【現代中国・繁栄か滅亡か】(02) 『パナマ文書』を超える衝撃! 習近平体制を揺るがす中国共産党㊙流出ファイル

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中国の習近平氏が中国共産党のトップに上り詰めるまでの内幕を描いた拙著『十三億分の一の男 中国皇帝を巡る人類最大の権力闘争』(小学館)が今春、韓国と台湾で出版された。朝日新聞北京特派員として約6年間、現場に足を運んで、自分で見聞した中国共産党の権力闘争をルポ仕立てで描いた内容が関心を集め、地元メディアでも取り上げられた。特に、台湾では初版が直ぐに完売。大手書店やインターネット書店でもべストセラーに名を連ねている。実は、最初に台湾での出版の話を持ちかけられた際、躊躇した。日本人が中国内政について記した本が、中国語圏で受け入れられると思っていなかったからだ。台湾や香港では、中国共産党暴露本や解説本が多数出版されている。事実関係があやふやなゴシップの類から、党の内実に迫ったスクープまで、玉石混淆の書物が並んでいる。その質量共に日本を圧倒していることは間違いない。それでも、台湾の出版社の担当者は半年以上かけて翻訳作業をして、出版にこぎ着けてくれた。内部文献や関係者の証言を紡いで中国政界を描き出した“国際ノンフィクション”スタイルの書籍はあまり例が無く、関心を持ってくれたそうだ。ただ、売れ残って出版社に迷惑をかけても申し訳ない。発売直前、版元である『聯経出版』の社長にこの不安をぶつけると、「(中国)大陸からの観光客が買っていくから大丈夫ですよ。それに、既に中国共産党や中国政府の機関から100冊単位で予約注文が入っていますから」という意外な答えが返ってきた。

中国共産党高官の不祥事や、彼らが最も忌み嫌う政争について書いているので、中国大陸では出版されないことは始めからわかっていた。台湾版の帯には、“中央宣伝部出版禁止”と目立つように記されている。そんな“発禁本”を政府が纏め買いしていたとは。「一番読みたがっているのが中国の官僚や軍人たち。自分たちの組織やトップについての正確な情報に飢えていますから」と、社長は自信たっぷりに語った。それから暫くして、反応があった。何人かの中国の政府やメディアの関係者から、「本を読んだ」と連絡が来たのだ。彼らが一様に関心を持っていたのは、ある一文だった。「権力闘争こそが、中国共産党を永続させるための原動力」――。同書の一貫したテーマだ。“党内一致”が原則である中国共産党にとって、権力闘争は存在しないことが建前となっている。しかし同著では、前国家主席の胡錦濤氏と、引退後も影響力を持っていた元国家主席・江沢民氏の“死闘”とも呼べる激しい権力闘争の末、習氏が党トップになったことを詳述した。謂わば、権力闘争の“申し子”だからこそ、これまでの指導者よりも強いパワーを持つことができると分析した。その通りに、習氏が2012年に党トップになってから、前例の無い規模とスピードで反腐敗キャンペーンを推し進めて、政敵や“反乱分子”を次々と摘発してきた。順調に権力基盤を固めた習氏が、安定した党運営をしていくと思われた矢先、国内外で問題が一気に噴出した。急成長していた経済は頭打ち、失業率は増加。国有企業の改革は進まず、看板だった筈の『自由貿易試験区構想』も遅々として進んでいない。南シナ海等での強硬姿勢は周辺国の反発を招いており、肝心のアメリカとの関係も悪化している。党内からは、習氏の執政能力を疑問視する声が公然と出始めた。この習氏の“番狂わせ”は、権力闘争が深く関係しているのではないか――。予想外の問題に直面して現状を案じている中国共産党や中国政府の関係者らが、台湾や香港で“禁書”である筈の拙著を態々買っているということが、徐々にわかってきた。そこで本稿では、“権力闘争”を軸に、習近平政権の現状と今後の予測について分析していきたい。

