【Global Economy】(10) 竹森俊平の世界潮流:原油価格、複雑な駆け引き

世界経済に大きな影響を及ぼす原油価格を巡り、産油国の思惑が交錯している。産出量を減らして価格を引き上げられるか。慶應義塾大学の竹森俊平教授(国際経済学者)が、各国の動きの背景を解説する。

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9月の『石油輸出国機構(OPEC)』臨時総会で原油の減産が暫定的に合意されて以来、原油価格は上昇した。だが、正式な合意に至るかどうかは、今月30日の総会待ちだ。それまでの道程は険しい。OPECとは、石油輸出国の“カルテル”だ。生産者の共謀で供給量を減らし、価格を吊り上げるカルテル行為は消費者に迷惑で、経済全体にもマイナスだ。それ故、国内のカルテルは独占禁止法で禁じられている。他方、主権国家同士が結ぶカルテルを取り締まれる国際機関は存在しない。だからOPECが存在する。といっても、輸出国が自由に価格を吊り上げられる訳ではない。“ただ乗り”が障害になるのだ。OPECのリーダー国であるサウジアラビアと、他の主要なメンバーが供給を減らし、原油価格を1バレル=50ドルに引き上げたとしよう。すると、カルテルに参加していない産油国の収入も1バレル=50ドルに上昇する。カルテルに不参加なら、その国は供給を減らす必要はなく、高騰した価格で原油をいくらでも売れる。カルテルによる価格高騰の恩恵に“ただ乗り”できるのだ。主権国家間のカルテルを取り締まれる国際機関は存在しないが、同時に、カルテル破りの主権国家を制裁できる国際機関も存在しない。“ただ乗り国”の供給が拡大すれば、需給が緩み、吊り上げた石油価格も崩れる。これがOPECの最大の弱みだ。

OPECとしては、“ただ乗り国”が共同歩調を取るよう説得するしかない。だが、最近の原油市場では、これが難しい。幾つかの理由がある。第一は、シェールオイルの生産が増えたアメリカが、主要な原油産出国になったことだ。アメリカは独禁法が厳格な為、OPECに参加できない。値崩れが激しかった2014年、サウジアラビアは「更に価格が下落すれば、アメリカのシェール生産が激減する」とみて、減産しない方針を取った。それで価格は更に下がったが、アメリカの企業はコスト削減で対応した為、生産は微減に留まった。若し価格が今後上昇すれば、アメリカの企業は俄かに増産する。第二に、核開発を巡るアメリカとの合意が成立したイランが、今年1月に経済制裁が解けて、原油を広く輸出できるようになった。イランは、輸出量を制裁前の水準に戻す為、増産を図っており、減産に及び腰だ。イラクも対『IS(イスラミックステート)』の戦費が嵩み、原油輸出を拡大する方針で、減産の意思は無い。純粋に経済的な観点でも、輸出国の思惑は異なり、妥協は難しい。加えて、イスラム圏ではシーア派とスンニ派の勢力争いが続く。シリアやイエメンの内戦は、シーア派の大国・イランと、スンニ派の盟主・サウジアラビアの“代理戦争”の様相を呈し、両国の合意を一層難しくしている。OPEC非加盟の石油大国・ロシアは、イランやサウジアラビアの合意が成立しない限り、自分だけが犠牲になって減産するつもりはない。抑々、現在の低い原油価格は、需要側では中国経済の減速や省エネ型経済への変貌、供給側ではアメリカのシェールオイル生産という構造要因によるものだ。OPECで減産合意が成立しても、今後の原油価格は弱含みだろう。産出国、特にサウジアラビアの経済は重大な影響を受ける。アメリカは従来、石油の安定供給を重視して、輸出第1位のサウジアラビアを大切にする方針を取ってきた。ところが、自国内の生産が拡大してから考えが変わったようだ。イランに対する原油の禁輸解除や、アメリカ議会が2001年9月11日に発生したニューヨーク同時多発テロへのサウジアラビアの関与に対し、遺族の訴訟を認めたこと等はその表れだ。

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日本に石油資源が無いのは、経済を正常に運営する為には幸運だった。モノづくりをしなくても外貨収入が転がり込む産油国では、産業の労使を挙げての品質改善努力が無くなる。賃金も為替レートも、原油による外貨収入で押し上げられる為、製造業は国際競争力を喪失する。政府も、歳入を原油収入に依存し出す。すると、変動が激しい原油価格の影響で、歳入は不安定になる。ノルウェーのような賢明な産油国は、それを踏まえ、低い原油価格を想定して歳入を予測し、その歳入の下で財政が均衡するように歳出を抑制する。実際の原油価格が想定値より高く、歳入超過になれば、超過分を政府系投資ファンドで運用するのだ。これに対し、新興産油国は原油価格を高めに想定し、歳入予測を嵩上げして、バラマキに等しい歳出を続けた。自国民にだけでなく、政治指導者のイデオロギーに適った対外的バラマキがなされたのだ。反米派だったベネズエラのウゴ・チャベス前大統領によるキューバへの経済支援や、サウジアラビア政府によるスンニ派の勢力拡大の為の莫大な出費等は、その例だ。アリとキリギリスの寓話通りに、原油価格の高い時代に金遣いの荒かった国ほど、低価格時代になって生活の激変や対外債務の膨張に見舞われている。不況に喘ぐべネズエラでは、政治の混乱が内戦の一歩手前まで進行している。サウジアラビアも今年、原油依存経済からの転換を口実に、外債募集に踏み切った。軈て枯渇する資源に所得を依存する国が、貯蓄を増やそうとせずに借金に走るのは、今後の生活を貯蓄で賄うべき高齢者が借金をするのに似た行動だ。初めての外債募集ということで、今回は低金利で起債できたが、今後も財政赤字を借金で埋め続けるようなら、金利が急騰し、財政危機を招くだろう。原油収入への依存は麻薬依存と同じで、断ち切るのが難しく、“脱石油”への転換に成功した例は少ない。サウジアラビアの経済が不安定になれば、中東は益々危険になり、原油供給への懸念が高まる。


竹森俊平(たけもり・しゅんぺい) 経済学者・慶應義塾大学経済学部教授。1956年、東京都生まれ。パリ大学留学(サンケイスカラシップ)。慶應義塾大学経済学部卒。同大学大学院経済学研究科修了。同大学経済学部助手やロチェスター大学留学を経て現職。著書に『世界経済危機は終わった』(日本経済新聞出版社)・『欧州統合、ギリシャに死す』(講談社)等。


⦿読売新聞 2016年11月4日付掲載⦿

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