相模原障害者施設殺傷事件で浮かび上がった裏社会の暗い影――“神のお告げ”を乱用していた植松聖容疑者、人命よりも経済を優先する日本社会の闇

誰もが唖然とした神奈川県相模原市の障がい者施設大量殺人事件。その常軌を逸した史上最悪の大量殺人事件の原因について、学者や識者たちがしたり顔で語っているが、実際問題、この事件の背景には裏社会やドラッグの暗い影が浮かび上がる。この手の犯罪は無くならないのか。事件の背景に迫った。 (取材・文/フリージャーナリスト 片岡亮)

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「まるで、現代の日本社会の写し鏡という感じがする。だとしたら、これで終わらない可能性もあるんじゃないか」――。神奈川県相模原市の障がい者施設で起きた大量殺傷事件を捜査中の神奈川県警関係者は、筆者の取材に対してそう漏らした。この事件を解明していく上で浮かび上がった複数のキーワードが、最近の日本社会に蔓延しているネガティブな傾向に通じるものがあるという。「容疑者は刺青を入れて大麻を吸い、暴力の為に格闘技も習っていた不良男と伝えられている一方で、インターネット上に並ぶ幼稚な意見に感化されて、ヒトラーに興味を持ち、自分を“救世主”のように思い込む、今時の引きこもり男みたいな部分もあった。仕事面で見れば、若いうちに人生設計が崩れて、安い給料の割にハードな介護仕事の世界で行き詰まって生活保護を受ける…という格差社会の落ちこぼれのようでもある。更に容疑者は、今年2月に精神疾患で入院しているから、これら色々な要素のどこかに共通するものを持つ人々も沢山いるだろう。突然変異のように現れた殺人鬼のようだが、実は、身近に幾らでもいるような若者かもしれない。そうすると、似たような第2・第3の犯行が続々と起こっても何ら不思議じゃない」(同)。実際、事件の3日後、横浜市の障がい者施設に「破壊する」との予告メールを送った無職の男が、威力業務妨害容疑で逮捕されているほどだ。今回の事件については、識者顔のテレビコメンテーターたちも「理解できませんねぇ」「何故防げなかったのでしょうか」といった素人同然の煮え切らない発言をしていた。一部は“障がい者への激しい憎悪”を指摘していたが、「障がい者を殺しているのだから、それは当たり前の話であり、分析にはなっていない」と心理カウンセラーの野村高一氏は指摘する。

「想像を絶する事件なので判断ができないのだと思いますが、抑々、犯罪心理に精通していない人がコメントしているので、当たり障りの無い話しか並ばないんです。例えば、『自分より弱い障がい者を狙うなんて酷い』と繰り返すコメンテーターもいましたが、それだったら『強い者なら殺してもいい』という話になってしまう。こういう人は、殺人事件について深く考えたことがないのでしょう。今回の凶行は、戦後最大の大量殺人とあって、その人数・規模が強調されていますが、抵抗しない就寝中の相手という状況からそうなったものであって、たとえ相手が2~3人であっても、犯行への心理は大差無かった筈。例えば、1人の障がい者を殺した段階で取り押さえられて捕まっていたら、ここまでの大騒ぎにはなっていません。それでも、犯行への心理的経緯は同じな訳です。重要なのは、その犯行状況や障がい者をターゲットにしたこと以上に、『何故、この若者が殺人をするに至ったのか?』ですよね」(同)。事件は先月26日の深役2時過ぎ、神奈川県相模原市にある障がい者施設『津久井やまゆり園』で起こった。県保健福祉局が1965年に設立し、2005年度から規制緩和で民営化。社会福祉法人が受託運営していた知的障がい者施設である。入所定員は長期150名。職員は先月時点で、非常勤を含み164名となっていた。業務は、障がい者の食事や入浴等を介助する施設入所と、軽作業等といった日常生活の支援をする生活介護があるが、入所者の大部分は、重度の知的障がい者である支援区分6に該当。犯行のあった夜は、全8ユニットに分かれた入所者を、職員が各1名ずつ成動担当していた。その夜、県警に「刃物を持った男が暴れている」との通報があった。警察官らが現場に駆け付けると、19人が死亡、26人の負傷者が発見された。死亡したのは何れも入所者で、19~70歳の男女が半々。負傷者には職員2名も含まれていた。50台近くの救急車が出動し、6ヵ所の病院に分けて搬送するほどの大惨事となった。そして午前3時過ぎ、津久井警察署に同施設の元職員・植松聖容疑者(26)が出頭し、殺人未遂と建造物侵入の容疑で緊急逮捕された。これまでの調べによると、植松容疑者は、同施設の正門から100mほど離れた路上に黒い車を駐車。凶器や道具の入った袋を持ち出して、当時157人が就寝中だった入居者の居住する棟に向かい、ハンマーで窓ガラスを割って侵入した。屋内を移動しながら、1室1室のドアを開け、寝ている入所者の首や胸を次々と刺していき、植松容疑者の姿に気付いて制止しようとした施設職員を殴り、うち5名を結束バンドで縛り上げた。職員の1人を刃物で脅しながら部屋を連れ回し、入所者の障がいの程度が重いかどうかを聞いた上で、犯行に及んでいたという。犯行後、植松容疑者は現場を離れ、警察に出頭するまでの間、自身のツイッターに「世界が平和になりますように。beautiful Japan!!!!!!」等と呟いていた。