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今年3月末、ワシントンの国際会議場に50ヵ国以上の首脳らが集まった。“核無き世界”を掲げたバラク・オバマ大統領が提唱した『核保安サミット』に出席する為だ。私を含めた特派員の関心は、サミットそのものよりも、会場内で行われる首脳会談のほうに集まった。中でも注目されたのが、米中首脳会談だった。会談は、冒頭から緊迫した空気に包まれていた。オバマ氏は厳しい表情のまま、挨拶も早々に、用意した原稿を淡々と読み上げ始めた。カメラが回る冒頭では友好的な雰囲気をアピールするのが慣例だが、オバマ氏は正面に座る習氏と殆ど目を合わせず、同席する部下も険しい顔つきを崩さなかった。南シナ海やサイバー攻撃等の問題で対立する両国関係を象徴するような会談となった。オバマ氏の話を聞いている習氏を見ていて、ある異変に気付いた。頭に白いものがある。7・3に分けた生え際の辺りに、白髪が束になっていた。前回、昨年9月に習氏がワシントンを訪れた際には確認しなかったものだ。中国の指導者は、現役でいる間は頭髪を染めることが一般的だ。若さや力強さをアピールする為だ。胡錦濤氏や江沢民氏も、黒々とした頭髪をポマードでしっかりと固めるのが定番スタイルだった。汚職等で逮捕・起訴された前政治局常務委員の周永康氏が出廷した際、トレードマークだったオールバックの黒髪は雪のように白くなっていた。現役時代の黒さは染めていたからなのだろう。習氏の白髪は、この半年間のストレスや苦労を物語っていた。染め切れないほどの白髪が出てきたのか、或いは染める時間が無いほど忙殺されているのかもしれない。これを裏付ける証言がある。対中政策に関わったことがあるアメリカの元政府当局者によると、2時間を超える首脳会談の後半は、両国其々数人の側近と通訳以外は退席し、両首脳が膝詰めで議論をしたという。南シナ海やサイバー攻撃問題について議論を交わしている時に、習氏がオバマ氏に対して、こんな悩みを吐露していた。「私も、中国内で色々な勢力からの圧力に曝されていて、大変なのです」。

反腐敗キャンペーンに対する中国共産党や政府幹部の間で渦巻く不満、軍改革に対する軍人たちの反発、改革に対する国有企業幹部らによる抵抗…。習氏は具体的な圧力について明確に言わなかったが、少し考えるだけで色々と思い浮かぶ。南シナ海の人工島埋め立て等を巡るオバマ氏からの批判を逃れようとした言い訳として持ち出した可能性も否定できない。だが、習氏の表情や頭髪から、何らかの“圧力”に苦しんでいるのは間違いなさそうだ。これまで強気だった習氏が、初めて漏らした弱音と言えた。そして、帰国した習氏を新たなスキャンダルが襲った。習氏の姉の夫が、タックスへイブン(租税回避地)にある会社の株主に名を連ねていたことが、非営利の報道機関『国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)』の調べで明るみに出たのだ。パナマの法律事務所から流出し、『南ドイツ新聞』を通じてICIJが入手した膨大な電子ファイル『パナマ文書』の中に含まれていた。中国内のインターネット上ではパナマ文書の検索ができなくなり、記事やコメントは次々と削除されていった。中国政府は、「如何なるコメントもしない」(中国外務省報道官)と沈黙を貫いている。こうした厳しい規制にも関わらず、インターネット上では“姉の夫(姐夫)”という単語が検索数の上位となる等、じわじわと国民の間にも広まりつつある。当局がインターネット規制に躍起になっているのは、危機感の表れと言える。政権発足以来、“反腐敗”を旗印に党内外の支持を集めてきた習氏の親族が、税の支払いを逃れて蓄財をしていたことが市民に広まれば、致命的なダメージになりかねない。一連のパナマ文書について、中国政府は「アメリカ政府が裏で糸を引いている」と見ている節が窺える。米中首脳会談が終わった直後という絶妙のタイミングで公表されており、アメリカと対立しているロシアのウラジーミル・プーチン大統領らがターゲットになっているからだ。ICIJが属する非営利調査報道機関『センターフォーパブリックインテグリティー(CPI)』は、アメリカ政府や共和・民主両党と繋がりが深い『フォード財団』や『カーネギー財団』等が資金を提供している。パナマ文書に関する報道統制が始まる前の4月5日。中国共産党機関紙『人民日報』系の『環球時報』は、社説で「アメリカ政府が特別の影響力を行使しており、アメリカに不利な情報は最小限に抑えられている一方、プーチン大統領のような欧米以外の指導者を一層大きく取り上げている」と指摘し、アメリカ政府の“陰謀説”を主張している。

