【新聞ビジネス大崩壊】(04) 捏造記事を生む土壌…前近代的で不合理な“支局”という存在

大手紙の記者は、1年目で先ず地方の支局に配属される。しかし、支局は今や、社内の出世レースや派閥争いの為だけに存在すると言われている。知られざる支局の実情を暴く。 (取材・文/フリージャーナリスト 一条しげる)

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一口に“新聞記者”と言っても、実は大きく分類すると2種類に分かれる。1つのエリアに腰を据え、地域に密着したニュースや不正を報じていく記者と、2~3年毎に日本中を転々としながら、時に全国区のニュースも報じていく記者だ。前者の代表が、東日本大震災における『石巻日日新聞』の記者たちだ。津波被害で本社が水没し、輪転機も壊れてしまった中で、手書きの“壁新聞”等を駆使し、読者(被災者)の為に、災害後1日も休刊することなく情報を届け続けたことは、遠く海外でも報じられた。後者の代表が『朝日新聞』や『読売新聞』といった、所謂“全国紙”だ。これらの新聞社に記者職として入社すると、先ずは東京本社・大阪本社・名古屋本社・西部本社等の地域本社に配属されるのだが、そこで各社のエリア内の支局や通信局(支局よりも小規模な取材拠点)へと送り込まれ、そこで3~6年を過ごす。このような“下積み期間”を経て、本社勤務に入るのが一般的だ。では、そこから延々と本社で記者として働き続けられるのかというと、そうではない。ある程度のキャリアを積むと、再びデスクや支局長として地方に戻される。そして、“ドサまわり”と呼ばれる地方転勤を繰り返す者や、ここで数年を過ごして本社に戻って部長や編集局長等の“出世コース”に乗れる者と、明暗が分かれるのだ。

全国規模でビジネスを行う大企業では、よく聞くキャリアパスだと思うかもしれないが、実は、このような働き方をしている新聞記者というのは、世界的にみるとかなり異常だ。海外で新聞というと、前出の石巻日日新聞のような地方紙が一般的だからだ。無論、アメリカの『USAトゥデイ』のように全国紙というものも海外には存在しているが、それらは飽く迄も“全国で販売している新聞”という位置付けであって、情報源は『ロイター通信』等の通信社や地方紙と提携をすることが多く、“社員記者”を全国津々浦々に赴任させて本社と行ったり来たりをさせるということはしない。記者という仕事においてマイナスしかないからだ。2~3年で担当が代わっていたら、長期に及ぶテーマの取材や、調査報道ができない。ネタ元(情報源)とも信頼関係を結べない。では何故、日本の全国紙は、このような非効率な取材システムを確立し、今も続けているのだろうか。その謎を解く為には、全国紙における“支局”の役割を知らなくてはいけない。先ず、支局の記者は何をするのかというと、基本は“何でも屋”だ。事件・災害・地方政治から町内会のイベントまで、ありとあらゆることを行う。専門性云々や適性等は一切考慮されることはなく、兎に角、オールラウンドプレイヤーでなくてはいけない。中でも、新人は先ず“サツまわり”という警察担当からスタートするのが一般的だ。県警記者クラブに属し、広報された情報を速報していく訳だが、ここで記者の基本である“夜討ち・朝駆け”を身に付けていく。事件解決のカギを握る警部等を自宅や官舎の玄関先で待ち受け、出勤直後や帰宅直後に直撃取材をするのだ。この成果は、支局内で共有される。嘗ては、支局内に置かれたノートに記者たちが次々と書き込んでいくスタイルが多かったが、近年はメール等で一斉送信されることが多い。“夜討ち”は主に深夜0時~午前1時くらいで、“朝駆け”は午前6~7時。因みに、県政担当記者もこれは同様で、知事や県議会議員等に“夜討ち・朝駆け”を行う。大事件や地方選挙等、政局の最中は各社の激しい取材競争が続くので、睡眠時間は1日2~3時間程度になってしまうことも珍しくない。

