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【宇垣美里の漫画党宣言!】(06) 受験には敗れたけれど

今でも覚えている。ストーブも無い空き教室でひたすら過去問を解いていた時の息の白さ。帰りの電車で単語帳と睨めっこしていると、あっという間に最寄り駅についたこと。自分の受験番号が見つからなかった時の足元が崩れていくような絶望――。あれから私は、「何をどんなに頑張ったって、やればできる筈の勉強ですら結果を残せない人間なのだ」という強烈なコンプレックスがこびりついて離れない。あぁ、私にもこんな先生がいたらなぁ。『初めて恋をした日に読む話』の主人公、予備校講師の春見順子(31)は、東大受験に失敗してからは母親に疎まれ、ぱっとしない毎日を送っていた。ある日、厳しい父親にろくでなしの烙印を押されたピンク頭のヤンキー高校生・由利匡平と出会い、2人で東大受験を目指すことになる。匡平の「父親を見返したい」という思いから始まったこの戦いは、受験で自信を、度胸を、素直さを失った順子のリベンジでもある。やっと自分の運命を切り開く方法を見つけた匡平がどんどん勉強にのめり込んでいく姿に、過去の自分を見た順子。ずっと受験の失敗を引きずっている自分のようにはならないようにと、誰よりも匡平を信じ、詰られれば本気で怒り、合格したら父親に殴り込みに行こうと約束する。それはきっと順子が、あの頃一番してほしかったことだから。

遂に東大C判定まで昇ってきた匡平の努力を尊敬し、合格する時は絶対傍にいたいと思うからこそ、順子は自覚してしまった恋心に蓋をする。一方の匡平は余裕すらあって、ちょっと笑ってしまう。「必ず合格して幸せにするよ」と言う姿は、まるでプロポーズだ。恋のライバルには「取られたりしない自信あるから」としれっと言い放ち、「いつか必要とされなくなるのが塾講師だ」と話す順子に、「先生がいくら手離しても俺何回でもつかみに行くんで」とひたと見つめる。ひー。若いって凄い。キュンの大渋滞で動悸が止まりません。更に、従兄弟の雅志、匡平の担任の山下も其々、順子に思いを寄せる。何というよりどりみどり空間! 見ているこっちがくらっとするくらい思いの詰まった言葉のオンパレードだというのに、当の順子は受験に集中し過ぎて等閑になっているのはご愛敬だ。受験本番まで愈々あと1年をきった。ここまで頑張ってきたんだもの、2人には報われてほしい。別にその先で結ばれなくったっていい。ただ、あれから諦め癖がついてしまった順子が、非行でしか意思を示せなかった匡平が、互いに親に肯定されず、寄る辺なく生きてきた2人が少しでも自由になってくれたら、どれだけ私が救われるだろう。そう、きっと私も彼らを応援しながら、自分を重ねている。順子、「こんな自信のない自分が誰かに好かれるわけない」なんて思わないでよ。私たちは確かに一度負けてしまったけれど、だからこそわかることもある筈だ。全てを糧として立ち上がる、その姿を見たら、私もあの日から解放される気がするんだ。


宇垣美里(うがき・みさと) フリーアナウンサー。1991年、兵庫県生まれ。同志社大学政策学部卒業後、『TBS』に入社。『スーパーサッカーJ+』や『あさチャン!』等を担当。2019年4月からフリーに。近著に『風をたべる』(集英社)。


キャプチャ  2019年8月29日号掲載
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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

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