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中国がアメリカの関与を疑うには、理由があった。中国は、ある“弱み”をアメリカ側に握られているからだ。伏線は、前回、習氏が訪米した昨年9月にあった。ワシントンの外交筋によると、同9月9日、中国共産党政治局員で、警察・司法を束ねる党中央政法委員会書記でもある孟建柱氏が、習氏の特使として、警察や情報機関等の局長級8人を引き連れてワシントンに降り立った。一行が向かったのは、テロ対策や出入国管理をする国土安全保障省。ジェイ・ジョンソン長官との会談で、「サイバー問題や他の問題について議論した」(ホワイトハウス発表)という。その後、複数の米中関係筋に取材した結果、公表されなかった“他の問題”とは、中国側から提示された2つの課題であることがわかった。①9月末の習主席の訪米における警備の徹底②汚職摘発を逃れてアメリカに潜伏する中国官僚の身柄引き渡しの要求――。特に孟氏が強く求めたのが、失脚した前党統一戦線工作部長・令計画氏の実弟である令完成氏の身柄だった。令計画氏は、胡錦濤氏が在任中、党中央弁公庁主任として党の指導部を支え、政治局員への昇格が確実視されていたが、2012年3月に息子がフェラーリで飲酒運転をした後に事故死。スキャンダルに塗れ、同年11月の党大会を前に統一戦線工作部長に転じたが、一昨年末に解任。昨年7月に「党と国家の大量の核心的機密を不正取得した」として、党籍剥奪処分を受け、今年5月、収賄国家機密の不法取得・職権乱用で起訴されている。弟の完成氏は、計画氏らの政治的立場が危ぶまれていた2013年末頃に渡米した。孟氏が完成氏の身柄を強く求めたのに対し、ジョンソン長官は行方について「我々もわからない」とだけ答えた。その上で、中国当局が海外に逃れた他の腐敗官僚や企業家も“猟狐(キツネ狩り)”と称して身柄を追っていることについて、懸念を伝えたという。双方は、企業情報を盗むサイバー攻撃については「両政府は実行・支援をしない」ことで合意したものの、完成氏の身柄引き渡しについては平行線のまま、首脳会談に持ち越された。

