【Global Economy】(07) 訪日中国人、目的は“食・遊・泊”…消えた炊飯器、爆買い異変

日本を訪れる中国人観光客の“爆買い”が失速しつつある。値段など気にしないかのような驚きの行動は、消費低迷に苦しむ日本の小売業界には“恵みの雨”となってきた。沸点から突如、冷却に転じたかに見える異変の背景に何があるのか。中国から報告する。 (本紙中国駐在編集委員 杉山祐之)

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“爆買”――。この妙な和製中国語は、北京でも通じる。今や、日本での買い物は中国の普通の人々の楽しみになった。20世紀初頭以来、日本製品ボイコットが“正義”と見做されがちだった中国では、歴史的な社会現象と言ってもいい。ただ、北京等の空港の到着ロビーに溢れていた高価な炊飯器や温水洗浄便座を誇らしげに持つ人は、最近あまり見かけなくった。日本帰りの客のトランクには、より手軽な化粧品や日用品が詰め込まれている。日本の観光庁によると、昨年、中国人訪日客1日当たりの旅行支出は、前年比23%増の28万円強だった。だが、今年1~3月期は同12%減の26万円台に。4~6月は23%も減り、22万円を割った。国内百貨店の免税品の売り上げも、8月まで5ヵ月連続で前年割れ。急降下である。炊飯器や便座は、何故消えたのか。中国の中堅旅行社幹部は、「円高と当局の制限が原因」と即答した。昨夏、1人民元は19~20円程度だった。今夏は15~16円ほど。約2割も目減りした。“日本の本物を安く”という圧倒的な割安感は消え、高額商品は敬遠されがちになった。また、中国当局は今年、国内航空会社に、機内持ち込み手荷物数を2個に厳しく制限するよう指示。嵩張る家電を買う人が急減したという。中国政府が4月に実施した海外購入商品に対する関税引き上げも影響したようだ。「日本から帰って税関を通る時、『トランクを開けられるのでは?』と、とても緊張した」と30代女性。買った商品を全て税関に申告していない人も少なくないとみられる為、爆買いは帰国時の不安の種になり、検査が厳しい空港の口コミ情報が広がる。「南シナ海の仲裁裁判で中日関係が拗れた後、爆買い層である当局者とその親族の訪日キャンセルが続出した」との話もある。

中国政府は目立たぬよう、爆買いの蛇口を閉めている。背景には、出口の見えない経済減速がある。習近平国家主席が旗を振る経済構造改革は、中国共産党独裁体制に関わる社会の安定への配慮から、立ち往生している。急激な人件費向上で“世界の工場”の地位が揺らぐ中、次の成長産業も見えない。鉄道整備を始めとする大型土木事業や、不動産市況の政策的誘導等で何とか成長を保っているように見える。“中国国内の消費”。習政権の期待は、この1点に集まる。しかし国民は、自国製品の品質や、偽物が溢れる国内流通をまるで信用していない。爆買いが勢いを失う中、日本の関係業界が期待するのが、インターネットを通じて商品を売る“越境EC(電子商取引)”だ。日本に行かずとも、“本物の日本製品”を欲しがる中国人は多い。経済産業省によると、昨年、中国の消費者がインターネット通販で日本から購入した額は、前年比31%増の7956億円に上る。「娘に、『成績が上がればまた日本に行く』と約束した。次は北海道だ」。今夏、『東京ディズニーランド』を満喫した40代会社員は言う。日本ツアー料金は、航空便なら6000元(約9万5000円)台が多い。クルーズ船なら3000元(約4万7000円)台もある。北京の月平均給与は7000元超。富裕層でなくても無理無く行ける。「日本はいいぞ」の口コミはスマートフォンで爆発的に広がっており、日本に行きたい人は増え続ける。旅行客増と1人当たりの支出額減は、決して矛盾しない。彼らの多くは、日本そのものを楽しみ、欲しいものを適量買うという、ある意味で成熟した旅を好む。個人旅行も人気だ。中国観光研究院の『2016年上半期海外旅行者報告』にある一文が興味深い。「以前は『車で眠り、降りて写真を撮り、店に入れば、買って買って買いまくる』だった。今は、食べる、遊ぶ、泊まる、土地の生活体験にお金を使いたがる」。中国政府の対策とは別に、長い目で見れば、爆買いの沈静化は必然的な流れなのかもしれない。ただ、中国人旅行者の潜在力は巨大だ。日本にとって、彼らを成長に取り込む努力は今後も必要だろう。経済効果だけではない。中国共産党の“反日”プロパガンダが描く日本とは全く違う、本当の日本の姿を多くの中国人が直接目にすることは、日中関係、東アジアの安定にとっても計り知れないメリットがある。

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■世界中へ1億人超、「日本へ」僅か4%
中国人の訪日客数は、円安や日本政府のビザ発給要件緩和等により、2014年から急増し、昨年には499万人に達した。今年1~8月も、前年比34%増の約448万人が日本を訪れた。数知れぬ中国人が、日本目がけて殺到し始めたかのような印象を持つ日本人も多いかもしれない。だが、中国人旅行者は日本だけでなく、世界中に溢れ出している。中国が日本を抜いて世界第2の経済大国になった2010年、中国人海外旅行者数は約5700万人だった。5年後の昨年、それが約1億2000万人に膨らんだ。同年の訪日客数は、全体の4%強に過ぎない計算だ。最も身近な香港・タイを始めとする東南アジアのリゾート地や、日本より手軽な韓国等には、日本以上の中国人客が押し寄せる。ニューヨークやパリも中国人で賑わう。爆買いも、世界共通の現象だ。『世界旅行ツーリズム協議会』によると、中国人海外旅行者の消費総額は、2010年の約390億ドル(約4兆円)から、昨年には約2150億ドル(約22兆1000億円)に跳ね上がった。一部にマナーの問題等があっても、各国とも中国人客の呼び込みに懸命だ。大国路線を進める習近平政権にとって、海外旅行者の急増は、チャイナパワーを世界に誇示する政治的な宣伝材料でもある。相手国の経済に対する影響力も強まる。「海外旅行者数は2020年までに5億人超」――。習主席が2年前に示した強気の見通しだ。だが、これから先も急増傾向が続くかどうか。決して楽観できない。現在の経済減速が一層深刻化すれば、爆買いだけでなく、中国人の海外旅行全体にブレーキがかかる可能性も大きくなってくる。


⦿読売新聞 2016年10月14日付掲載⦿

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