『ポケモンGO』に各寺院はどう対処すべきか、問題はあるか――ユーザーの来山を歓迎するか立入禁止にするか、どちらがお寺によいか心積もりを

この夏、列島を騒がせた『ポケモンGO』。交通事故や歩きスマホの問題からネガティブな印象を持つ住職も多いだろうが、観光振興に利用する案も出ている。で、このゲームはお寺にとっていいものなのか、悪いものなのか。宗門の対応と各寺院の取った対応からわかる問題点とは何か。

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7月22日の本邦配信から連日報道が絶えない『ポケモンGO』。当初の熱狂ぶりは一段落したが、スマートフォン片手に夜な夜な出歩くポケモントレーナー(ユーザー)は少なくない。配信直後は、「交通事故を誘発する」として問題視された。警視庁は先月3日、配信開始からの12日間だけで、“ポケモンGOに夢中になっていたことが原因”の交通違反等の摘発件数が727件に上ったと発表。大半は脇見運転で、摘発とは別に人身事故が15件発生。同23日には遂に死亡事故が起きた。一方で、ポジティブな報道もある。鳥取砂丘をポケモンGOが自由に遊べる“解放区”に指定し、観光資源化を見込んだ鳥取県を始め、地震で被災した岩手県・宮城県・福島県・熊本県が、ポケモンGOを配信するアメリカの『ナイアンティック』と連携し、観光振興にこれを利用しようと動き出しているのだ。宗教界で逸早く、ポケモンGO“禁止”の声明を出した出雲大社も、耳目を集めた。参拝者の多い奈良県生駒郡斑鳩町の聖徳宗総本山法隆寺も、禁止の張り紙を掲示。同寺担当者は、「信仰の場なので、ゲームの対象としてほしくない」と話す。また、愛媛県松山市の日蓮正宗妙源寺の安沢淳栄住職も、「配信日に10名ほどの婦人が境内でゲームをしていたので、その日のうちに門前に禁止の掲示を出しました」という。しかし、両寺とも「特に問題は起きていない」とも話す。それで一体、『ポケモンGO』って何なのか。お寺にとっていいものなのか、悪いものなのか。

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『ポケモンGO』はスマホ向けのアプリゲームだ。ゲームをスタートすると、スマホの位置情報(GPS)を元に、現在地を中心とした周辺地図が表示される。街を歩くと、ピカチュウ等のポケットモンスター(ポケモン)がスマホ画面上に出現する。このポケモンを探し出し、捕まえて集め、闘わせるゲームなのだ。このゲームのどこが問題なのか。その1つが、このゲームの特徴である“仮想現実(AR)”と呼ばれる機能にある。ARとは、スマホの画面に映した周囲の風景に、デジタル情報を重ねて表示することで、字義通り、現実世界を拡張して楽しめる機能だ。左写真は岐阜県関市にある曹洞宗千手院だが、本堂の中にポケモンが出現。現実の本堂を背景に、バーチャルなポケモンが映し出されているのがわかるだろう。結果、この画面に見入って歩いてしまう“歩きスマホ”が交通事故を誘発するという。お寺や公共施設で問題になっているのは、ゲーム内の“ポケストップ”や“ジム”と呼ばれるゲームアイテムを得たりポケモンを闘わせる場所だ。ゲーム上では、現実の私有地や寺院境内の史跡等がその場所に指定され、場所の写真も使われる。ポケストップ周辺ではポケモンが出現し易く、アイテムも集められることから、ゲーム利用者が時間を問わず訪れてしまうのだ。こうした問題もある中、財務省の麻生太郎大臣は「オタクが引きこもりから外に出るようになった。精神科医より漫画のほうが効果がある」と発言。内閣サイバーセキュリティーセンターも『ポケモントレーナーのみんなへおねがい♪』と題し、「熱中症を警戒しよう」「歩きスマホは×ですよ」等9つの注意書きを記した資料を自治体に配布した。