ホワイトハウスに隣接する迎賓館ブレアハウスの一室で、同9月24日夜、ワシントンに着いたばかりの習氏は、料理を挟んでオバマ大統領と向き合っていた。首脳会談に先駆けて、非公式のタ食会が開かれたのだ。同席が許されたのは、一部の側近のみ。同席した『国家安全保障会議(NSC)』アジア上級部長のダニエル・クリテンブリンク氏は夕食会前、「両国の国内外の重点事項について戦略的な議論をする為、極めて少人数で私的な会合にした」と記者団に語った。議論する内容については、「公式晩餐会の場では話せない、両国の意見に隔たりがある問題」とだけ答えた。同行筋によると、オバマ氏側は、中国が関与するとしているサイバー攻撃や南シナ海での岩礁埋め立てについて取り上げ、中国側の対応を非難。一方の習氏側からは、完成氏ら汚職摘発を逃れてアメリカに潜伏する中国官僚の身柄引き渡しを求めたという。習氏は2014年から、海外逃亡した官僚や企業家らの摘発と資産の回収に注力している。逃亡先としてはアメリカが最多。ただ、アメリカとの間で犯罪人引き渡し条約が無く、アメリカ政府の協力が無ければ身柄を引き取ることができない。「中国は国際社会と共に腐敗逃亡者を追い求めており、アメリカの支持と協力を望んでいる。腐敗分子を、海外の“逃亡天国”に居続けさせる訳にはいかない」。この夕食会の2日前、習氏はシアトルの歓迎式典でも態々この問題に言及し、アメリカ側を牽制。首脳会談後の合意文書では、「容疑者の身柄引き渡しや財産の回収にも協力する」との文言が入った。ただ、首脳会談でも、アメリカ側が完成氏の身柄の引き渡しには同意しなかった。中国当局は当初、完成氏の行方について明言を避けていたが、党の捜査機關である中国共産党中央規律検査委員会国際協力局の劉建超局長は今年1月、「(中国政府の)関係部門がアメリカ側と連絡を取っている」と述べ、完成氏がアメリカに渡ったことを認めた。完成氏を知る在米中国人によると、同氏は現在、アメリカの当局により保護されて暮らしているという。中国側が完成氏の身柄に拘るのには理由があった。複数の米中関係筋によれば、完成氏は渡米する際、中国高官が抱える汚職等の問題や軍事等を含む2000ファイルを超える機密情報を、メモリーカードに入れて持ち出したという。『フィナンシャルタイムズ』によると、アメリカの情報機関は完成氏から事情を聴いており、“最も有益な亡命者”と位置付けている。アメリカ側に渡した情報の中には、中国の核兵器の発射手順や、北京の中枢である“中南海”の警備状況といった最高機密が含まれているという。

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完成氏を巡っては、ワシントンでも様々な情報が交錯しているが、「アメリカ政府によって匿われており、複数の機密情報を提供している」という点は確実なようだ。中国当局にとっては、「機密情報に接していた党高官の親族がアメリカ側の手に落ちている」という事実だけでも、大きな痛手と感じているに違いない。私が北京特派員を終え、ハーバード大学客員研究員として渡米した2013年夏、米中関係がここまで悪くなるとは予想もしなかった。「先進的で柔軟な考えを持つ改革者」「自分の信念を持っている力強いリーダー」…。私がインタビューをしたアメリカの中国専門家や当局者は、国家主席になったばかりの習氏をそう評価していた。その直前に、カリフォルニア州サニーランズであった米中首脳会談では、“新型大国関係”の構築で合意。軍事や経済での協力が進んで、明るい両国関係の将来を語る専門家も少なからずいた。オバマ氏自身も習氏について、「鄧小平以来のあらゆる指導者よりも早く、幅広く自分の権力を固めた」と評価していた。その分析通り、習氏は「大虎も蝿も一緒に叩け」という号令の下、反腐敗キャンペーンを展開。胡錦濤指導部の序列9位だった周永康氏を始め、軍制服組トップだった徐才厚・郭伯雄両氏(共に党中央軍事委員会元副主席)といった大物を、汚職等の容疑で摘発した。何れも、江沢民氏が引退した後の“院政”を支えた側近たちで、改革の“抵抗勢力”とみられていた。習氏は、ライバルたちを根こそぎ排除して、急速に権力基盤を固めることに成功したのだ。アメリカの政府や専門家の間では、「党内の闘争に区切りをつけた習氏が、国内の改革や安定した外交政策の構築に踏み切るのでは?」との期待感があった。ところが習氏は、こうした予測とは反対の行動に出る。2013年11月、東シナ海で防空識別圏(ADIZ)を設定。南シナ海での人工島埋め立て、そして中国が関与したとされるサイバー攻撃によって、アメリカ政府当局者らの個人データやアメリカ企業の技術等が流出したことで、習氏への見方が厳しくなった。毛沢東時代に逆戻りしたような“神格化”キャンペーンを始め、民主活動家やメディアを引き締めたことも拍車をかけた。