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植松容疑者は今から20年ほど前、同施設から約500m離れた2階建ての一戸建て住宅に、両親と共に移り住んだ。父親は都内小学校の図画工作の教論で、母親はホラー漫画家。少年時代に大きな問題があったような話は聞こえておらず、近隣住民の評判も悪くない。ある人は、「草毟りを手伝ってくれた礼儀正しい好青年」と評するほどだ。しかし、大学生時代に刺青を入れる等変化が見られ、約4年ほど前、自動販売機に飲料を補充して回る仕事に就いていたが、友人らに「給料が安い」「上司がむかつく」等と漏らし、僅か半年で退職してしまったという。その後、家庭内でトラブルがあった様子で、大きな物音が近所に鳴り響き、両親だけが転居。独り暮らしになった自宅には、友人と見られる若者たちが入り浸るようになり、刺青を露出した半裸でうろつく姿も目撃されるようになっていた。高校時代の友人男性によると、「高校の頃は普通に明るい奴だったのに、大学3年生ぐらいの時に再会したらヤンキーみたいになっていて、不良っぽい連中と一緒に行動していた。如何にも駄目になった感じで関わるのを止めた」という。この事件を追ったフリーライターのハイセーヤスダ氏によると、「『生活が荒れた』という証言があった丁度その頃、1つ年下の風俗嬢の交際相手がいたことがわかっている」という。「その女性が大麻の常習者で、背中や足に蝶等の刺青があったとか。植松容疑者は、彼女の影響で大麻と刺青をやったのかもしれない」(同)。2012年秋、2つ目の就職先として『津久井やまゆり園』で働き始めた。労働意欲はあったという。しかし、日本の介護職は、職員が原則公務員であるイギリス等とは違い、条件の悪さから応募者が極端に少ないことで知られる。その為、慢性的な人手不足に陥り、若い男性なら即採用という施設も多く、植松容疑者が参加した就職説明会でも、施設側は「希望者は今直ぐ働いてほしい」という姿勢だったことが判明している。