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配信直後の東京都内では、日比谷公園や錦糸公園に、昼夜を問わず数千人のポケモンGOユーザーが集まった。こんな事態がお寺で起こったら大変だ。「何故、会園に集うのか?」と聞くと、「ここのポケストップでレアポケモン(中々出現しない珍しいポケモン)が捕まえられるから」という。更に、「お寺には行かないのか?」と聞くと、「レアポケモンが捕まえられるなら行く。でも、都内はどこにでもポケストップやジムがあるので、態々お寺には行かない」という趣旨の声が多数だった。ゲームユーザーの関心は専ら、レアポケモンが捕まえられるかどうかにある。つまり、レアポケモンが出現しないポケストップに用は無い訳だ。一方、お寺等が貴重なポケストップとなっている地方では、ポケモンGOの利用に柔軟な対応を示したことで、インターネット上で大きな注目を集めたお寺がある。京都府福知山市にある臨済宗南禅寺派海眼寺の芝原三裕住職(36)は、ポケモンGOで遊ぶとスマホのバッテリーの消費が激しいことから、スマホの充電器をお寺の観音堂の階段に設置した(右写真)。すると、ツイッターでこの対応が話題を呼び、各メディアから取材が殺到した。「平成25年の由良川の氾濫の際に、スマホの充電器は作ってありました。今回は、それにポケモンの紙を貼っただけです。話題になり、地元の人にも『お寺で携帯電話が充電できる』と知ってもらえたのはよかったですね」(芝原住職)。但し、「全てのお寺がゲームに寛容な対応をできる訳ではないだろう」と芝原住職は注意を促す。「当寺は境内が子供たちの遊び場なので、石塔の工事等は事故が起きないように事前に対処していました。それに、うちには文化財も無い。文化財があれば、盗難等のリスクも考えなければならない。お寺によって条件は達うと思いますが、世の習いで、お寺も新たな技術には対応していかなければならないと思います」(同)。

「ポケモントレーナーへ ポケモンを捕まえる事を、仏さまに許可していただくために、本堂へお参りしましょう。また午後9時を過ぎると、レアポケモンは出ませんが、リアルゴーストが出てきますので境内へ入らないでください」――。こんな掲示をして話題になったのは、千葉県山武市の真言宗智山派勝覚寺。同寺境内にはポケストップが3ヵ所、鐘楼がジムに指定されている。同寺の小杉秀文住職(47)は、「お寺としては、地元の認知度が上がっただけでもいい」と話す。1日数十人は、境内やお寺の周りに遊びに来ているという。だが、夜間に車やバイクで来て騒ぐ大人や、暗くなってからうろつく子供には注意を促したい。そこで、前述の掲示をしたのだ。「リアルゴーストと書くと、『お寺で成仏していないのか?』と指摘されそうですが、子供にわかり易いよう表現しました。弘法大師様も、布教に使えるものは何でも使うと思う。お寺と縁ができるなら、どんどん利用すべきだと思う」(小杉住職)。僅か数日で17000件以上リツイートされ、インターネット上で大反響を呼んだのが、鹿児島県いちき串木野市の臨済宗相国寺派良福寺の近藤永進住職(32)だ。近藤住職は、配信2日後の7月24日、
とツイートした。すると、「すばらしい」「まさに寺子屋」とコメントが集まった。この反応に対して、「このコメントが拡散すること自体が、世の中の人は『お寺に気軽に足を運んではいけないのだ』と考えている証拠のような気もします。『お寺にはいつ行ってもいいのだ』という気持ちだけでも伝わればいい。とはいうものの、実は自坊はポケストップにも指定されていないのですが」(近藤住職)。以上の3ヵ寺以外にも、千葉県のあるお寺が掲示した「境内にゴミを捨てたり荒らされますと、お寺の職員とリアルバトルになります」という掲示もユーモアが讃えられ、インターネット上で注目された。一方、神奈川県のあるお寺では、配信直後に掲示板に「お寺のなかでポケモンをゲットしないでネ!」と張ったところ、画像がインターネット上で拡散。特に批判が寄せられた訳ではないとのことだが、掲示は翌日には剥がすことにしたという。