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といっても、いくらしつこく待ち伏せをしたところで、相手もべラべラと話す訳ではない。警察の場合は捜査情報漏洩にもなるので、“夜討ち”をかけたところで、核心に迫るネタを入手できることは少ない。にも関わらず、何故ここまでやるのか。1つは“裏取り”(取材の裏付け)だ。某全国紙記者が、サツまわり時代を振り返る。「例えば、地まわり(聞き込み取材)で得た事件に関する特ダネがあったとすると、それを親しい警察幹部に夜回りで宛てる。酒を酌み交わしながら『記事にしますよ』と切り出して、『勝手にすればいい』とぶっきら棒に答えたらOK。『恥をかくぞ』ってポツリと言われたら、裏の取れないネタだということ」。このような“阿吽の呼吸”で情報交換をするのが、“夜討ち・朝駆け”の醍醐味なのだ。また、信頼関係が更に深まれば、“裏取り”だけではなく、“特ダネ”の恩恵に授かることもある。支局のサつまわり時代に大きなスクープを手にした経験のある全国紙記者が言う。「北陸の某支局にいた時、大事件でどこも犯人のガン首(顔写真)が出なかった時、馴染みの警部に夜回りをした。家に上がり込んで酒を飲んでいたら、ふいに『書斎の机の上にあるが、渡せる訳ないだろ』と言う。そのうち、『酒が切れたから買ってくる。留守を頼む』と言われて出て行った。『カメラで複写しろ』と暗に言ってくれた訳です」。このような“特ダネ”は、地方支局の記者にとって喉から手が出るほど欲しい。「あいつはできる」という評価が本社に届けば、それだけ早くドサまわりから解放され、本社の政治部・経済部・社会部等からお声がかかるからだ。だが、そのような構造が故の問題も多い。

2005年8月、小泉純一郎政権が郵政民営化法案を進める中で、亀井静香議員ら反対派が新党を結成するという気運が高まっていた。そんな中、朝日新聞に、亀井氏と当時の長野県知事であった田中康夫氏が長野県内で“会談”をしたとして、その内容まで詳細に報じた記事が掲載された。他紙には無い“特ダネ”であり、郵政民営化反対派の動きとして全国的に注目されたが、実は、これは真っ赤な嘘だった。確かに両氏は会談をしたものの、場所は東京都。会談内容も出鱈目だった。この誤報を生み出したのは、長野総局の西山卓記者(当時28)だ。知事に直接取材をしていないのに、“夜討ち・朝駆け”で話を聞いたような体裁で、「長野県内で会った」と発言を捏造。会談内での発言は、過去の田中知事の発言を切り貼りして作ったという。完全な捏造だったのだ。「西山記者は早稲田大学政治経済学部出身で、仕事ぶりも真面目という評判。大きなミス無くやっていれば、間違いなく本社の政治部へ引っ張られたような有望株でした」(朝日新聞記者)。何故、そのような記者が稚拙な不正に手を染めたのか。その遠因が、前出の“頼まれ仕事”だ。西山記者は長野総局長を通し、政治部から「『8月中旬に田中氏と亀井氏が会っていた』という情報があるので、確認してほしい」と頼まれていたのだ。“特ダネ”が出世コースに乗る為の武器になるのは、本社の記者も変わらない。つまり西山記者は、本社の政治記者たちが出世する為の“駒”にされていたのだ。勿論、西山記者にもメリットはある。政治記者が求めた情報を即座に上げることができれば、「あいつは使える」ということで、ライバルよりも早く本社に引き上げられる。今度は自分が支局の記者を“駒”に使って、出世コースの階段を上っていくことができる。実際、虚偽のメモを作成した西山記者は社内調査に対して、「『知事からこれぐらい聞けるんだ』というのを総局長に見せたかった。後から考えれば、功名心だったかもしれない」と答えている。この言葉が、全国紙における支局の位置付けを如実に示している。全国紙の記者にとって、支局というのは飽く迄も本社勤務の為のステップアップに過ぎず、自分の実力をアピールする場に過ぎないのだ。不正を働かないにしても、全国には西山記者のような全国紙の支局記者がゴロゴロいる。彼らの多くは本社に引き上げられる日を夢見て、只管に本社の顔色を窺いながら取材を行っている。このような新聞記者と、石巻日日新聞のような地域に根差した記者、どちらが地域の人々にとって価値があるかは、ここで改めて言うまでもないだろう。通信社や地方紙のニュースがインターネットで即座に入手できる今の世の中で、最早、全国紙の支局は社内の出世レースの機能しかないのが現実だ。「元々、高級官僚の全国赴任をフォローする為に生まれた」という説もあるほど、前近代的で不合理な“支局”というシステムが消滅する日も近い。


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