【中外時評】 豊洲、巨大な箱にあらず…卸売市場、揺らぐ存在意義

本来であれば明日、東京都が新設した『豊洲市場』では、開業の式典が盛大に開かれた筈だ。しかし、土壌汚染対策の工事内容が当初の計画と違うことが発覚し、現時点で開場の目処は立っていない。豊洲を巡る問題で明らかになったのは、市場開設者である東京都が責任を疎かにし、豊洲を単なる“箱物”と捉えていたことだ。築地市場協会の会長を務める大手卸『中央魚類』の伊藤裕康会長は、「卸売市場に巨大な施設はいらない」と話す。しかも、巨額の予算をかけながら、市場参加者の間では、「入居施設にトイレが無い」「スペースが狭い」「駐車場に屋根が無い」といった不満が噴出した。現行の卸売市場法は、食料流通の基幹である中央卸売市場の開設者を自治体に限定する。民間企業は開設できない。更に、築地や移転先の豊洲には国内外の産地から食品が集まり、他の卸売市場にも転送される。決して東京都民だけの台所ではない。東京都は今月1日、「地下工事法の変更は都幹部8人に責任がある」という検証報告書を発表した。だが、都にとってより重要なのは、卸売市場を軽視する姿勢を改め、安全性の確保は言うまでもなく、利便性の高い市場を造ることだ。卸売市場の地盤沈下が叫ばれて久しい。小売大手やインターネット取引の商店は、産地との直接取引を増やす。水産物の場合、卸売市場を経由する比率は、1998年度の71.6%から2013年度時点で54.1%まで低下した。卸売市場の存在意義は、公正で透明な価格形成に加え、全国から様々な食品を集め、分配する流通機能にある。ただ、卸売市場を通らない流通の拡大は、「コストに見合う価値が今の市場にあるのか?」と問いかけている。政府の『未来投資会議』と『規制改革推進会議』は先月開いた合同会合で、農業の生産性を高める為の提言を纏めた。韓国等と比べ割高とされる農業資機材の価格引き下げや、農産物の流通構造の改善を目指す。提言で注目すべきは、卸売市場への言及だ。「食料不足時代の公平分配機能の必要性は小さくなり、物流拠点の1つになっている」と存在意義の低下を指摘。「卸売市場法という特別な制度に基づく時代遅れの規制は廃止すべきだ」と踏み込んだ。

農林水産省が2014年度に実施した調査で、店頭価格に占める生産者の手取りは、青果物が45%、水産物は29%に留まる。価格の大部分は、小売りを含む流通コストだ。水産物の手取りがとりわけ少ないのは、消費地と産地の2ヵ所に市場がある多重構造の為だ。「流通を効率化して生産者の所得を増やせ」という合同会合の提案は当然と言える。農水省は卸売市場法により、5年に1度、制度の見直しを含め、市場全体の整備計画を纏める。しかし、今年で10回目となる計画も、流通の変化には追いついていない。卸売市場を管轄する農水省に対し、総務省は2011年にもっと改革を進めるように勧告を出した。勧告は、①卸売市場の設備投資がどれだけ効果を上げたかについて検証が甘い②取引効率を上げる為に推進する電子商取引が浸透していない③競り前の相対取引に煩雑な申請を求める等流通の変化に合わない規制が残る――こと等を問題視した。この指摘が豊洲の新設に活かされたとは言い難い。生産者や外食・流通企業が求めるのは、巨大な箱ではない。安全で使い易く、流通コストの安い市場だ。その為には、取引の制度や慣行でも魅力を高める改革が要る。東京都だけで11、全国で64もある中央卸売市場の統廃合も遅れている。取引額が減る中で、統廃合の遅れは卸・仲卸の経営を圧迫する。築地市場の仲卸に、豊洲への移転に後ろ向きな企業が多い。その背景には、赤字続きで移転費用を捻出できない事情もある。市場開設者の東京都には、市場参加者をチェックし、悪化した経営を改善に導く責任がある筈だ。卸売市場法の改正で、2009年には卸売手数料の決め方が自由化された。市場間・卸間の競争を促す狙いがある。ただ、水産物で5.5%、野菜が8.5%、果物が7%といった手数料の設定に変化は無い。卸にすれば、取引が低迷する中での手数料引き下げは死活問題だ。卸売市場全体が悪い循環に陥り、存在意義の薄れた市場が、食品流通から孤立している。現状の変革は容易ではない。政府・自治体・市場関係者が問題意識を共有し、流通の変化を踏まえた市場を造らなければ、存続は難しい。 (論説委員 志田富雄)


⦿日本経済新聞 2016年11月6日付掲載⦿
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