最近では、習氏の指導力や権力基盤を疑問視する声も出始めた。中国内で、習氏に対する批判が公然と語られるようになったからだ。「人民の政府は、いつから党の政府になったのだ?」「人民の利益を代表しないメディアは、人民に見捨てられる」――。習氏が今年2月に『新華社通信』や『人民日報』等を視察した際、メディアに“絶対服従”するように指示したことについて、大手不動産会社の元会長である任志強氏が、中国版ツイッター『微博』上で批判した。任氏は、商務省高官を務めた父を持つ太子党の共産党員で、3700万人以上のフォロワーを持つ“物言う企業家”として人気を博している。政治局常務委員で、党中央規律検査委員会の王岐山書記とも親交があると、自著で明かしている。習氏の言論統制に不満を持っていたメディア関係者や知識人は、一斉に支持を表明。党中央規律検査委の機関紙も、『1人の率直な正論は、1000人の追従に勝る』と題した任氏を擁護しているとみられるコラムを掲載した。慌てた当局は任氏のアカウントを強制閉鎖し、党員として1年間の謹慎処分を決定した。更に翌3月には、新疆ウイグル自治区政府が運営に関わるニュースサイト『無界新聞』に、習氏への公開書簡が掲載された。「習近平同志、貴方は党と国家を未来に向かって率いていく能力を持っていない。私たちは、党の発展と国家の長期的な安定、そして貴方と貴方の家族の安全の為にも、党と国家の全ての職務から退き、党中央と人民に別の有能な指導者を選ばせるべきだ」。習氏が行ってきた経済・外交・内政を痛烈に批判する内容が書き連ねられていた。差出人は、“忠実な共産党員”という匿名になっていた。脅しとも言える辞任勧告だった。中国当局は犯人捜しに躍起になった。ニュースサイトの幹部の他、執筆が疑われる評論家らの事情聴取を繰り返したが、容疑者を特定できなかったようだ。周永康氏に推薦されて新疆ウイグル自治区のトップとなった張春賢書記の関与を疑う見方もあるが、真相は明らかになっていない。何れも、習氏の権力集中を批判する動きだ。“ポスト習”の指導部人事を左右する来秋の第19回共産党大会を控え、こうした反乱が先鋭化する可能性がある。では何故、権力基盤を順調に固めていたと思われていた習氏が、急激に失速し、反発を受けるようになったのだろうか。

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ここで、冒頭で示した“権力闘争こそが、中国共産党を永続させるための原動力”という仮説を元に、分析してみよう。習氏は、就任とほぼ同時に反腐敗キャンペーンに注力し、政敵やライバルたちを次々と失脚に追い込んだ。更に、これまで他の政治局常務委員らにも分散していた権限を一手に収める為、組織改革に踏み切った。『改革の全面深化指導小組』の他、軍の組織改革を進める『国防と軍隊改革の深化指導小組』、サイバー空間や情報政策を担う『インターネット安全保障及び情報化指導小組』等の新たな組織を次々と立ち上げ、自らがトップに就いた。これにより、李克強首相を始め、他の高官らの権限は習氏に吸い上げられる形となった。習氏は、名実共に権力を掌握し、闘争に終止符を打った。だが実は、このことが脆さの始まりでもあった。“権力闘争”という中国共産党の原動力を失ったからだ。先述した拙著『十三億分の一の男』では、今後、中国共産党にとっての最大のリスクは、“強大になり過ぎた習近平”と予測した。その理由として、次のように記した。「孤高の指導者となった習近平には、政敵と取引したり分業したりする余地は残されていない。何か失政をした場合、非難や抗議の矛先は習1人に向けられ、ほかの高官らに責任転嫁するわけにはいかなくなる。それが党全体の根底を揺るがす危険性もはらんでいる」。まさに今、経済・内政・外交面での問題に対する批判は、全権を握る習氏に向けられているではないか。拙著を読んだという中国共産党関係者は、現状に照らし合わせて、こう振り返る。「我が国は、“党と政府”・“軍司令官と政治委員”の関係のように、敢えて対立する組織や肩書を設け、相互に監視して競わせることで、組織の緊張感を保ち、切磋琢磨してきました。今のように、トップの力が強過ぎると、皆が萎縮して意見を言えず、リスクも取ろうとせず、組織の停滞を招いているのかもしれません」。党高官経験者を親族に持つ中国政府関係者は、「(習氏にとっての)転機は、(前述した)胡錦濤氏の側近だった令計画氏を摘発した昨年7月だった」とみている。

