つからない人がいることが背景にある。「選択肢が増えるのはいいことでは?」。そう思えるかもしれないが、慎重なのには理由がある。「女性の活躍に水を差す」。そんな懸念が拭えないのだ。育児休業等の両立支援策は、1992年に導入された。何度かの見直しで内容が充実し、法定を上回る規定を設ける企業も増えた。ただ、休みが長くなるほど、復帰へのハードルは上がる。経験を積み、力を伸ばすチャンスも得難くなる。取得人数が増えるにつれ、課題も膨らんだ。早期に復帰し、それでも働き易い環境を整える。ここ数年、女性活躍の先進企業ほど、この方向に舵を切っていた。保育料の補助、在宅勤務等の柔軟な働き方…。今年4月の『女性活躍推進法』施行も追い風になった。そんな矢先の延長議論だ。前回の『育児・介護休業法』の改正は、今年3月に成立したばかり。未だ施行もされていない。「『財源が無く、保育環境が整備できない為、その結果、延長する』という話になっているのではないか?」「仕事をしたいから保育所に入れるのに、保育所に入れないから休むというのはどうか?」。今月の分科会でも、こんな意見が相次いだ。中小企業からは、「人手不足に拍車をかける」という意見も出ている。無論、育休の延長にメリットが無い訳ではない。働きたいのに保育所に入れず、止む無く退職していた人には大きな助けとなる。

待機児童がいる自治体は、全国の2割ほどだ。多くの地域では、現状の制度の中で復帰できている。保育サービスを増やそうと、今年度から企業による事業所内保育の運営への新たな助成も始まった。こうした状況も考慮する必要がある。審議会は延長についての意見を年内に纏める予定だ。育休の取得率は、女性は8割を超えているのに対し、男性の取得率は2.65%だ。この状況にメスを入れないまま延長だけが進めば、デメリットは女性に偏ってしまう。分科会の委員である法政大学の武石恵美子教授は、「活躍の機運が盛り上がったのにブレーキを踏むことになる。止む無く延長するなら、育休の一部を男性に割り当てる等、男性の取得を促す仕組みを考える必要がある」と話す。一方で自治体からは、「保育所に入れなかった時に限らず、希望すれば全員が長く休めるようにすべきだ」との声が根強くある。厚生労働省が4月と9月に待機児童解消の為に開いた会議でも、早くから預けずに済むよう育休の取得促進と期間延長を求める意見が複数出た。背景の1つがコスト論だ。低年齢の子供の保育には人手がかかる。育休中の親には雇用保険から給付金が出るが、保育のコストに比べれば給付金のほうが少なくて済む。短期的にはそうだろう。ただ、長期の育休で女性がキャリアを積む機会が減ってしまえば、本人の将来に響くだけでなく、社会全体で女性の活躍が進み難くなる可能性がある。幅広い検討が必要だ。仮に育休を延ばしたとしても、育児はその期間だけでは終わらない。大事なのは、硬直的な長時間労働を見直し、柔軟な働き方を広めることだ。これは政府が今、『働き方改革実現会議』で取り組もうとしている課題でもある。育休の延長は、対象者が少ない。ある意味、手を付け易い課題だ。働き方改革は多くの働き手に関わり、容易ではない。育休だけが先行することは、女性の活躍の為の解決すべき本質的な課題を見え難くしてしまう可能性がある。少子高齢化が進む日本は、女性の力を生かさなければ立ち行かない。その為に、どんな対策が必要なのか。各省庁に跨る施策全体を見回して、方向性を示すことは、2013年に“女性活躍”を掲げて働く女性の後押しを約束した首相の役割だろう。 (論説委員 辻本浩子)


⦿日本経済新聞 2016年10月16日付掲載⦿
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