【地方銀行のリアル】(26) 西武信用金庫(東京都)――業績拡大の裏で暴力団とべったり


時は、今から凡そ4年半前の2014年11月21日に遡る。中野区にある『西武信用金庫』本店の8階会議室。ここで午後3時から、ある会合が開かれていた。西武信金の全額出資で2003年に設立されたベンチャーキャピタル子会社『西武しんきんキャピタル』が主催する成長企業セミナーで、この日のテーマは“企業を取り巻く不正と犯罪 反社会的勢力への対応”。反社会的勢力への予防対策は、未上場の中小企業でも重要な経営課題だとして、取引先の企業経営者らに暴力団との関係遮断、不当な要求の拒絶、内部管理態勢の強化を促すものだった。それなのに、対策の重要性を訴えた当の西武信金自身が、実は反社会的勢力と懇ろな関係に陥り、暴力団組織に連なる企業に融資する等便宜供与を重ねていたというのだから恐れ入る。「振り込め詐欺の犯人が、その被害者に“傾向と対策”を講釈するようなもの。洒落にもならない」。セミナー開催に協力した監査法人幹部の一人も、こう呆れ返る。信金大手の一角である西武信金に、反社会的勢力との不正取引疑惑が浮上している。昨年秋からの金融庁の立ち入り検査で、暴力団等と関わりのある企業への融資が複数見つかったのだ。関係者によると、中には暴力団構成員らによって設立されたペーパーカンパニーとみられる企業への、数年分に亘る多額の融資も含まれているという。そればかりではない。常務理事クラスが主導する形で、問題のある取引先に飲食接待を繰り返していたことも明るみに出ている。都心の繁華街で、指定暴力団や在日中国人らによる準暴力団関係者らを頻繁に接待。しかも、料金の支払いには堂々と西武信金名義の法人用クレジットカードが使われていたというから驚く。
事実とすれば、“組織ぐるみ”と断定されても最早、申し開きのしようがあるまい。事情通によると、この常務理事は融資審査にも深く介入。審査部門がデータベースと突合して、“反社会的勢力向け融資”と認定した与信判断に口を挟み、無理矢理審査をパスさせたり、融資を続行させたりしていたという。だとしたら、接待の見返りに暴力団関係者から何らかの対価を受け取っていたのか、それとも何か弱みを握られて裏取引を強要されていたのか――。何れにしても、これら一連の融資が暴力団等の活動資金として闇の勢力に流れたのは「ほぼ確実」(金融庁筋)。仮に自身が関与していなかったにしても、問題を放置し、見逃してきたトップの責任は重く、信金業界関係者からは早くも「落合寛司理事長の辞任は不可避」との声が飛ぶ。それにしても、西武信金は何故、反社会的勢力との取引に手を染めていったのか? 背景にあるとされるのが、落合の下で進められた都心部への出店攻勢と、「無謀」(西武信金OB幹部)とも言える程の融資拡大路線だ。西武信金の従来の店舗配置は、本店のある中野区の他、新宿区・渋谷区・杉並区等に偏在していた。それを落合理事長就任翌年の2011年に千代田区神田に初出店すると、2014年には港区虎ノ門に同じく初出店。更に、2015年には中央区日本橋、2016年には世田谷区三軒茶屋、2017年には品川区五反田に何れも初めて進出する等、次々とウイングを広げていったのだ。しかも、こうした店舗の大半は路面店ではなく、雑居ビル等の2階以上にオフィスを構える、所謂“空中店舗”。預金や保険等の金融商品販売よりも、ひたすら融資獲得を狙ったものに他ならない。そして、融資拡大の標的に据えたのが、“スルガ銀行張り”の投資用不動産向け融資だ。西武信金の昨年9月末時点の単体貸出金残高は1兆7252億円。「(就任来)8年間で倍近くに増やした」というのが落合の自慢で、“貸出金は売上高”というのがその持論だが、増えた融資の殆どが不動産関連融資だ。中でも、ここ3~4年の伸びは、まさに“凄まじい”の一語に尽きる。2015年3月期末に残高4823億円だった不動産・不動産賃貸向け融資は、2016年3月期末には5841億円と、1年間で21%も増加。翌期以降も更に伸びは加速し、2017年3月期末7309億円、2018年3月期末9246億円と、2期連続で年率25%を超える躍進ぶりだ。「怪進撃」(金融筋)は2019年3月期に入っても止まらない。『スルガ銀行』事件が火を噴いた昨春以降も野心的に融資を積み増し、2018年9月末には9868億円と、遂に1兆円に迫る水準にまで膨張。総貸出残高に占める不動産関連融資の比率は、信金業界平均が23%前後となっている中、57%超(※昨年3月末55%強)にも跳ね上がった。前出の事情通によると、西武信金では新築向けだけでなく、通常なら融資がつけられないような中古物件の取得に対しても、積極的に長期資金を提供。時には耐用年数が20年しかないような物件に、返済期間30年のローンをつけるといった出鱈目なやり口を使ってまで、融資拡大に血道を上げてきたらしい。融資実行20年後には、オーナーは家賃収入がなくなって返済不能に陥る可能性が強く、高い確率でローンが不良債権化するリスクが潜んでいるにも拘わらず、只々目先の“売上高”を追うことに躍起になってきたわけだ。

確かに、貸せない相手にも融資を押し込んで残高を膨らませていけば、当面の利益は上がる。2018年3月期の西武信金のコア業務純益は144億円と、前期比4割近く増えて過去最高を更新。2019年3月期も、4~9月までで84億円を計上し、2年連続最高記録を塗り替える勢いだ。だが、こうした身の丈を超える急速な業容拡大や、無理に無理を重ねた融資の積み上げは、内部に歪みを生み、そこに暴力団等反社会的勢力がつけ入る隙を生じさせる。「恐らく、権利関係が複雑に絡み合った物件に強引に融資をねじ込もうと、その筋にお願いして解きほぐしてもらったこと等が端緒となって、暴力団との腐れ縁が始まったのでは」。地銀関係者の一人もこう睨む。西武信金は、『野方信用組合』を母体とする『協立信用金庫』と、『福生町信用組合』が母体の『武陽信用金庫』が1969年に合併して誕生した。2002年には『渋谷信用金庫』と『東邦信用金庫』の合併で発足した『平成信用金庫』を吸収合併。東京都内の他、埼玉県と神奈川県にも各2店舗を持ち、計74店舗を展開する。信金各庫は、集めた預金を全額自力で運用する能力に欠ける。この為、預貸率は平均50%に止まる中、西武信金は83.5%と群を抜く。見かけの収益力の高さとも相俟って、これを絶賛していたのが金融庁前長官の森信親だ。“信金の雄”等と持て囃し、理事長の落合は“信金界の麒麟児”等とも呼ばれて悦に入っていた。だが、“地銀の優等生”ことスルガ銀行が高転びに転んだのに続いて、“信金の雄”も今また、化けの皮が剥がされようとしている。メガバンク関係者の間からは、「不正の規模と広がり次第では、トップの辞任くらいでは済まされず、解体的出直しを迫られる可能性もある」との観測が頻りだ。 《敬称略》

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