【「佳く生きる」為の処方箋】(24) 心臓も年を取る

どんなに精巧な機械でも、長年使い続けていると金属疲労で部品がポキッと折れたり、螺子が緩んだりしてガタがきます。“経年劣化”と呼ばれる現象です。実は、同じようなことが心臓でも起こります。心臓は平均的な成人の場合、1分間に約60~90回、1日にすると約10万回も収縮と拡張を繰り返し、全身に血液を送り出しています。個人差はありますが、健康な人でも70~80歳になると、心臓に何らかの経年劣化が生じてきます。人生50年の時代なら、劣化に気付かず天寿を全うできたでしょうが、長寿の時代はそうもいきません。心臓の経年劣化は、まさに長寿故の現代的な問題と言えます。では、どんな劣化が生じるのか。代表的なのは動脈硬化です。心臓の表面を覆う冠動脈や全身に血液を送る大動脈では、絶えず血液が流れていますから、血管壁にコレステロールや老廃物が溜まり易い。この為、血管の内側が狭くなり、狭心症や心筋梗塞に繋がります。また、心臓には血液の逆流を防ぐ為、大動脈弁や僧帽弁などの“弁”があり、開閉を繰り返しています。この弁も動脈硬化によって硬くなったり、狭くなったりします。この結果起こるのが、“大動脈弁狭窄症”等の心臓弁膜症です。動脈硬化は謂わば“じわじわ型”の経年劣化ですが、これとは違って、激しい症状がいきなり出現する“不意打ち型”の経年劣化もあります。走行中の車のボルトが突然破断して車輪が脱落し、大事故に至るようなものです。下手をすると突然死に繋がりますから、非常に厄介です。例えば、心臓弁膜症の1つに“僧帽弁閉鎖不全症”があります。左心房から左心室への入り口にある僧帽弁がきちんと閉じなくなる為、血液の逆流や漏れが生じる病気です。

原因は色々ありますが、中でも怖いのが“腱索”の断裂です。僧帽弁には、弁を支えるパラシュートの“紐”のような腱索が何本も付いているのですが、これが経年劣化で弱くなり、ある時突然、ぶちっと切れてしまう。何年も運動らしい運動をしていなかった人が、急にスポーツをしてアキレス腱を切った等という話を聞きますが、それと同じような ことが心臓の中でも起こる訳です。これにより、急性心不全等が生じ、突然死に至ることもあるのです。では、このような経年劣化に対してどんな手立てがあるのか。答えは、金属疲労の仕組みを考えると明白です。例えば、大きな外力がかかったり、急激な温度変化に曝されたりすると、普通なら未だ折れないようなものでもポキッと折れてしまうことがあります。心臓も同じ。心臓の場合、外力に相当するのは“血圧”ですから、急に上昇したり、高いまま放置したりしていると経年劣化が早まり、不意打ちの変調を招いてしまいます。ですから、先ずは血圧をしっかり管理することが肝要。動脈硬化を悪化させないように、コレステロールを抑えることも重要です。また、経年劣化は自己点検もできます。その方法が“運動”です。例えば、以前は平気でゴルフをしていたのに、最近はどうも息が切れるという場合は、経年劣化がかなり進んでいる証拠。或いは、そこまでいかなくても「ちょっと負担に感じる」とか、「何となく気分が乗らない」というのも、実は経年劣化のサインの可能性があります。本人も気付かないような体調の変化が、そういった言葉の中に隠れていることがあるのです。「一休みしたら良くなった」や「水を1杯飲んだら落ち着いた」も、よく聞く言葉です。こうした言葉が口から出るようになったら要注意です。


天野篤(あまの・あつし) 心臓外科医・『順天堂医院』院長。1955年、埼玉県生まれ。日本大学医学部卒。『亀田総合病院』『新東京病院』等を経て、2002年に順天堂大学医学部心臓血管外科教授に就任。2012年2月18日に天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀。2016年4月より現職。著書に『一途一心、命をつなぐ』(飛鳥新社)・『この道を生きる、心臓外科ひとすじ』(NHK出版新書)等。


キャプチャ  2016年10月27日号掲載
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