同じ頃に植松容疑者と半年間ほど一緒に働いていたという元職員の男性も、「同時期に面接を受けた希望者は、全員採用という感じだった」と話す。「植松さんは真面目に入所者の世話をしていて、特におかしな感じは無かったです。『この給料では割に合わないっすよね』みたいなことは言っていましたが、それは職員皆が言っていること。会話の通じない入所者に噛みつかれたりすることもある厳しい職場ですが、正規職員も少ない上、職員同士で助け合う連帯感も生まれ難く、かなりストレスが溜まります。私自身もノイローゼになりそうだったので、長く続かずに退職したんです」(同)。事実、介護現場では職員による入所者への傷害・暴力事件等が相次ぎ、一部では殺人事件まで起こっている。同施設の勤務時間は、朝7~10時・13~19時等のシフト制で、時給は970~1070円だったが、植松容疑者は主に夜勤で、こちらの基本時給は神奈川県の夜勤の最低賃金である905円だった。ハードワークなのに、職員の待遇は最低ラインに近かったと言える。そんな中、大きな異変があったのが今年2月。衆議院議長公邸を訪れ、衆議院議長の大島理森氏に宛てた手紙を職員に手渡していたのだ。その中身は、具体的な犯行手口を示す予告文となっていた。「私は障害者総勢470名を抹殺することができます。常軌を逸する発言であることは重々理解しております。しかし、保護者の疲れきった表情、施設で働いている職員の生気の欠けた瞳(を見る度に)、日本国と世界の為と思い、居ても立っても居られずに本日行動に移した次第であります」「私の目標は重複障害者の方が家庭内での生活、及び社会的活動が極めて困難な場合、保護者の同意を得て安楽死できる世界です」「戦争で未来ある人間が殺されるのはとても悲しく、多くの憎しみを生みますが、障害者を殺すことは不幸を最大まで抑えることができます。今こそ革命を行い、全人類の為に必要不可欠である辛い決断をする時だと考えます」「私は大量殺人をしたいという狂気に満ちた発想で今回の作戦を、提案を上げる訳ではありません。全人類が心の隅に隠した想いを声に出し、実行する決意を持って行動しました」。介護職をしながら、それに疑問を持ち、軈て「障害者を無くすことが合理的だ」という考えに取りつかれていることがわかる。「でも、植松容疑者に欠けていたのは、『こういうことを言えば頭がおかしいと思われる』という客観視点がまるで無いこと」(前出の野村氏)。

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確かに、手紙の中で植松容疑者は、こんなことも書いている。「外見はとても大切なことに気づき、容姿に自信が無い為、美容整形を行います。進化の先にある大きい瞳、小さい顔、宇宙人が代表するイメージ。それらを実現しております。私はUFOを2回見たことがあります。未来人なのかも知れません」「精神薬を服用する人は確実に頭がマイナス思考になり、人生に絶望しております。心を壊す毒に頼らずに、地球の奇跡が生んだ大麻の力は必要不可欠だと考えます」。整形と宇宙人を結び付ける話や、大麻を肯定するような主題と全く無関係な内容を書いているのは、野村氏に言わせれば「落ち着きが無い挙動不審者にありがちな言動」だというが、犯行予告では「260名を殺す」と宣言していたのだ。「職員の少ない夜勤に決行致します。重複障害者が多く在籍している2つの園(※具体名を併記)を標的とします。見守り職員は結束バンドで身動き、外部との連絡をとれなくします。職員は絶対に傷つけず、速やかに作戦を実行します。2つの園260名を抹殺した後は自首します。作戦を実行するに私からはいくつかのご要望がございます。逮捕後の監禁は最長で2年までとし、その後は自由な人生を送らせて下さい。心神喪失による無罪。新しい名前(××××)、本籍、運転免許証等の生活に必要な書類、美容整形による一般社会への擬態。金銭的支援5億円。これらを確約して頂ければと考えております。ご決断頂ければ、いつでも作戦を実行致します。日本国と世界平和の為に何卒よろしくお願い致します」。A4サイズのリポート用紙に何枚もビッシリと書かれており、正気を失っているのでなければ余程幼稚な悪戯にしか見えないが、数日後、この件が施設に連絡され、問われた植松容疑者は悪びれることなく、「重度の障がい者は安楽死させたほうがいい」と発言。津久井署から「他人を傷付ける恐れがある」と判断され、精神保健福祉法に基づき、退職とほぼ同時に措置入院となった。その際、尿から大麻の陽性反応が出て、妄想性障がい・薬物性精神病性障がい等と診断されたが、担当医は入院から約2週間後の3月2日、「他人に危害を加える恐れが無くなった」として退院させてしまった。