では、各宗派本山の対応はどうか。天台宗・真言宗豊山派・浄土宗・真宗大谷派・日蓮宗は、特別な対応は取っていない。天台宗総務課の担当者は、「ゲーム使用の制限はできないと思う。だが、境内ではルールやマナーを当然守ってもらいたい。対応については、其々のお寺に任せています」と言う。浄土宗総長公室は、「ゲームに限らず、全ての娯楽は、それをどのように楽しむかが、楽しむ側に求められている」と回答。「対応は各寺院に任せている」ということだ。但し担当者は、「飽く迄も個人的な回答だが」として、次のように話す。「これまでにお寺に足を運ばれたことがない方々にも、仏様のお導きにより、縁を頂戴できる機会であると捉えています。境内に来られた方に、お手を合わせて頂くきっかけとなるよう願っています。しかし連日、悲しい事故等が多発しているとの報道もなされています。こういう時こそ、人の通りの妨げになっていたら、勝手に自分の家の敷地内が荒らされたら、相手がどういう気持ちになるか等、内省とモラルの向上を訴え、“思いやりの心”を再確認することが重要だと考えます」。真宗大谷派総務部広報担当者は、「ポケモンGOに限らず、日常的に警備の職員が巡回を行っており、参拝者の立ち入り禁止個所への立ち入りや、お堂内での振る舞いについて注意している為、今のところ特別な対応は考えていません。多くの方に真宗本廟(東本願寺)へお立ち寄り頂けることは望ましいですが、真宗本廟は、親鸞聖人の御真影の前でお念仏の教えを聞く為の聞法道場であり、御本尊を安置する礼拝施設ですので、節度ある行動をお願いしたいと思います」。本山でポケモンGOの使用を全面禁止にしたのが、真言宗智山派と曹洞宗。真言宗智山派教化部時局対策課は、今月5日付で総本山智積院のホームページ上に、『“ポケモンGO”について』と題し、次のように本山の意向を示した。「最近、社会問題になっている“ポケモンGO”について智積院境内もポイントになっております。智積院は僧侶修行の場であり、一般社会の喧騒を離れ心静かに過ごして頂く為、参拝者の事故等を未然に防ぐ意味でも配信元に削除申請を出し境内でも禁止の表記をさせて頂きました。以前より表記させて頂いておりますが“ポケモンGO”の使用に限らず、参拝目的以外の境内への侵入は固くお断りさせて頂きます。参拝者の方々へ安心安全にお参り頂く為、ご理解ご協力をお願い致します」。境内の掲示板にも“お願い”として、ポケモンGOの全面禁止を謳う張り紙を掲示。本山境内のポケストップの削除申請もしたが、各寺院に対しては、「進入禁止エリアや私有地がポケストップに指定されている場合があるので、確認し対応するよう案内しました。参拝者を増やしたいお寺もあるでしょうから、無闇に禁止は勧めていません」(担当者)。曹洞宗の大本山總持寺では、境内でのゲーム使用の禁止の張り紙を、境内各所に日英2ヵ国語で掲示した(左下写真)。大本山永平寺も全面禁止の掲示を出した。曹洞宗人事部文書課広報係は、末寺に対して寺院専用サイトに『“ポケモンGO”について』と題し、ゲームの特徴や、各寺の事情に応じて運営に支障がないよう安全を呼びかける注意喚起と、ポケストップの削除申請の方法も案内している。

