【「佳く生きる」為の処方箋】(25) 若い医師にしかできないこと

誰にでも新人の頃があるように、私にも心臓外科医として駆け出しの時代がありました。28歳で医師になり、本格的に心臓外科の研修を始めたのが30歳の時。初めて執刀医として手術を任されたのは、それから3年後のことでした。30代から40代にかけては兎に角、「1例でも多く手術をして経験を積みたい、腕を磨きたい」という気持ちが強く、どうしたら手術が上手くなるか、寝ても覚めてもそればかり考えていました。早く一人前の心臓外科医になりたい一心で本や文献を読み漁り、恩師や先輩にも食い下がるようにして教えてもらったものです。ただ、あの頃の私を本当の意味で成長させてくれたのは、他でもない、自分が手術をした患者さんだったと思っています。心臓外科医として未だ経験の浅い自分を信頼して、命を預けてくれた。手術後も「先生に診てもらいたい」と、ずっと外来に通って来てくれた。そういう患者さんたちに、私は心臓外科医としては勿論のこと、人間としても成長させてもらったと思うのです。未だにお付き合いが続いている患者さんも多く、長い方だと彼此30年ほどになります。現在、私は若手の医師を指導する立場になりましたが、彼らにもまた、「私が若い頃に経験したような患者さんとの出会いを大切にしてもらいたい、そこから色々なことを学び取って成長してもらいたい」と思っています。順天堂医院では年間約600例の心臓手術が行われており、若手にも執刀の機会を与えることが増えてきました。若い医師が執刀医になることに不安を覚える患者さんがいるのは事実ですが、私が責任指導することで患者さんの不安は払拭しています。ものは考えようで、若手に手術をしてもらう利点も確かにあると思うのです。

先日も、30代前半の医師が、49歳の患者さんの手術をしました。彼にとっては初めての手術内容でしたから、私が指導・監督をしながら手術を完遂しました。術中に厳しく指導されながらの完遂は一生の財産になりますが、彼らの修練はそこで終わる訳ではありません。外科医が患者さんに対してできることには、“キュア”と“ケア”があります。キュアはズバリ、手術で治すこと。ケアは外来診療・手術前後の管理・心理的なサポート等、手術以外での医療サービスのことです。勿論、両者が必要な訳ですが、外科医の熟練度が上がるほど、キュアの部分で勝負する割合が大きくなります。一方、若手の場合は腕が未熟ですから、キュアでの不足分をケアで補わざるを得ません。患者さんの話をよく聞き、まめにべッドサイドに足を運び、兎に角「頑張ります」「努力します」という姿勢で向き合い、修練を積んで患者さんに信頼してもらう。謂わば、ケアとキュアの合計点で勝負する訳です。私も若い頃は、「この患者さんのことは自分が一番よく知っている」というくらいの気持ちでケアに当たっていました。そういう熱意は、必ず患者さんに届きます。尚、若い医師にしかできないこともあります。患者さんと長いお付き合いができることです。患者さんにしてみれば、手術後も数十年は外来でずっと診てもらえますし、将来、再手術が必要になったときに再度、執刀してもらうことも可能です。しかも、その頃には若手からベテランになっている筈です。仮に今、私が手術をしても、そんな長いお付き合いはできません。医師は患者さんを治療し、患者さんに育てられる――。このことは若い医師だけでなく、患者さんにも是非知っておいて頂きたいことです。


天野篤(あまの・あつし) 心臓外科医・『順天堂医院』院長。1955年、埼玉県生まれ。日本大学医学部卒。『亀田総合病院』『新東京病院』等を経て、2002年に順天堂大学医学部心臓血管外科教授に就任。2012年2月18日に天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀。2016年4月より現職。著書に『一途一心、命をつなぐ』(飛鳥新社)・『この道を生きる、心臓外科ひとすじ』(NHK出版新書)等。


キャプチャ  2016年11月3日号掲載
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