【ヘンな食べ物】(12) サルの脳味噌、争奪戦

全ては慣れ――。そう悟ったのは、大学探検部の仲間とアフリカのコンゴに行った時である。最初、現地の村人がサルを獲ってきた時、正直「げっ」と思った。サル料理は先ず、焚き火で毛を焼くところから始まる。毛がすっかり焼け落ちると、白い皮膚が露出する。この時のサルは、大きさといい肌の色といい、人間の赤ん坊にそっくりなのだ。しかも、ぶつ切りにして塩と唐辛子で煮込んだ肉は“サル臭い”。食べたことのない人でも、「サルは臭そうだ」と思うだろう。で、実際にかぶりつくと、本当にイメージ通りの臭さなのだ。“不潔な獣臭”とでも言おうか。初めは閉口したが、2~3回食べると慣れた。赤身でコクのあるゴリラやチンパンジーの肉とは全然違い、白身のあっさりした肉で、鶏肉に似ている。私同様、初めは嫌々食べていた探検部の仲間たちも、どんどんサル肉が好きになっていった。食糧が乏しくなると、逆に味覚が鋭くなり、サル肉を部位毎に楽しむようになった。例えば、肋の肉。中々噛み切れないので、元気な時は「これ、ゴムかよ…」とうんざりしていたが、飢えてくると何度でも咀嚼して、砂肝のような旨味や食感を楽しむようになった。中でも人気だったのは脳味噌だ。何故か、コンゴ人も脳味噌は食べなかったので、私たち日本人グループのところに頭蓋骨ごと回ってきた。サルは歯を剥き出し、仏教絵図で描かれる“餓鬼”そっくりの凄まじい表情をしているが、気にする者は誰もいない。1匹のサルには当然、脳味噌は1つ。しかも、精々スプーン2口分だ。そこでジャンケン。勝者は唯1人。飢えの為に目眩がするほど弱っていたのに、この時ばかりは「ジャンケン、エッ!」という男たちの気合いに満ちた声が、ジャングルに響いたのだった。


高野秀行(たかの・ひでゆき) ノンフィクション作家。1966年、東京都生まれ。早稲田大学第1文学部仏文科卒。『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)・『アジア未知動物紀行』(講談社文庫)・『世界のシワに夢を見ろ!』(小学館文庫)等著書多数。


キャプチャ  2016年11月10日号掲載
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