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高野山真言宗総務課では、「奥之院境内では、“ポケモンGO”は大変危険ですので使用を禁止します」と墨筆書きで書かれた看板を建てた。担当者は、「配信直後に、奥之院でゲームをされている方がいた。特に被害は無いが、奥之院は聖域であるだけでなく、自然も豊かなので、歩きスマホは危険。暗黙のルールで禁止している」と話す。金剛峯寺の参道には複数のポケストップがあるが、看板の設置個所は奥之院入り口に2ヵ所、奥之院内に1ヵ所の計3ヵ所だけ。「境内が広く、スマホで地図を見ている人もいる。スマホを使って何をしているかはわからず、看板で注意を促すしかない。類似のゲームが出るようなら、“歩きスマホの禁止”等を文面に加えた看板を作るかもしれません」(担当者)。また、職員専用施設がポケストップに指定されていた為、削除申請したという。臨済宗妙心寺派総務課担当者は、「事故が起きたり騒いだりして、一般の参拝者にご迷惑がかかる事態が起きれば指導するかもしれませんが、現状、特別な対応はしていません」という。だが、「『一般の方に示しがつかない行為はしないように』と、本山職員に対しては『本山でのポケモンGOの使用は自粛しなさい』と強めに注意しています」という。一方、浄土真宗本願寺派本山の西本願寺では、配信直後の全面禁止から一転、容認するよう対応が変わった。国内配信日の7月22日から26日の間は、日英中の3ヵ国語で書かれた「本願寺内でのポケモンGOの使用は禁止いたします」との看板を設置したが、7月29日からは「ポケモントレーナーのみなさん ようこそ本願寺へ!」と一転、容認の看板を設置した。看板には、境内地図に、ポケストップ8ヵ所には星印を付け、立ち入り禁止エリアも表示。担当者は、「『禁止が厳し過ぎる』という声があった。『歩き回られるより、立ち入り禁止エリアとスポットを示したほうがいい』と判断した」という。

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では、許可無くポケストップやジムに設定されることや、写真データが使用される点に法的問題は無いのか。『全日本仏教会』顧問の『長谷川正浩弁護士事務所』に所属する大島義則弁護士に聞いた。「寺院敷地内や私有地にポケストップやジムが設定されている場合、ゲーム会社に削除申請すれば紛争にならずに済みます。ポケストップに使用される写真は、絵画等の著作物が使用されていれば著作権を、商標登録されているなら商標権を主張できるかもしれません。不特定の人がお寺に来ることについては、『物件の支配を部分的に侵害している』として、所有権に基づく妨害排除の請求を起こすことも考えられますが、権利主張がサイバー空間まで及ぶかどうかは、専門家でも見解が分かれる新しい問題です」。つまり、「ポケモンGOで人が集まって迷惑を被るようなら、先ずはポケストップの削除申請を」との話だ。尚、申請はポケモンGOの公式ホームページで受け付けている。一方、本誌で『葬送の激変をうがつ!』を連載している愛知大学国際問題研究所客員研究員で宗教学者の内藤理恵子氏は、「布教の機縁として住職自ら楽しんでいるお寺と、全面禁止するお寺で対応が分かれましたが、集客の面から見れば、お寺が行うイベントの何倍も効果があると思います。折角なら利用したほうがいい。千載一遇のチャンスのように思う」と積極的な利用を提言する。全日本仏教会は、「各宗派から情報収集をしたが、現状は問題が浮き彫りになっていない為、特別な対応は取っていない」という。実際のところ、このゲームがお寺にとって何が問題なのか、未だわからないのだ。しかし、想定される潜在的な問題はある。先ず、前出の高野山や海眼寺が指摘するように、歩きスマホによる事故の可能性だ。そして、これは飽く迄も仮定だが、「○○寺でレアポケモンが捕獲できる」との噂が広がったとしたらどうだろう。現状、ポケモンGOユーザーでお寺がごった返すことは無くても、噂が立てば町中のユーザーが集まってくるかもしれない。ポケストップやジムに設定されているお寺には、いつでもその可能性はある。実際、ゲーム配信会社は地域振興を謳い、地方での“ポケモン出現率”を上げる等、ゲームの改善や新機能の追加を検討している。更に流行する可能性は十分だ。その時、お寺はどうすべきか。紹介した各寺の対応が参考になれば幸いである。


キャプチャ  2016年9月号掲載

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