計画氏は、党の“中枢神経”とも呼ばれる党中央弁公庁トップの主任として、最高指導部の“番頭”と言える立場で、総書記に報告される様々な情報を捌く他、指揮下の中央警衛局を通じ、指導者たちの通信・警護・健康管理等も含めた政務の全般を取り仕切っていた。「総書記よりも共産党の最高機密を知っていた人物を摘発したことは、今となってはやり過ぎだったかもしれない。結果として、こうした情報が最大のライバルであるアメリカに渡ってしまい、我が国にとってはマイナスとなった。今後、反腐敗キャンペーンはペースを落とさざるを得ないだろう」。習氏が13億人のトップに上り詰めて4年が経とうとしている。関係者たちが言うように、反腐敗キャンペーンだけに専念している段階はもう終わっているのだ。就任当時、腐敗塗れの官僚を退治することに喝采を送っていた国民たちも、今や反腐敗キャンペーンを冷めた目で見ている。就職難・物価高・大気汚染を始めとする環境問題等、国民の不満は臨界点に達している。国民が今、指導部に求めているのは、こうした深刻化する問題の解決だ。では、習指導部はどのように山積する問題に対処していけばいいのか。ここでもう一度、“権力闘争こそが、中国共産党を永続させるための原動力”という命題に従って、解決策を考えてみたい。習氏が1人に権力を集中させ過ぎてしまったことで、原動力としての“闘争”を失ってしまった。ならば理論上は、「“権力闘争”を再び復活させれば、中国共産党の組織は活性化する」ということになる。だからといって、これまで繰り広げられてきた血で血を洗う政争を再び始めることを勧めている訳ではない。「今の中国共産党にとって必要なのは、平和的な“闘争状態”だ」と私は考える。習氏が集めた権限を他の高官らに徐々に委譲していき、党内の政策議論を活性化させる“知的な闘争”が必要ではないか。どんな名君だとしても、たった1人で13億人もの大国を完璧に率いていくことは不可能に近い。「習主席以外の党政治局員らは、仕事が無く、暇を持て余している」という話を最近耳にする。経済・法律・外交等、其々の分野に長けている高官らに上手く役割を分担させて、難局を乗り切ることが最善の策だと考える。その為には、メディアや知識人への言論の締め付けは逆効果と言える。毛沢東が新中国建国後に“百花斉放、百家争鳴”を唱え、自由な言論活動を求めたように、活発な議論の中からこそ有効な政策は生まれる。今こそ、山積する問題の解決をする為、英知を結集するべきである。残された時間は僅かだ。


峯村健司(みねむら・けんじ) 朝日新聞ワシントン特派員。1974年、長野県生まれ。青山学院大学国際政治経済学部国際政治学科卒業後、1997年に『朝日新聞社』入社。大津支局・広島支局・大阪本社社会部を経て、2005年から1年間、中国人民大学に留学。2007年5月から中国総局特派員。2011年、中国の安全保障政策や情報政策に関する報道で『ボーン・上田記念国際記者賞』を受賞。


キャプチャ  2016年夏号掲載

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