【Global Economy】(09) 中国、基軸通貨へ着々布石…ドルに挑む人民元の野望

中国政府が、アジアを中心に人民元の経済圏を作ろうと布石を打っている。「世界経済の中で、人民元をドルに代わる存在に高めよう」という野望だ。中国共産党1党独裁の下での通貨戦略は、国際社会に負の影響を及ぼしかねない。 (本紙広州支局長 幸内康)

20161031 08
中国の人民元が今月1日、『国際通貨基金(IMF)』の特別引き出し権(SDR)を構成する通貨に加わった。ドル・ユーロ・円・ポンドの4通貨と並び、国際通貨として最高度の信用を得たことになる。貿易や国境を越えた投資に伴う資金決済は現在、圧倒的にドルが使われ、決済総額に占めるシェア(占有率)は、今年8月時点で42.5%に上る。人民元は1.86%で、日本円の3.37%に次ぐ5位だ。SDR構成通貨になったことで、決済のシェアは高まるだろう。主要国は外貨準備に人民元を蓄え、人民元建ての金融商品が世界の市場により出回るようになる。つまり、世界で広く人民元が使われるようになることが予想される。経済覇権を狙う中国にとって、SDR入りは1つのステップに過ぎない。目指す究極の“夢”は、ドルに代わって基軸通貨の地位を得ることだ。夢の始まりは、2008年のリーマンショックに遡る。“基軸通貨国”アメリカ発の金融恐慌は、瞬く間に世界を何周も巡り、“需要の蒸発”とまで呼ばれた。凄まじい経済減速に、世界の産業は地獄の苦しみを味わった。この時、4兆元(当時の為替レートで約60兆円)の財政支出で世界経済を下支えしたのが中国だった。世界から称賛される高揚感の中、2009年4月の『主要20ヵ国・地域首脳会議(G20)』に出席した胡錦濤国家主席(当時)は、「国際通貨システムの多元化と合理化を促す」とぶち上げた。ドル一極体制への強烈なパンチを号砲に、通賞覇権への野望が動き出す。習近平体制下で、その動きは加速する。習主席は、“中華民族の偉大な復興”を“中国夢”とするスローガンを掲げ、「中華人民共和国建国から100年の2049年に、大国の復活となる“社会主義現代化国家”を実現する」としている。

習政権の通貨戦略を探る上で、各国の金融関係者が参考にする1冊の本がある。『人民元読本』。著者は中国人民大学の陳雨露学長で、今は中央銀行である『中国人民銀行』の副総裁を務める。2010年に出版され、英語・韓国語・ロシア語・日本語等でも出版された。そこでは、人民元の国際化を、10年ずつ3段階で進める構想が描かれている。先ずは2020年頃までに、人民元が中国の周辺国との貿易に使われるようにする。2030年頃までには使用範囲をアジアに広め、最終段階の2040年頃には、人民元を全世界で使われる最重要の通貨にするとしている。その為の具体策が、陸海のシルクロード『一帯一路』構想であり、中国主導で今年1月に開業した『アジアインフラ投資銀行(AIIB)』に象徴される国際金融への進出だ。中国からヨーロッパに至る広大な地域で、道路・鉄道・エネルギー施設等インフラ建設を進める。資金を支えるのが、AIIBと、中国単独の『シルクロード基金』だ。中国がブラジル等新興国と共に上海に設立した『新開発銀行』も今後、関与を強めるとみられる。「インフラを築く過程も、完成したインフラを行き来する人やモノも、人民元の流通を促す原動力になる」というのが中国の狙いだ。一方で、深刻な事態も考えられる。アメリカ財務省が先月、遼寧省丹東市の貿易会社と幹部4人を、資産凍結等の制裁対象に指定した。核爆弾の原料となるウランの濃縮に必要な物資を、北朝鮮に密輸した疑いがあるという。中国当局も8月に、この貿易会社の幹部らを拘束し、捜査しているという。「アメリカから証拠を突きつけられ、止む無く重い腰を上げた」との見方が専らだ。アメリカの金融制裁が効くのは、『国際銀行間通信協会(SWIFT)』等国際的な資金決済ネットワークを通じて、ドル資金の流れを追跡できることが大きい。ドルの決済シェアが圧倒的であるからこそ、密輸や資金洗浄の際にドルに接触する割合が高く、闇の資金ルートを追う上での起点が生まれ易いのだ。中国はSDR入りを睨んで昨年10月、人民元の国際決済ネットワーク『クロスボーダー人民元決済システム(CIPS)』の運用を始めた。仮に北朝鮮がCIPSに逃げ込み、手助けをする企業も人民元だけで決済できるようになれば、核開発は更にベールの向こうに隠れ、中国抜きの金融制裁は難しくなる。

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■為替自由化、習氏の腰重く
広東省広州市で今月15日から開かれている貿易商談会『広東フェア』。国内外の企業に、人民元を使っているかどうか尋ねてみた。中国企業の中には、東南アジアやロシアと取引する際に人民元で決済するというところもあった。だが、中国以外の企業は、人民元ではなくドルかユーロを使っているという。あるテレビメーカーの海外担当者は、「会社として積極的に人民元を使っていく方針はない」と断言した。中国の“夢”とは裏腹に、足元で人民元の人気はあまり高まっていない。通貨が広く流通するには金融市場の自由化が欠かせないが、中国では逆に規制が強化される傾向すらある。金融関係者によると、最近、中国人民銀行から外資銀行に対し、人民元を外貨に替える際、中国国内ではなく、国外に人民元を持ち出した上で交換するよう指導が出ているという。世界から注目されている上海の人民元市場で、元安が進み難くする為だ。「資金の流れや人民元相場を管理下に置きたい」という強い意識の表れだ。中国が“他山の石”としているのが、1997年の『アジア通貨危機』だ。国内の経済基盤が脆弱なまま資本取引を自由化していたタイや韓国等が、欧米のへッジファンドによる通貨空売りをきっかけに、壊滅的なダメージを受けた。中国経済が減速する中で人民元の取引を自由化すれば、人民元が大きく売られて暴落し、資金が大量に流出して、中国経済に大打撃を与える恐れがある。昨日閉幕した中国共産党の第18期中央委員会第6回総会は、習主席が綱紀粛正の強化を打ち出し、求心力の維持に躍起となった。来年からの政権2期目を睨む習主席にとって、経済運営での失点は防ぎたい。中国人民大学の向松祚教授は、「中国政府は、資本取引の開放によって、不動産や株式市場が激しく動揺することを懸念しており、金融改革に一貫して慎重な方法を取っている」と指摘する。通貨覇権への歩みは、中国共産党自身の事情で遅くなっているのかもしれない。


⦿読売新聞 2016年10月28日付掲載⦿

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テーマ : 経済
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