この経緯が伝わった事件直後、ある報道番組のプロデューサーは番組スタッフらに、「容疑者の報道は慎重に」と伝えていた。植松容疑者に精神疾患の疑いが出ていたからだ。局のガイドラインでは、心神喪失者の事件は匿名報道が原則。その切り替えは、裁判で心神喪失だったと認定されてからというのが通例だが、あまり極端に容疑者を批判し過ぎると、後で心神喪失による罪の軽減等があった場合、報道の法的責任を負わされかねないからだ。「植松容疑者は事件前、クリスチャンでもないのに“神のお告げ”って言葉を乱用していたそうです。真面な精神状態ではない可能性も考えておかないといけない」と同プロデューサーは話す。心神喪失者の犯罪では、児童ら8人が殺害された2001年6月の大阪・池田小事件をきっかけに、『心神喪失者医療観察法』が成立。重大事件を起こした心神喪失者が無罪や不起訴となった場合、強制的な入院や治療を行うことになった。ただ、前出の野村氏によると、「日常生活ができているなら一定のIQがあるので、免責されるようなことは先ず無いと見ていい」という。「精神異常で片付ければ楽な部分はありますが、精神的にではなく性格的に異常をきたしたと見るほうが妥当な印象です。性格の歪みは、自分の思い通りにならないことを解決できないでいると、大きくなります。植松容疑者の場合、人生設計が上手くいかずに荒れていたことにも合致しますし、刺青や整形はどうにもならない自分を変えたい変身願望です。介護職に理不尽さを感じても、自分の力じゃ何も変えられない無力感も原因と思えます。こういうのは親しい家族や友人によって修正されることが可能ですが、彼の場合は両親や友人から見放されており、社会的な孤立をしています。麻薬の常用で、本来の自分からどんどん遠ざかっていくことを自覚できなかったという可能性もあります。インターネット上で皆が手軽に自己主張できるようになって、幼稚な思想が彼方此方に並んで、自分がおかしいことにより気付き難いのが現代社会。植松容疑者が持つ犯行動機の断片は、多くの人が抱える社会的な病巣と一致します。似たような形で病んでいる人々が沢山いると考えられます」(前出の報道プロデューサー)。そのせいか、インターネット上では植松容疑者をヒーロー視する声が後を絶たない。冒頭の神奈川県警関係者によると、「いつ植松さんに面会できますか?」という問い合わせが殺到しているというのだ。中には、「労いの言葉をかけたい」だの、「応援しているので差し入れをしたい」だのといったことを述べる者もいたという。

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事実、ツイッター上では「よくやった」みたいな信じ難い呟きが散見できる。「遺族は自分で面倒見きれず、金を払って施設に押し付けてたんだから、殺してくれた植松に感謝すべき」「人に危害を加える重度障がい者に人権なんて与えなくていい。犯人はよくやったと思う」「植松はぶっちゃけ、障がい者という税金食い潰すだけのやつらを殺処分した英雄」――。まるで、植松容疑者の手紙にもありそうな文言そのまま。如何にも匿名で無責任に書く幼稚なインターネット言動とも言えるが、こういう短絡的な思考は、現実社会で言えば目を背けられるもの。ところが、インターネット上では寧ろ持て囃されることもあり、異常者を生み易くなっている。インターネット上では、「刺青をしている奴は人間のクズ」とか、「ポケモンGOしている奴は例外なくアホ」とかいう発言が矢鱈と多い。これは、確定申告について「自分でやってるやつ馬鹿だよね」という堀江貴文や、携帯ゲームの『ポケモンGO』について「こんなことに打ち興じてる人を心の底から侮蔑します」という漫画家のやくみつるみたいに、ワンサイドで他者を侮辱する著名人の言動を真に受けて生まれた傾向でもあるのだろう。何れにせよ、「障がい者の世話は大変、安い賃金で人任せにしている、だったら殺せばいい」という理屈を賢いと思える思考力の低さには驚くばかりだが、それを「愚かだ」と指摘されない世界では、人々が第2・第3の植松聖と化してもおかしくはないと言える。「障がい者を大量虐殺することが日本の為になる」という身勝手な主張をしていた植松容疑者だが、その裏にあるのは「人命よりも経済的な価値を優先させる」という考え方で、これは今の日本社会の中に溢れる経済優先の風潮と重なる。これは若しかすると、「一度、人を殺してみたかった」とか「社会に恨みがあった」といって殺人衝動に駆られた、屈折した異常犯罪者よりも怖いことかもしれない。前述の著名人に倣えば、「確定申告を自分でやっている馬鹿を殺そう」「ポケモンGOに興じてる奴らを抹殺しよう」という犯人が出てきてもおかしくはないからだ。「本事件は、介護業・麻藥・生活保護・格差社会・インターネットの病巣等、日本社会の負の側面を映している」という捜査関係者の言葉は、この国の未来に待ち受けている恐怖を暗示しているかのようでもある――。


キャプチャ  2016年10月号掲載

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