【トランプショック】(01) 社会分断、危うい大衆迎合

20161111 11
“革命”と呼んでもいいだろう。アメリカ国民は、過激な異端児に核兵器のボタンを預け、経済と政治の変革を託した。その衝撃は、『ヨーロッパ連合(EU)』からの離脱を決めたイギリスの国民投票の比ではない。「アメリカを再建し、アメリカンドリームを復活させる」。共和党の“不動産王”ドナルド・トランプ氏は昨日未明、地元のニューヨークで高らかに宣言した。8年ぶりの政権奪取に加え、上下両院を制する完全勝利だ。史上稀にみる不人気候補のどちらがマシかを競った大統領選。民主党のヒラリー・クリントン前国務長官が女性蔑視発言や連邦所得税の不払いを突いても、トランプ氏は倒れなかった。ドイツの経済学者であるマヌエル・フンケ氏らは、先進国20ヵ国が1870~2014年に実施した約800の議会選を分析した。金融危機に襲われた国では、ポピュリズム政党や極右政党の得票率が平均3割増えていたという。アメリカも大衆迎合の濁流に呑まれ、国内が真っ二つに割れてしまった。不満と怒りを溜め込んだ庶民の反乱が背景にある。グローバル化の痛みに金融危機の打撃が重なり、低中所得層の悩みは深まった。

増え続ける移民と人種構成の変化、そして同性婚や妊娠中絶等を容認する社会の変容に苛立つ保守的な白人層も少なくない。ところが、既存の政治は支配層に牛耳られ、庶民の声が届かない。我慢の限界に達した低中所得層や白人層が主流派に見切りをつけ、本物の変革を求めて非主流派に乗り換えたというのが、トランプ旋風の本質だろう。「トランプ氏は庶民の弱みに付け込んで、偏狭なナショナリズムの封印を解いてしまった」と、アメリカの政治学者であるフランシス・フクヤマ氏は言う。自由貿易の拡大や移民の流入に背を向け、国を閉ざそうとする“アメリカニズム(アメリカ第一主義)”の危うさは否めない。アメリカ経済は堅調な回復を維持しているが、技術革新の停滞や高齢化の影響で潜在成長率の低下に喘ぐ。「環太平洋経済連携協定(TPP)への反対や、メキシコからの不法移民を阻む壁の建設は、経済再生の処方箋になり得ない」と、元アメリカ議会予算局長のダグラス・ホルツイーキン氏は話す。内なる経済不安は、対外的な孤立主義も誘発しつつある。「外交や安全保障の世界には、市場の“見えざる手(自動調整機能)”は無い。アメリカの“見える手”が必要だ」。『アメリカ外交問題評議会』のリチャード・ハース会長は、日本やヨーロッパとの同盟関係見直しを唱えるトランプ氏に警鐘を鳴らす。トランプ氏の公約がすんなり実現するとは思えない。だが、自由で多様なアメリカが著しく変質し、社会の深刻な分断と民主主義の劣化を露呈する懸念は拭えない。世界は、経済の縮小均衡と国際秩序の空白に怯えながら、緊迫の4年間に突入する。 (ワシントン支局長 小竹洋之)


⦿日本経済新聞 2016年11月10日付掲載⦿
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